第7話 リチェル三歳

 私は、転生していたらしい。


 熱が下がって目が覚めると、頭の中がすっきりとしていた。眠っている間に整理整頓? どうやら、熱が出る前に見た夢は前世の記憶だったらしい。夢のせいで溢れるように湧いてきた記憶は、今はもう、脳の収まるべきところに収まってしまったみたいだ。


 私の名前は、リチェル・ミルフィーエ。三歳の幼女。転生前の記憶を思い出した後からのこの思考能力……もう、これを幼女といっていいのか、自分でも怪しくなってきた。見た目は幼女、中身は大人? 大人といっても前世は、鳥だからどうなのだろう? 果たして大人といえるのかな? 知識もサファイアテイルの知識だし。うーん。微妙かも。 知識自体は大して三歳児と変わらなかったりして……

 それでも、前世の記憶と夢を見るまでの記憶がまるごと結合されたから……体感としては、サファイアテイルの二歳は、人間だと十八歳くらい。プラス三歳で二十一歳くらいなのかな? 

 三歳児にして中身は二十一歳なのだけど、これからすくすくと私は育つことになるのよ。


 何はともあれ、私はサファイアテイルから人になったのだ。

 そう思ってからの私の頭の切り替えは早かった。

 それなら、せっかく神様からもらった新たな人生を思う存分生きようと思った。



 でも、どうしても頭をよぎるのは、

 私のご主人さまのこと……

 ちゃんとバルザックがご主人さまを助けに来てくれたのかな?って。

 バルザックは大魔法使で最強だから、敵に襲われても絶対に負けないし、何としても助けにきてくれると信じていた。だから、絶対に大丈夫に違いないはずなのだけど。

 ……もう少し大きくなったらご主人さまのことを調べてみよう……そう思った。





「リチェルの熱が下がってよかったわ」


 お母様が、私の額に手を当ててホッとしたように言った。

 

 それにしても、リチェルって……前世とほとんど同じ名前よね。たまたまだろうけど、ご主人さまから貰った『リチェ』という名を私はとても大事に思っていたから、そう名付けてもらったことに感謝した。

 

 熱が下がったばかりで、身体がだるかった。

 私の身体は軟弱なようだ。……まぁ、まだ小さいしね。

 お母様が手ずからお水を飲ませてくれる。


 改めて、周囲を見回すと、

 この部屋は、華美な造りをしていた。そして、お母様の傍にはメイドが二人控えている。


 私は、割りと裕福な家に転生したみたいだ。


 そういえば、私のお父様って……見たことあったかな?


 むぅぅぅ。


 何か、記憶にないような? 


 けれど、全快した数日後に私は、お父様のことを知ることになった。


 お庭で私を遊ばせながら、お母様が知らない男の人と話をしているのが聞こえてきたのだ。


 まさか、私が会話の内容を理解できるとは思っていなかったらしい。……全く困った大人たちだね。


「マリアンはローヴェリア侯爵の元へは戻らないの? 奥様が亡くなったそうじゃないか」

 

「なぜ、私が奥様を蔑ろにした馬鹿男のところへ戻ると思うの?」


「貴女はそう言うけれど、そもそも私の求愛を蹴って彼の元へ走ったのは貴女じゃないか?」


「だから、ルイス! 何度もいっているじゃないの。あの人、身分も名前も偽っていたのよ!」

 

 ……マリアンというのは、私のお母様のことだ。そして、会話の相手の男性は、ルイスというらしい。会話の中に求愛とか気になる言葉もあったけれど、雰囲気から察するに、お母様の気の置けない友人なのかな? だって甘い雰囲気が全然ないのだもの。


 そして、話を聞いていくうちに分かったのは……私のお父様がどうやら、ろくでもない男らしいということだった。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る