第六話 盗賊
ガタガタと激しく揺れる車内。俺は今馬車に乗せられている。馬車と言っても檻に入れられた商品を隠して運ぶための偽装馬車だ。俺はその中の檻に数人と一緒に入れられていた。
そしてそこにはまさかの人物もいた。
「なんでメイリアまで捕まってんだよ!!」
「子供を人質に取られたの!!仕方ないでしょ!!」
「ぐっ確かに仕方ないが・・・ああもう龍二ーーーー!!!助けてーーーー!!!」
盗賊に捕まるなんてもんは龍二のヒロインの誰かが捕まってそれを龍二が颯爽と助けるっってのが普通だろ!どう考えても俺の役目じゃねーよ!なんて泣き言言っても仕方がない。状況を整理しよう。
気絶した俺が目を醒ますとそこは檻の中だった。檻には他の人物もいた。
そう、少し前に別れたエルフのメイリアも捕まっていたのだ。そして他に捕まっているのはエルフの子供達。しかも全員少女だ。この子達が捕まっていることから、推測できることがある。俺達を檻にいれたこいつらは亜人拐いの盗賊連中だ。そしてこの国、奴隷禁止のグランベルグ王国にいるということはメイリアの言ってた国に巣食う悪徳領主に届けるためだろう。デリバリーエルフ、略してデリエルだ。そして分かりたくなかったがその依頼主は十中八九ロリコンだろう。異世界とはいえYES!ロリータ!NO!タッチ!の掟を破っている依頼主は極刑にすべきだ。いーけないんだ。いけないんだ。王ー様にいってやろー。あと一つ言っておくと俺はロリコンではない。
「おい!うるせぇぞ!」
「ヒィィすいません!」
「お前の声もな」
「へい。お頭」
隠された馬車の荷台にいるのは俺達だけではない。当然盗賊の連中もいる。人数は少なく馬車を動かすアッシー君が一人、そして檻を囲むように3人。4人しかいない。協力者もいるんだろうが、4人なら脱出の機会があるかもしれない。何より大きいのは俺とメイリアには、エルフの子供達が付けている首輪ではなく縄のようなもので縛られているということだ。しかも後ろ手ではなく前で。さらに檻の入り口に鍵はなくこれも縄を結んでいる。
こいつらひょっとしたらバカなのかもしれない。そして首輪も買えないほど貧乏なのかもしれない。
「あのー、一つ聞いてもいいですか?」
「あんだよ?」
「僕たちは何処に向かっているんですか?」
子分ぽいやつが頭と呼ばれていた奴にアイコンタクト。許可が出たみたいだ。
「お前たちは今、西のエルフ集落を避けながらその奥の街リリンに向かっている。そこの領主に売りつけるのさ!エルフのガキは高く売れるからなあ!」
「いやあああああああ」
「家に帰してぇ!!」
その言葉に泣き叫ぶエルフの子供達。なんとかメイリアが抱きしめ慰めている。
「そのエルフの女も貧相な体つきだ。おまけとして渡したら喜ぶだろうよ」
「・・・・・」
顔怖!!抱きあっているので子供達には見えないがメイリアは鬼の形相でめっちゃキレてる・・・子供の前だから我慢しているようだ。
「僕は?」
「お前、王城から出てくるのをみたぜぇ。騎士団でもねぇしどっかのボンボンだろ。そういうのは人質にすんだよ」
「そんなあ!」
よかった。俺が異世界人だとはばれてないみたいだ。俺の演技も相まってか貴族の坊っちゃんだと思ってるようだ。棒演技だったんだけどな。盗賊は相変わらずベラベラ喋ってくれている。自分達が完全に優位に立っているからだろうか。どうせ逃げられないのだから言っても構わないとでも思っているのだろう。
「アシュー、もうすぐ夜だ。この辺に洞穴あったろ?そこで一晩明かすぞ」
「は、はい!」
頭が馬車を運転する奴に命令する。アシューというらしい。反応からして盗賊の中でも地位が低そうだ。洞穴で一晩と言っていたがそこが脱出のチャンスかもしれない。盗賊に監視されているせいでメイリアやエルフ少女達とそういう話は出来なかった。だがぶっつけ本番でもやるしかないんだ。でなければエルフ少女達は売り飛ばされてしまう。
グラグラと揺れていた荷台の揺れが収まる。馬車が止まったようだ。洞穴に着いたのだろう。全員降りて行く盗賊達。周りの安全確認で出ていったようだ。チャンスは今しかないと思った俺は小声で話し始める。
「メイリア、その娘達はお前の村の子供か?」
「そうよ。」
「ならその子達を守っててくれ。俺があいつらを倒す。メイリア、馬車の扱いは?」
「馬車は無理よ。それにアンタ武器ないじゃない。私がやるわ」
「お前も弓ないじゃん」
「弓が無くてもある程度は戦えるの。頭以外は余裕よ」
「でも・・・」
「それしかないでしょ?」
「分かったよ。行動は頭がいない時だ。情けなくてすまん」
「いいのよ別に」
洞穴に来てからしばらくの時間が経った。聞こえて来た話を要約すると盗賊は一人起きて見張り、他3人は睡眠をローテーションで行うようだ。
先ほど脱出のチャンスといったがそれはあくまで檻からの脱出だ。この状況、どうあがいても盗賊から逃げだすことはできない。馬車を運転できない俺たちは走って逃げるしかない。
子供がいるのを考えると確実に捕まるだろう。だから、倒すしかないんだ。俺はそれをメイリアに任せてしまった。この判断は正しいのか?今も俺は決められずにいた。
夜も更けてきた頃、神経を集中させ馬車の外の音を聞いているとこんな会話が聞こえてきた
「おい、ジュード」
「なんすか、お頭?」
「おれぁ糞してくる。代わりに見張っとけ」
「ヘイヘイ。お頭の糞は臭ぇんで出来るだけ遠くでお願いします」
「ハッしゃーねーな」
遠ざかる足音が一つ、音は段々と小さくなりやがて聞こえなくなった。
下品な会話だが・・・
チャンスだ!
既に緩めておいた手首の縄を外し檻の縄も解きにかかる。縛りが甘かったのか数十秒で外れた。そして俺とメイリアはメイリアを先頭に檻の外へ、俺はそこで待機し、メイリアは馬車の荷台の外に出る。
「てめぇ!どうやって抜け出しやがった!!」
「普通によ!」
ジュードと呼ばれていた盗賊が驚きながらも既に剣を構えて臨戦体制だ。
メイリアが駆ける。速い!龍二ほどではないがかなりの速さだ。メイリアはその速度でジュードの後ろに回り込みジュードの腰に付けていたナイフを奪い取る。なんて手際の良さだ。てかあのナイフ俺のやん。バレずに戦いを眺めているとズボンをくいっと軽く引かれる。
「お兄さん。メイリアお姉ちゃん大丈夫?」
話かけてきたのはエルフ少女の一人だ。
「きっと大丈夫。メイリアは強いんだろ?」
「メイリアお姉ちゃんは・・・集落だと未熟者って言われてる」
「何!?」
洞穴内に突如響く声。
「くっ、や、やめなさい」
「てめえ・・・!よくもやりやがったな!!」
メイリアの方向を見るといつの間にか押し倒され両手を抑えられていた。盗賊の方は脇腹に刺し傷があり、そこから血が溢れている。作戦は失敗したようだ。
「おいどうしたジュード?我慢できなくなったか?俺も混ぜろよ」
「コルスか!!このアマ俺を刺しやがった!許さねえ!犯したあとぶっ殺す!!」
「ジュードがこうなったらもう止まんねえな。俺も楽しむとするか」
物騒な会話が聞こえる。メイリアを犯して、殺すだと・・・
「お兄ちゃん・・・・」
エルフ少女3人の中でも一番幼い子が不安そうにこっちを見てる。
「お前らは檻の中で待ってろ。メイリアお姉ちゃんは俺が助けるから」
俺は荷台から様子を確認する
「いやあああああああ!」
メイリアの上に跨がる盗賊。メイリアは服を引き裂かれ半裸に近い状態だ。盗賊の下卑た笑い声。メイリアの悲鳴を聞いた時、俺の中のなにかが切れた。
荷台から飛び出し洞穴内の両手で持つ位の石を持ち上げる。普段なら重さを感じているところだが今は何も感じない。それを持った俺はお楽しみ中の盗賊に静かに近づき、思い切り振り上げたそれを盗賊の後頭部に叩きつけた。
グチャッ
人の肉が潰れていく嫌な感触がする。だからどうした。俺はそれを再度盗賊の頭に叩きつけた。盗賊の意識はない。それがなんだ。俺はそれを叩きつけ続けた。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
メイリアともう一人の盗賊の反応はない。突然の事に追い付いていないのだろう。なら殺れる。俺は素早く自分のナイフを拾い盗賊を刺した。狙いは頸動脈。盗賊は一突きで意識を手放した。
「龍一・・・アンタ・・・」
「メイリア。大丈夫だったか?」
「私は大丈夫だけど・・・」
よかった。メイリアは無事だったようだ。手に残っているのは人を殺した感触。非常に気分が悪いがそんな場合ではなかった。
「おいおい。糞から帰って来てみりゃなんだこりゃ」
盗賊のお頭が洞穴に戻って来てしまった。
「ガキ。テメエがやったのか。ならケジメはつけねえとな」
盗賊頭が剣を構える。メイリア言っていた通りだ。この盗賊団の中でもこいつは桁違いに別格だ。素人の俺でも分かる。
「ケジメね。子供を誘拐して売り物にしてるアンタには言われたくないね。」
それに対し俺は震える体を押し留め持っているナイフを強く握りしめ虚勢を張るのだった。
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