第2章 転生しました

第6話 どうやら転生したらしい

 ……ご主人さまが幸せでありますように


 そう願いながら、最後の力で転移した。


 初めての転移は、小さな身体に与える負担が大きかったのだろう。ご主人さまは、気を失ってしまった。


 気を失ってくれてよかったと、私は心から思った。


 血だらけの……私のこんな姿をご主人さまに見せなくてすむから。


 私の命が尽きたとき、ご主人さまの防護壁も消えてしまうだろう。後は、バルザックに託すしかない。


 この命が尽きようともご主人さまをお守りします。ええ、根性で守りますとも。


『ふふふ』


 自分でも笑ってしまう。死んでしまって、どうやって守るというのか。


 息をするのがいよいよ苦しくなってきた。

 私は、ご主人さまの愛らしい顔を瞳に焼き付けるように見つめる。


『……リチェは、永久にご主人さまのもの。ご主人さまを必ずお守りしま……なん……として……も、バ……ルザックがく……るま……では……』


 どうか、バルザック、早く来て。


 

 


 私は、パチっと目を開けた。


「あらあら、目が覚めちゃったのね?」


 優しげな女の人が私の顔を覗き込んでいた。

毎日見ている顔だった。金色の髪に、青い瞳の綺麗な人。この人は……私のお母様?

 どういうわけか、記憶がぼんやり曖昧になっているみたいだ。

 何だか、壮大な夢をみていたようで、変な感じがする。夢なのに実際にあったことのように、生々しかった。


 ああ、そうだ……

 私に帰巣本能はないはずなのに、始まりの場所、卵の私がいた鳥の巣のある木の傍で隠れるようにして、私は命を落としたのだわ。


 ……って。

 あれ? 

 ……えっと、私、今、何を考えていた?


「リチェルったらご機嫌斜めですかあ?」 


 目をパチクリさせた私を見てお母様は勘違いしたらしい。だって、私、機嫌は悪くないもの。


 私の両脇に手を入れてお母様は、私を抱き上げた。


 ……うえっ? 私、抱っこされてる?

 もう、成獣なのに? ……っ、て? ええっ? えええっ? 


 成獣って何っ?


 私は……確か、三歳のはず。

 はて? 三歳って、こんなに思考能力が高くていいの? あ、でも、ご主人さまは、しっかりしてたからこのくらいは余裕だったかも……んえ? あれ? あれ? あれれ? ご主人さまって……何? いや、それより、私は誰?

 何故か、ブルーの長くて美しい尾のある綺麗な水色の鳥が脳裏に浮かぶ。


 私は、寝起きとか、夢見が悪かったというだけでは説明できないほど頭が混乱していた。


「大変! この子、熱があるみたい!」


 急に、周りで大人たちがバタバタ騒ぎ始めた。

 お母様が何か言っているみたい。……けれど私は、聞こえているのに言葉の意味が全く理解できなくなった。

 私の脳は、オーバーヒートしてしまったのだろうか? まるで、考えることを強制終了させられたみたいだ。



 そして……

 私は、起きたばかりだったというのに、お母様の腕の中でクテッと気絶してしまったのだった。


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