第七話 能力
盗賊頭は馬車にいた時は暗くてよく分からなかったが右腕に腕輪を付けていた。ファッション、なわけないよな。恐らくあの腕輪は魔道具だ。魔道具はその道具自体が魔法を行使出来るように魔法陣が組み込まれていて、魔力のない人間でも使用できる。マジックランタンなんかがその代表例だ。マジックランタンのような安物は魔力切れを起こすと再度魔力を注がなければならないが、奴が装備しているのは魔道具の中でも防具などに魔法陣が組み込まれている物で、これは大気から魔力を吸収し魔力切れを起こさない高価なものだ。
「貴族のボンボンだと思ってたが違えようだな」
「メイリア!檻の中に!子供達を守ってくれ!」
メイリアは頷いて檻の方に走った。俺はその間奴の動きを見逃さないよう注視していた。
「黙って見てていいのか?」
「お前が先だ。お前を殺し、女を殺しガキ共を売り飛ばす。それで終わりだ。俺もめんどくせえこたぁ嫌いだからよ・・・とっとと死ねや」
「いきなりかよ!」
盗賊頭の大振りの振り下ろし。俺は難なく後ろに避けるが盗賊頭の剣は俺が今までいた場所の地面を破砕していた。なんて力だ。あんなのまともに喰らったらソッコーお陀仏だ。
さらに飛び散った小石が礫となって俺の体を撃ち抜く。
「ぐっ・・・馬鹿力が・・・」
「すげえだろ?この腕輪の効果だ。身体能力を倍にすんだとよ」
「金無さそうなのによくそんな高価なものが買えたな」
「奪ったんだよ。たまたま襲った商人が持ってやがった。ツイてるぜおれぁ」
「偶然奪った魔道具それで、その余裕か・・・」
「ああそうだ。だが気に入らねえことがある。テメエのその余裕はなんだ?」
「余裕なんかねーよ。お前程度に、負けて、られないだけだ」
「ガキがぁ!!!」
盗賊頭の一撃は当たりはしなかったが余波の小石を喰らってしまい骨折と内出血確定だ。
かなり痛むがこの位ならまだ動ける。
盗賊頭は猛攻を続けるが俺には一切当たらない。俺はずっと奴の攻撃が当たらないギリギリの位置取りをしていてそのお陰か奴は当たらない攻撃を延々と振り続け疲労していた。
「てめえ・・・何なんだよ!ちょこまかと!!クソイラつくヤローだぜテメエは!!!何で当たんねえんだよ!!クソが!!」
「・・・・」
認めるしかない。これは俺がクソジジイ、いや神に与えられた能力だ。王都での訓練ではあまり自覚出来なかったが今、本気の殺意を受けて初めて自覚した。俺の能力は簡単にいうと危険な位置が勘で分かるというものだ。恐ろしく分かり辛いし面倒臭い能力だ。しかしこれは誰にでも持ち合わせているものだ。例を一つ挙げると動かずバット位の長さ棒を振り回している人物がいるとして、その人物にどれだけ近付けるかということだ。勿論離れれば離れるほど安全だ。4、5m離れていてもまだ大丈夫。10cmだったら当たる。ならこの距離なら大丈夫だろうと人はその見極めを無意識にしているのだ。その感覚を1ミリの狂いも無く見極められるというのが今分かっている俺の能力の一辺だ。めちゃくちゃ地味だが使い方次第だ。勿論弱点も多い。
「おらあああああ!!!!」
再び盗賊頭の剣を後ろに避ける。だが今度は無闇に攻撃している訳じゃなさそうだ。そして気付いたら角にまで追いやられてしまった。不味いぞ・・・能力の弱点1。今の俺は後ろに下がることでしか攻撃を躱せない。なのでこの状況にならないように動いてたはずだが相手の方が戦闘に関しては一日の長があるようだ。
「壁際ならお得意の避けも無理だろ?」
「くっ」
「へっ図星かよ」
弱点その2。効果時間が短い。壁際に追い込まれた時に既にこの能力の効果は消えていた。
他にも弱点はいくつもあるが・・・まあ今は関係ないだろう。
能力の効果も切れ壁際の角に追い詰められた俺だが、奴を倒す策はある。というか奴の一撃目を見て思い付いた。成功するか分からない土壇場の一発勝負だ。問題は盗賊頭、奴がその行動を起こすかだ。
「確かにアンタの言う通り、壁際に追い込まれてしまった俺はアンタの攻撃を躱す事が出来ない・・・だが!前ならどうだ!?一か八かだ!アンタが向かって来る時、全速力でアンタに突っ込む!」
「バカか?剣とナイフのリーチを考えろよ。こっちが先に串刺しにして終わりだ」
「やってみなきゃわかんねーだろ!!」
俺は宣言通りナイフを構え盗賊頭に速攻を仕掛ける!盗賊頭は「バカが」と呟いた後、同じように剣を突きだして俺を刺し殺しにくる。速い!俺が一歩を踏み出す前に既に奴の剣は目の前まで迫っていた。
「しねやぁ!!!」
奴の鋭い一撃は避けようとする俺ごと洞穴の壁に突き刺さる。
「がはっ・・・・」
「ガキの串刺し一丁上がりだ」
「くそ・・能力切れたら、これくらいも、避けられないのか・・・だが、作戦、は、」
「あ?何ブツブツ言ってやがる。イカれたか?いや初めからそうだったか・・・躊躇なく俺の手下共ぶっ殺したもんなぁ。あ?抜けねえ・・・ガキ・・・まさか・・お前最初から・・・」
「じゃあな」
「テメぐえっ」
盗賊頭が自分が突き刺した剣を引き抜こうとする。勝ったと思って油断している今が好機。俺は盗賊頭に持っていたナイフを投げつける。
俺の投げたナイフが盗賊頭の首に突き刺さる。奴はそのまま数歩下がって後ろに倒れこんで絶命した。死ぬまでの間ずっと俺を睨みながら。作戦は半ば成功した。壁際で策がないから正面突破しかないという演技をして、突きを誘発するまでは良かったが少ししか躱せなかったのは予想外だ。おかげで今の俺は脇腹をざっくりいかれていて手で圧迫止血中だ。そしてその後の行動も投げナイフという安定性に欠ける方法をとらざるを得なかった。だが、勝ちは勝ちだ。
「メイリア・・・終わったぞ・・・」
馬車に声をかけるが反応がない。くっ血を失い過ぎた。フラフラしてきた・・・
「龍一。大丈夫だった・・・龍一!?」
メイリアが駆け寄ってくる。彼女は俺の傷を見てか驚愕している。
「あーきつ。ちょっと横になるわ・・・」
「あいつを倒したのね。急いで治療しなきゃ・・・ヒール!」
メイリアが魔法を唱えると体の痛みは少しはましになった。使えたんだな、魔法。
「ふー。ちょっと良くなった気がする。メイリア。今後の予定だが・・・アッシュくーん。でておいでー。何もしないからー」
「ひいいいいい」
この洞穴での騒動全てに知らぬ存ぜぬを突き通していた男、アッシュ。盗賊頭を倒した俺にビビってるのか目も会わせない。
「アッシュに運転させて西の集落に向かってくれ。そのために殺さなかったんだから」
「はあ!?アンタ治療はどうすんのよ!王都で治療しなきゃ・・・」
「メイリアも使ってたし治癒魔法が得意な奴もいんだろ?子供達も早く家に帰りたいだろうし、親御さんたちも懸命に探してるはずだ。早く安心させてやろうぜ」
「龍一がそういうなら分かったわ。ただ安心して。龍一の怪我も絶対にすぐ治させてもらうから」
「ああ、頼んだ。じゃあ処理とこっからはお前に任せた。俺は・・・取り敢えず・・・・」
全く何が親御さんが心配するだ。両親をおいて異世界に来たんだから特大ブーメランじゃないか。心の中で自分を諌めながら俺の意識は深く沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます