先に出来たのはマイナスネジ

「...」


「...ズズズズ」


「替え玉くださーい!」


「あいヨ!百五十円ネ!」


私は今、何をしているのだろうか?...あ、ラーメン美味しい。


ここは『混沌の町ミズガルズ』...あらゆる人間にんぎょう達が諍いもなく平和に暮らしている。このクロユリ合衆国で三番目に治安のいい場所である。して、そんな町の片隅、小さな屋台のラーメン屋に私はいる。


「レニちゃん~ズズズ...どうして兄妹人質とラーメンを食べているのですか~?ズズズ...」


「それは私が聞きたい、というかなんでそっちもラーメン食べてるんだよ」


「無線越しに飯テロされてるこっちの身にもなってください~」


「...すまん」


飯テロの被害がどんどん拡大していきそうなのでそろそろ本題に入りたいが...その前に一つだけ。


「あの猫はどうした?」


「あぁ、變獮ベンガルさんのことネ」


「え...漢字むずっ!てかあの猫そんな名前だったのか」


「いや、猫じゃ...ん...猫かネ?」


「猫じゃねーよ!」


「うおっ!」


いきなり暖簾をくぐって本人が出てきた。居たのか...


變獮ベンガルさんここ来ちゃだめヨ。食品衛生に引っかかるネ」


「あ、そういう理由?」


「ぐすん...」


そう言って變獮ベンガルさんがとぼとぼとどこかへ歩いていく。...強く生きてくれ。...でもネコ科なんだからやっぱ猫じゃないか?うん、やっぱり猫だ。(断言)


「レニちゃん~そろそろ本題に入ってもいいですか~?」


「あ、はいどうぞ」


無線の先で痺れを切らした鷦鷯しょうりょうが遂に仕切り始めた。


「えぇ~と...先ずは今回の美雨メイユイさん襲撃事件ですが共和国からの刺客で間違いないと思います」


「共和国!?...公国じゃなくて?」


「はい、むしろ今回の件は共和国がメインではないかと思っています」


「なんで共和国なんかが...」


エーリヴァーガル共和国...神を絶対とした独裁政治によって成り立つ国で国民全員が敬虔な信徒である...らしい。神を侮辱すれば即死罪、国を悪く言えば即死罪、というよくない噂が絶えない国である。また、神の名を知る者は国の重鎮のみのごく僅かな人物だけであり、神自身も矢面に立って行動することがない。徹頭徹尾神に関する情報が隔絶されている国だ。...一応、ロキアレは面識があるそうだが何度聞いても「面白くない奴」の一言で片づけるので反りが合わないタイプなのだろう。


「それは直接本人から聞いた方が早いでしょう...ということで美雨メイユイさん共和国に襲撃されるようなやらかしをした覚えはありますか...?」


鷦鷯しょうりょうが無線越しに投げかけた質問に美雨メイユイは少し考えて口を開いた。


「...あるにはあるヨ」


「おぉ...それはどんな?」


「...反共同盟はんきょうどうめい


「...なんだそれ?」


「反共和国派...『昊へ続く塗アルカンシエル』。ワタシはそこのリーダーととある協約を結んだネ」


昊へ続く塗アルカンシエル...共和国のやり方に反旗を翻し国家転覆...革命を起こそうとしている組織、所謂レジスタンスというやつだ。しかし、共和国軍に徹底的に粛清されもはや残党しか残っていなかったはずだ。


「アストラエアと昊へ続く塗アルカンシエルは裏で繋がってたのか?」


「正確にはワタシと昊へ続く塗アルカンシエルが繋がってるだけヨ」


「なるほど...んでどんな協約を結んだんだ?」


昊へ続く塗アルカンシエル...その残党の共和国脱国の協力、そして保護ネ」


「まさか昊へ続く塗アルカンシエルをアストラエアにそのまま引き入れるつもりなのか?」


「体裁上は協力ネ...」


まさかそんな計画が裏で進んでいたとは...ん?だが待て、その計画はまだ行われていないだろう。流石にそんなことが行われていればこちらに情報が回ってくるはず。ということは...


「洩れたのか?」


「多分ネ」


...そう、美雨メイユイが襲われているという事は既に共和国側に情報が洩れているという事。そして共和国の刺客が何故ニセ美雨メイユイを創り出したのかもこれで納得できた。美雨メイユイの姿で昊へ続く塗アルカンシエルに接触し壊滅させる為だったわけだ。ふむ、だがそうすると一つ引っかかる...そこまでして昊へ続く塗アルカンシエルを壊滅させたい理由は何だ?火種を消し去りたいというのなら理解はできるが...ここまでの労力をかける程か?...分からん。分からんが...そこまでして昊へ続く塗アルカンシエルを壊滅させなきゃいけないのなら...


「なぁ、結局今その反共同盟はんきょうどうめいってのはどうなってるんだ?」


「継続はしてるはずネ...ただこの状況で共和国に潜入して昊へ続く塗アルカンシエルを脱国させるのは至難の業ヨ」


「まぁ、そうだよな...向こうに情報が渡っている以上こっちか...っ!(「面白い事態になってるねぇ」)」


突然、頭の中に誰かの声が響いてきた...あぁ、最悪だ。こんなことをできるヤツを私は一人しか知らない...。いうまでもなくアレだ。


「何の用だ?(「わざわざ用件を言う必要があるのかねぇ」)...クソが」


この見計らったような...いや、実際見ていたのであろうこのタイミングで声を掛けてきたという事は間違いなくなのだろう。全くもって人間にんぎょう使いが荒い神だ。


「いきなりどうしたネ」


「...はぁ。なぁ、美雨メイユイ。その昊へ続く塗アルカンシエルを脱国...?」





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