お転婆は元を辿ると外来語

「さて、来てみたはいいものの...」


戦火の町ムスペルヘイム...いくつもの小規模組織が小競り合いと縄張り争いを繰り返す町としての機能を全て放棄した町。その辺をふらつくだけで死体が転がっていたり、いきなり家が燃え始めたり、大男たちが凶器チャカ持って暴れてたりとそこかしこで地獄のような光景が見れるのがこの町の名物だ。民度は世界中で一番低い町だが、意外と一般人には手を出さないという倫理観が多少存在するので観光客が度胸試しに来て約半数が無事に帰れる。何故か入口付近にお土産屋もある。...儲かるのだろうか?


で、何故こんな所に来たかというと...


「レニちゃん聞こえますか~」


「あぁ、問題ない」


「はい~ではこれより美雨メイユイさん捜索作戦を開始します~先ず七日前の五月三日にリキャスター幹部襲撃事件例の事件が起きました。その後、恐らく美雨メイユイさんは自身の命が狙われていると考え行方を晦ませていました。が、その二日後の五月五日に霧の町ニヴルヘルの監視カメラに突然姿を現しました。その後、今度は移動を開始し、今から約十時間前に二人の部下を連れて戦火の町ムスペルヘイムに逃げ込みました。残念ですがそこに監視カメラはありませんのでそれ以上追うことはできませんでした。そして美雨メイユイさんが戦火の町ムスペルヘイムに逃亡してから約二時間後に正体不明の一団がそこに侵入していきました。戦火の町ムスペルヘイムに入る為には絶対に監視カメラに映ることになります。なので美雨メイユイさん...及び正体不明の一団がそこを出たということはあり得ません。...空でも飛べれば別ですが。現状、美雨メイユイさんの逃走ルートは不明ですがに考えるのであればいくつか絞ることはできます。それに沿って美雨メイユイさんの痕跡を探してください~」


「長文お疲れ、約四百文字くらいか」


今までのやり取りを全部口頭で説明してくれた鷦鷯しょうりょう労いの言葉メタ発言をかけ無線を切る。そして...今、到着した人物に声を掛ける。


「いきなり呼び出してすまんな芽衣」


「いえ、ガランサス様に仕えることこそわたくしの本懐でございます」


「...殺しに来といてよく言うよ」


「...あれはまだ出会う前ですのでノーカウントです。して...その腕は?」



「ちょっといろいろあって弾き飛ばした」


あぁ、なるほど...と言った顔で芽衣はポケットから小さな袋を取り出し更にその中から錠剤のようなものを出して手の平に乗せる。


「仙〇だ食え...」


「どう見ても錠剤だろ」


私はツッコミを入れながら錠剤を口に放り込む。すると...


「アガッ!」


先ず感じるのは舌をくような辛さ。むしろ直接、舌をかれているような気さえしてくる。そしてその感覚に慣れてきたと思った直後に今度は何とも言えない気持ち悪い酸っぱさが口の中に広がる。何というかこう...食べ物的な酸っぱさではなく汗臭さ的な酸っぱさである。そしてそれを乗り切った果てに後からじわりじわりと苦みが後味でやってくる。まるで記憶に残るようにチクチクと精神攻撃を仕掛けてくる苦みにもはや涙さえ出てくる。...成人向け同人誌に出てきそうな顔面を晒すこと数分。地獄のような時間を乗り切って涙を拭きようやく冷静さを取り戻す。


「戻ったか」


いろいろあって弾き飛ばした腕はいつの間にか元に戻っていた。傷もなく正常に動く腕...この錠剤はあのいけ好かない神が造ったモノで飲めば五蘊盛苦ごうんじょうくの果てにでどんな怪我も欠損も治る優れm...訂正、劇薬だ。この薬を渡してきたヤツは今頃、腹を抱えて嗤っているだろう。悔しい。


「ふぅ...で、なんでお前ナース服なの?...しかも黒ナースてニッチすぎるだろ」


「ちゃんと小ボケ大事なところに触れて頂ける...それだけで恐悦至極にございます」


「言い方!」


「ご安心を...メイド服の時とは違って多少の応急手当はできますので」


「レニちゃん~あんまり遊んでるとナビやめますよ~」


「...すまん」


無線越しにお叱りを受け本題に戻る。鷦鷯しょうりょうから送られてきたデータを元に芽衣と二手に分かれて痕跡を探す。


...約一時間後。


「これは...」


芽衣に呼び出された私が見たモノは男のだった。


「先ほど鷦鷯しょうりょう様に確認いたしましたが正体不明の一団...そのうちの一人の死体だと」


「所属は?」


「軍属ということしか...ですが様子からして二十分は経っていないかと」


「つまり...」


「はい、この先にいるのは間違いないかと」


「...行くぞ」


芽衣と共に走り出す。通路を抜け広場らしき場所へ出る。すると...


「っ...新手か」


義兄にいさん...これは不味いっすよ」


そこには先ほどの死体と同じ軍服を着た大男達とそれに囲まれている二人の男女。男の方は黒いローブに眼帯...トゲトゲした黒髪、身長は160cmくらい。小柄で中二病感満載な恰好だ。女の方は鼠色の髪にどこかの学校の学生服...身長は150cmくらい。状況を見るに...


「その二人が美雨メイユイさんの引き連れていた部下で間違いありません~」


無線機からこの場にそぐわないのっぺりした声が聞こえた...って言おうと思ったけど隣の黒ナースを思い出しやめた。


「ガランサス様」


「先ずはこいつらを片づけ「全部ぶっ飛ばす!」「了解っす!義兄にいさん!」」


「やべ...」


軍服達を片付け美雨メイユイの部下二人と話をしようかとかと思っていたが面倒なことになりそうな予感がする。


「芽衣!」


「お願いいたします!」


芽衣が私の背後に来たことを確認に即座に祝福のうりょくを発動する。ほぼ同時に向こうも起源オリジンを口にする。


「魔眼...解放!外送理論エミッションセオリー!...お前たちの心臓は停止する!」


眼帯を外して男がそう叫んだ瞬間、彼の前にいた軍服たちが胸に手を当てその場に倒れる。


義妹いもうとよ!」


「っす!...Load:実験汚染contamination《読み込み開始》 『コード:2007』...Loading completed読み込み完了!――――Transformation変容...『顔のない女Phantom of Heilbronn』」


少女が自らの起源オリジンを口にした瞬間、その姿が変貌する...


「ぐはッ!」


瞬く間の一瞬、彼らを囲んでいた軍服達が地面に転がっている。変貌を遂げた少女にられたのだろう。


「これは厄介だな...」


「そうですね」


私は祝福のうりょくで創り出した塹壕から一連の流れを見ていた。外送理論エミッションセオリー顔のない女Phantom of Heilbronn...見ただけでは何が起こっているか分からないが恐らくあの魔眼と呼ばれる物に見つめ続けられるとマズイことは分かる。して変貌を遂げた少女の方はかなり厄介...先ず今、目の前にいるはずなのにその姿が。少女が能力を使って女性のような姿になったということしか分からないのだ。認識阻害...あるいはそもそもその存在が架空なのか。


「どうなさいますか?」


「まぁ、祝福のうりょくは厄介だな...」


「はい、ですが...」


「あぁ、実践経験がなさすぎるな」


そう言って私達は塹壕から出る。...ここは少し教育をしてやるとしよう。

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