第4話 森の湖で
「こっちだよ!」
ご主人さまが私の手を引くように走り出した。
『走ったら危ないですよ』
私がそう言うと、ご主人さまは顔だけ振り返って「大丈夫」と言うように口角を上げた。
はぅ! 私のご主人さま、可愛い上になんて凛々しいの!
私のご主人さまが、将来モテすぎて大変なことにならないか心配になる。
きっとご主人さまは、世界で一番格好良く優しくて最強の男になるだろう。
ご主人さまの背中を追いながら、何だか心がふんわりと温かくなって口許が緩む。
ご主人さまと永久に一緒にいられますように……
ザザッ!
茂みを掻き分ける音がして、開けた目の前に大きな湖が現れた。
「ついたよ」
ご主人さまは、私と繋いでいた手を離すと、湖の方へ走っていく。
え?
そんな風に走ると転んでしまいますよ。
それに、湖の側は危険です。
「いい? リチェ! 見ていてね!」
私は、ご主人さまに注意を促したいのに、振り向いたご主人さまの顔に見惚れて動けなくなってしまった。
アイスブルーの瞳がキラキラと輝いて、眩しいほどに生き生きとしたご主人さまの表情。
ご主人さまは、右の手のひらを天に向けて高く振り上げた。
キーーーーーン!
大気が震えた。
ご主人さまの右手の薬指に紋様が浮かび上がり、ポワッと光る。
そして、私の右手の薬指にも紋様が浮かび上がった。
えっ?
私は茫然としながら、ご主人さまを見つめた。
ご主人さまの銀糸の髪の毛がフワリと宙に舞い、青い光に包まれた姿は、息を呑むほど幻想的で美しかった。
ご主人さまの魔力が湖の上に大きな魔方陣を描く。
すると、湖の水がピシピシと音を立てて凍り始め……中心部がボコッと盛り上がって高く伸びた。それは、シュルシュルシュルと幾重にも形を変えて、へこんでは盛り上がり、また、へこんで、複雑な模様が消えては現れるを繰り返す。
そして、みるみる形を整え……
『……え?』
私?
湖に大きな私がいた。
氷でできた私。
驚きすぎて、声も出なかった。
ご主人さまは、これを私に?
「どう? リチェ、吃驚した?」
得意気に笑うご主人さまに、私は堪らなくなって、咄嗟に駆け寄ると抱きついた。
『すごいです! ご主人さま! リチェは感動しました!』
恐ろしいほどの魔力のコントロール。
この大きな湖を凍らせただけではなく、素晴らしく精密かつ繊細な魔法で、私の氷像をつくりあげた。
私のご主人さまは、まだ五歳なのに魔法の才能は計り知れない。
私は、私のご主人さまが誇らしかった。
それに、私の氷像を作ってくださるとは、何て身に余る光栄。
ご主人さまは、これを私に見せたかったのですね?
『とても嬉しいです。ご主人さま』
私の言葉に、ご主人さまは満足そうに破顔した。
「僕は、リチェの主だから。もっと魔法を学んで強くならないとね」
ああ! 私のご主人さまは立派すぎませんか?
私もご主人さまのお役に立てるようにもっと頑張りますね。
私は、ご主人さまの使い魔である幸せを噛み締めたのだった。
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