第2話
耐え難い頭痛と悪夢に
「~~っ」
まるで二日酔いにでもなったみたいにズキズキと頭が痛む。
西洋風な窓を見るとまだ日の出前らしく、薄っすらと明るくなっている程度だ。
「てかここどこだよ? 病院?」
ベッドの上で胡坐を掻く、目の前にはカーテンのようなものが取り付けられていた。
しかし、それは医療ドラマなんかで見る仕切りのカーテンではなく、ヒラヒラとした装飾の施された立派なカーテンだった。
「俺のベッドに天蓋なんか付いてないんだけど!」
来ている服の肌触りも何時も着ている化繊と違えば、患者の来ている服のようなみすぼらしさもない。
どちらかと言えばアメリカの金持ちの寝間着に似ている。
そんなことを考えているとコンコンとドアがノックされる。
「失礼します」
返事を待つ前にドアが軋んだ。
「あら、お早いお目覚めですね」
ドアを開けて現れたのは、黒を基調としたメイド服としてオーソドックスなクラシックスタイルに身を包むんだ女性だった。
「……」
「洗顔とお着換えをさせていただきます」
彼女はそう言うと
「魔法?」
「お目覚めになられましたか……仰る通り魔法に御座います。さ、御顔を洗ってくださいませ」
言われた通りに顔を洗う。
「寝ぐせも直しましょうか」
「自分じゃ判らないよ鏡ないの?」
「今お持ちします」
装飾が施された手鏡を渡される。
そこには俺ではない
美しい黒髪、切れ長の瞳に整った顔付き、身長も体格もまるで違う少年がそこに居た。
「はぁ?」
呆けたような声が口から洩れる。
これは夢だ! そうに違いない。
一体こいつは誰なのか?
「「アークだ」さま?」
「いや何でもない……」
訝しむメイドを無視して髪を整え服を着替えさせられる。
「本日から剣術の訓練が始まりますのでお時間になりましたらお呼びします」
「判った……」
「では朝食をお持ちしますので、暫くお待ちください……」
そう言うと一礼してメイドは部屋を後にした。
ふぅと短い溜息が漏れ出る。
「これってつまり転生って奴なのか? まさか自分が体験することになるなんてな……」
『転生』 肉体が死んだ後、魂が異なる肉体を得て新しい生活を送るという考え方で、近年の日本では様々な創作物の導入に用いられている。
……つまりいわゆる俺TUEEE系とか、成り上がり系とかのアレだ。
常人なら到底受けれられないようなシチュエーションなんだが、足掻いても何も変わらないと判っている以上、現状を受け入れ適応していくしかない。
俺は意図せず「第二の人生」と、「人生をやり直すチャンスを得た」と言う事になる。
彼女も居なかった正に灰色の青春時代。
友人達とバカ騒ぎをした訳でも勉強に没頭した訳でもなく、ただ時の流れに身を委ね、チャンスが来るのを口を開けて待っていただけの臆病なあの時代。
生きているのか? 死んでいるのかよくわからない人生だったが、折角手に入れたこの機会を逃すほど今の俺は愚かじゃない。
ただ、一つ問題があった。
「この身体って『ドラゴン・オブ・ファンタジー 雪月花』の悪役アーク・フォン・アーリマンなんだよなぁ……」
大人気の戦略シミュレーションRPGだ。
複数のエンディングが存在し、老若男女問わず結婚出来るシステムから恋愛シミュレーション扱いされたゲームでもある。
俺もその例に漏れずパーティーには、美少女ヒロインばかりを加入させたものだ。
中でも特にとあるヒロインが好きだった。
からかい上手な小悪魔、年下属性と言う。属性自体が俺のドストライクだったと言う理由もあるが、やはり一番はキャラの性格だ。
優しくしてくれた主人公に一途なのはもちろんのこと、“人形”のようなご都合キャラではなく、しっかりとしたアクのある人間臭くも年相応に可愛らしいヒロインだった。
そして『ドラゴン・オブ・ファンタジー 雪月花』の悪役である俺は時に悪態をつき、悪事を働き主人公を窮地に陥れるが、結果としてそれがヒロインと主人公を引き立せ、最終的に主人公に殺される。
まさに近年の娯楽作品の悪役然とした扱いだ。
「って言うかどうせなら主人公かモブに転生させてくれよ! やり直すにしてもなんだよ悪役って! ハードモード過ぎるだろ! ああ……ハイファンタジーよりローファン世界の方が娯楽面ではよかったなぁ……」
漫画もアニメもないし……
ハ〇ター×ハンターの続きが読みたかった。
なんて言って見ても現実は変わらない訳で……
「やってやるよ! 俺はこの人生を生き抜いてやる!!」
――と宣言したところで、ガチャリと音を立ててドアが開く。
「朝食をお持ちしました」
ワゴンに乗せ朝食が運ばれ食事が配膳される。
ティーカップになみなみと注がれたミルクティーとトーストだ。
熱でとろりと溶け出したバターがトーストに染みている。
「美味そうだ」
「
原作にこんな本格的な貴族描写あったけ? まあいいか……
「朝食にオムレツが食べたいな」
「料理人に伝えておきます」
「ミルクティーのお代わりをくれ出来れば冷たいのを頼む」
「かしこまりました」
メイドは返事をすると保温されたポットから別の容器にミルクティーを移し替えた。
次の瞬間。
湯気を立てていたミルクティーのポッドには結露した水滴が付着していた。
魔道具だ。
この世界には前世のような電気が存在せず、魔石と呼ばる電気のようなエネルギーが入った石をセットすることで誰でも魔法使える魔道具が流通している。
例えば、明りを灯すものや温度を冷やすものなど多岐に渡る。ただし値段が高価なため王侯貴族や商人のような限られた人間しか使うことが出来ない。
「どうぞ」
冷えたミルクティーは、食事で火照った身体を心地よく冷ましてくれる。
思わず笑みがこぼれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます