クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ

神が気に入って住み着いている執務室。何かの企業が撤退し空になった廃ビルの社長室...それを勝手に改造し自室としてしまったのだ。ちなみにこの事実は一般にも広く周知されておりこの廃ビルに近寄る人間にんぎょうはほとんどいない。そんな閑散とした廃ビルに珍しく客人が来ていた...


高そうなソファーに腰掛け不敵な笑みを浮かべる神が一柱。その視線はテーブルを挟んで向かい側にいる人物に送られていた。


「君とこうして遊ぶのは久しぶりだねぇ...」


「私はさっさと帰りたいのですが?」


「まぁ、そう硬いことを言わないでくれたまえよ。長い付き合いだろう?


不満そうな顔をした女性が手を開くとそこから三つのサイコロが滑り落ちてカラン、カラン、カランと器の中でが跳ねる。そして段々と勢いをなくしていき最後は停止する。


「...貴方と友達になった覚えはありませんが」


「四か...中々強いねぇ」


停止したサイコロが指し示したのは2と2と4の目。それを確認した神はサイコロを回収し自身の手のひらの上で転がす。


「無視ですか、そうですか」


「...彼には共和国に行ってもらうつもりだよ。心配かい?」


「あの方に何かあっては私の面目が立ちません」


「だが君が関わると余計なことが起こるのはほぼ確実だろう?なんせ今向こうに顔を出せば君の獲物が逃げてしまうからねぇ」


「分かっております。ですからわざわざこうして嫌々あなたの元を訪れたのではありませんか」


「分かっているのならいいさ。...後はこっちのシナリオ通り進むかの問題だねぇ」


そう言うと同時に神はサイコロを器に投げ入れる。


「おや...一二三ヒフミだねぇ。二倍だから...百五十万?...ツケd「ダメです」ダメかぁ...」


「しかし、サイコロの目ごとき貴方なら操れるでしょうに何故こんな無意味なゲームを?」


「ん?分かってないねぇ...神だからこそ遊ぶんだよ。仮にだよ?君が仕事もしなくてよくてお金もたんまりあって更に自分に何の笧もない環境にあったとして君はわざわざ仕事をするのかい?...しないだろう?遊んで暮らせるなら遊んでいたいじゃないか...いいかい?神というのは言い換えれば究極のニートなんだよ。だから気まぐれに遊び、気まぐれに啓示し、気まぐれに救う...そして気まぐれに世界を終らせる。我々はだしに対してヒトは祈ったり従ったり願ったり抗ったりする。だよ」


「今は違うと?」


「そうだとも。だからこそ、今のこの関係は歪だ...なんせんだからねぇ」


「だから終わらせると?」


「違うねぇ、あくまでも私が望むのは終焉ではなく決別だよ」


「...」


「その違いはおそらく君たちには分からないだろうねぇ...まぁ、気にしなくてもいいさ」


「そうですか」


「ところで君...何故――――――――――」

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