第10話
旅に相応しい姿で年若い女性が名乗りを上げる。
「助けてくれてありがとう。
学園都市から派遣された魔術師のエーデルワイスよ」
「ニーベル男爵アーク・フォン・アーリマンだ」
「……ニーベル男爵というと、最大四州を支配した。故ウィリアム・リバー公爵が築城したニーベル城の城主をされているとは……」
「ノーヴル伯爵の元で家宰をしている父上……バナー子爵の人徳あってこそだ」
「……ということは今引き連れている兵は、バナー子爵家ではなくニーベル男爵の私兵と言う訳ですか……」
「まあな、騎士とは言え三男や四男ばかりだがな、その分やる気があって使いやすい」
「騎士と言う割には馬の数が少ないようですが……」
「
「
「その通り。我がニーベル男爵では、
「しかしそれでは、家畜の数が多すぎるのでは? 最初に金が掛かりすぎます」
「ブタは半年で肉になるし、鶏は一年で卵を産むようになる。オマケに餌は残飯とその辺に生えている雑草ですむ。過剰になれば潰して肉を売って、他の領地から飼料を買えばいい。それに輪が領地では、新型の四圃式農法を行っているから飼料は足りている」
「三圃式農法の亜種でしょうか?」
「その通り、『夏穀→冬穀→休耕地』の三圃式と異なり、休耕地を無くしその分二回ほど飼料を育てることで、商業価値の高い家畜を飼育できオマケに麦の生産も安定している。だから常備軍を他よりも多く持つことが出来る」
「……まだ十歳と訊いておりますが、男爵は思慮深いのですね」
「全ては学びを活かしているだけだ……」
全て前世の知識を活かしているだけだが、父に強請ってニーベル男爵を貰ったのが二年前。
これで、財政が潤えばニーベル男爵近衛として雇っている騎士共の雇用も拡大でき、常備軍の維持と治安維持に努める事が出来る。
こんな苦労するぐらいなら、王様とか上位貴族に転生したかったと何度も考えたが、秘密を守れる範疇でやれたことを幸運だとプラスに考えることにした。
「……次は陶磁器に手をだして儲けたいな……」
「おほん。男爵、部外者の私にそのような機密を話しても良かったのですか?」
「君は魔術師だろう? それに俺の家庭教師と男爵家に仕えることになるからな無駄な隠し事をしてどうなる? それに……今から戦をしなければいけないからな……」
「戦ですか……」
「そう戦だ。と言っても愚かな叔父を討つ……初陣には些か地味な戦いだがまあ丁度いい」
「ニーベルに伝令を送れ! これより我が叔父プロテゴ男爵を討つ! これはこの俺ニーベル男爵アーク・フォン・アーリマン並びに我が父、バナー子爵のメンツを守る戦であると心得ろ!」
「「「「「うぉおおおおお!!」」」」」
アークの言葉に呼応するように騎士達は武器を掲げ声を上げる。
曲がりなりにもこの地方を治める二大伯爵家の分家にして、政治・内政共に伯爵領内を取り仕切るバナー子爵の後継者にして、若き天才であるアークの言葉を訊き騎士達の士気は鰻登りとなっている。
「プロテゴ城までは約5km、鈍足でもおよそ二時間ほどでたどりつく。ニーベル城からだと流れの穏やかな川を一本挟んでいるがけん制ぐらいにはなる」
アーク率いる近衛騎兵20騎を引き連れ、叔父であるツーグの居城プロテゴ城へ向けて進軍を開始した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【scene:プロテゴ城 side:ニカ・フォン・シンネヴァー】
「……それでたかが騎士家の次男以下に負けたと? だから止めよと言ったのだ」
リッジジャング地方の東、領地の境から一歩内地に入った細く伸びた台地の先端付近にプロテゴ城は存在する。
背後を川幅150mほどの浅い川に預けたこの場所は、付近に比べ小高く、まさに天然の要塞と言っていい。
そしてそんな城の城主である。ツーグ・フォン・アーリマンは、命辛々逃げ帰って来た兵士を罵っていた。
このままでは斬り捨てられないと感じた兵士は反論の言葉を口にする。
「恐れながら相手は騎兵でしたので……」
「フン、騎兵と言ってもトリ雑じりの半端モノではないかッ!
騎獣というものは竜か馬と相場が決まっておるのだ!
それをあの変人めは……」
マガジン騎士爵は、怒りに任せ主家の跡取りを口汚く罵った。
マガジン騎士爵ら反アーク派こそが、今回の事件の首謀者なのだ。
「……」
「まあ良い、過ぎたことを憂いていても仕方あるまい。
戦支度を初めよ! アークの事だ自身の家庭教師を襲われたことの報復として戦を仕掛けてくる」
ツーグ・フォン・アーリマンは、周囲に控えた騎士達に戦支度を始めるように指示を出す。
「――なっ! その程度で戦ですか?」
騎士は驚いて声を上げる。
貴族とはメンツを
「我が甥アークはそう言う男だ……一戦交えた上で勝利し、兄上に仲裁してもらうのが最善だろうな……」
「ならば陣頭指揮はシネヴァー殿に頼みたい」
「私ですか?」
マガジン騎士爵の言葉に緋色の長髪が美しい女騎士は、思わず困惑の声を上げた。
「貴殿は武勇に優れ兵からの芯も厚いと聞いている適任だと思うが……」
「……」
押し黙る私に周囲の騎士は圧をかける。
「今こそバナー子爵家への忠誠を示す時ではないか?」
元々シネヴァーの家は他の領主に使えていた騎士の家で、本来城主となる事の出来なかったプロメタリー城一体を支配している。
今日も主家の弟であるプロテゴ男爵に定期報告に来ていただけだというのに……全くもって不運なことだ。
お父様申し訳ありません。
少女は心の中で謝罪の言葉を口にした。
「……主家であるバナー子爵のためであれば、このニカ・フォン・シンネヴァー一命を賭してそのお役目を全うしましょう」
「おおやってくれるか!」
「では皆さまもご準備を、私は一足先に失礼します」
会議の場となっている謁見の間では騎士達の歓喜の声が聞こえる。
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『あとがき』
読んでいただきありがとうございます。
本日から中編七作を連載開始しております。
その中から一番評価された作品を連載しようと思っているのでよろしくお願いします。
【中編リンク】https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/collections/16818093076070917291
【次回連載予定作品】のリンク
https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/news/16818093077299783210
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