見来のこれから

 まだ飲み足りない航がカウンターでレモンサワーを呑みながら、厨房で後片づけに忙しい両親と海に向かって語り始める。


「今日はほんとありがとうね。打ち上げをする事は分かってたんだけど、まさかここだとはね。ほんとビックリしたよ。でもよかった。みんな、喜んでたし料理も美味しかったし、ほんと最高だった」

「それは本当に良かったよ。皆さん楽しそうだったからな。ありがとな。打ち上げの場をここにしてくれた課長さんに礼を言っといてな」

 父の誠が心からの感謝の言葉を投げかけた。


 それから暫く考えに耽っていた航が、真剣に呟いた。

「あのさ――。前から思ってたんだけど振り返ると、酔っぱらって武さんとここで意気投合して一枚板の世界一長いカウンターバーの話で盛り上がったのが始まりだったじゃん。でも、その後さ、ライバルのプレゼンのテーマが完全に被ってたでしょ。ここだけの話、武さんがあいつらにチクったんじゃないかと思うんだよね」

 

 あまりの予想外で航らしいピュアな言葉に両親ともに厨房で笑いを堪えていた。


 あきれた顔して海が航に話しかける。

「お兄ちゃん知らなかったの。ほんと能天気ね……全て自分の実力だと思ったの……。今まで黙ってたけど、うちの事務所でも大問題だったんだよ。最優秀賞とれたの武さんのお陰なんだよ。ほんとだね」

「え――ホントに。……武さんって何者なの? 親父も知ってたの?」

 本気で驚いた表情を投げかけた。

「航は知らないほうがいいかもな。武さんに迷惑掛かるといけないからな」

 手を休めることなく苦笑いを浮かべる。


 航は、既に酔っ払っていい気持ちになっていたので、深く考えることもなく暫く心地よい時を過ごす。

 

 それから海に連れられ両親が見送る中、楽し気に明るく輝く満月を見上げ、今日のを感じながら笑集を後にした。

 

 その夜ベットの中で久々に「見来」にお願いした。


「今日こそは、カウンターの裏側の景色が鮮明に観られますように……。あと、もう一つ。今まで食べた事のないような美味しい物が食べられますように……」

 と……。

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夢見来/yumemirai 十名 武 @zyuuna

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