第2話 男の子と私
それはもう、セルリアンさまと私はとても仲良くなった。
セルリアンさまは、私が卵から孵ったあの日から片時も私を傍から離さなかった。
所謂、セルリアンさまのお気に入りというやつだ。
私にとってもセルリアンさまは特別。セルリアンさまが大好きで堪らないのだから。そもそも、精霊寄りの私たちサファイアテイルは好きになったらとことん好きになる生き物なのだ。好きになった対象には何でもしてあげたくなってしまう。
そういうわけで、生まれて一年経った頃には、人間より成長の早い私は成獣になり、まだ幼いセルリアンさまは、私が庇護する対象となった。
私は、親鳥のようにセルリアンさまの面倒をみた。
それは……
可愛いくて優しいセルリアンさまに胸がキュンキュンする毎日。私にとって唯一無二の幸せな時間だった。
この頃からセルリアンさまは、お祖父様のバルザックから本格的に魔法を教わるようになった。
セルリアンさまは氷の魔法が一番得意そうだったが、流石大魔法使いの孫。光以外の全属性が使えた。
……そう。光以外!
何を隠そう。私は、光は大得意だ!
『セルリアンさまは、光が使えないのね? 仕方がないわね! 私が光属性のかわりになってあげる!』
常々、そう思っていたら……
バルザックに見抜かれていたみたい。
ある日、バルザックが私にこう言った。
「サファイアテイルよ、もし宜しければ私の孫セルリアンと契約してくれないだろうか」と。
その言葉に……私ったら舞い上がるくらい嬉しくなってしまって、思わずポワン!と、ヒト型に擬態してしまったの。
そのせいで、バルザックさまを目玉が飛び出そうなくらい驚かせてしまった。
……ああ、やってしまったわ。
不測の出来事とはいえ、驚かすつもりは無かったので私は大いに反省した。
……年寄りを驚かせてはだめよね? 心臓が止まったら大変だもの。
何にせよ、生まれて初めてのヒト型だった。
ヒト型の私は、水色の長い髪とサファイアブルーの瞳を持った少女の姿だった。
私的には、鳥の姿の方が断然見目麗しかったから、これは、ちょっと残念な容姿のヒト型なのかな?と、思った。
嬉しい感情に引きずられて、突然ヒト型に擬態してしまった私だったけれど、言い訳させてもらうと、元々、私たちサファイアテイルが人と契約するときは、ヒト型を取るという古の決まりがあるの。それもあって、うっかりヒト型になっちゃったのよね。勇み足っていうやつよ。
『喜んで!』
私がそう言うと、バルザックは安心したように息を吐くと、私と寸府違わないくらい嬉しそうな顔をした。
「お祖父様、もう宜しいですか?」
今まで、バルザックに言われて少しの間席を外していたセルリアンさまが戻ってきた。そして、当たり前なのだけれど、ヒト型の私を見た途端とても吃驚した顔をした。
「まさか、お祖父様! この方はサファイアテイルですか!」
あら、一髪で看破されちゃった。
すごいなあ! セルリアンさま!
私は、心の底から感心した。
やはりセルリアンさまこそ私の主になるべきお方だわ! それどころか、セルリアンさま以外考えられない!
私は、セルリアンさまの前に跪いた。
セルリアンさまは、これから何が起ころうとしているのか分からないみたい。
私は契約する気満々なのだけど。
セルリアンさまは、可愛いお目目をパチクリさせて私を見ている。
私は、恭しくセルリアンさまの手を取ると、これまた可愛い手の甲に口づけを落とした。
『どうか、私に名前をくださいませんか?』
そっと顔を上げて、セルリアンさまのアイスブルーの瞳を覗き込むように見詰めて強請る。
急に名前をつけて欲しいと言われて、戸惑っているセルリアンさまを感じた。
この一年、私は、そのままの……サファイアテイルと呼ばれていた。大魔法使いのバルザックは、名付けが契約の一部であるということを知っていたのだと思う。
「リチェ」
セルリアンさまの唇から言葉が紡がれ、私はブルリと身体中の羽毛が逆立つような、新たな生命を吹き込まれたような衝撃を感じた。
「君の名前はリチェだよ」
ああ……
私は感動に震えた。
私の名前はリチェ。ご主人さまから与えられた大事な名前。
『リチェは永久に我が主セルリアンさまのものとなりましょう』
私がそう言葉を紡ぐと眩い光が私とセルリアンさまの身体を包んだ。
セルリアンさまの右手の薬指に指輪のように紋様が浮かび上がり消える。
同じように私の薬指にも紋様が浮かび上がって消えた。
これは、私とご主人さまが繋がった証。
普段は見えないが魔法を行使するときにだけこの紋様は浮かび上がる。
……私の主、セルリアンさま! きっと私がご主人さまをお守りします! 私は永久にご主人さまのものです!
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