【19話:勇者パーティ】

「俺とダムは、街中を走り回った。既に大量の魔物が家を壊したり人間を襲ったりしていたよ。まあ、騎士団や冒険者が積極的にそれを阻止していたから、俺らは倒せそうなやつだけを倒していった」


「⋯よく倒せましたね。それでも、子ども二人でしょう」


「二年ぐらいずっと特訓してたからな。ゴブリンぐらいまでがやっとだけど、意外と戦えたよ。あと、ダムの一族は戦士の血を引いているらしいから結構強いんだ。⋯あ、ちなみにダムのお父さんは騎士団の一人だったらしいから、街の人を助けてた」


だからダム様の体が異様に大きかったのか⋯

だとしても、子どもだけで立ち向かえるのは単純にすごいけど。

というか、お父さん騎士団だったんだ。


「そうしていくうちに⋯ある場所にたどり着いた」


「ある場所?」


「王城だ。既に崩れていたけどな。だから中が丸見えになっていたんだが⋯地面が陥没していて、そこに地下へと続く階段があるのが見えた」


「⋯⋯地下⋯ですか。王城にそんな場所があるとは聞いたことがないですが」


「俺も知らなかった。だから何かあると思って二人で階段を下りてみたんだ。そしたら⋯⋯泣き声が聞こえてきた」


泣き声?⋯⋯人間?王城の地下室で⋯


「急いで先まで進んだ。そこには、奥まで続く牢獄があった」


勇者様は暗い顔をして続けた。

ただ淡々と、過去の記憶をたどるように話している。


「オークが、一番奥の檻を壊そうとしていたんだ。その中からすすり泣く声も聞こえた。俺は⋯咄嗟にオークに切りかかったよ」


「オークって⋯子どもに勝てる相手ではないのでは⋯」


「俺はオークの弱点をたまたま知っていたから、不意打ちだったのもあって一撃で殺すことが出来た。⋯それでもまあ、奇跡だけどね。その後檻の中を確認したら、そこには⋯⋯手枷に繋がれた小さな女の子が、いた」


「⋯⋯」


「⋯それが、ロナリーだ」


「⋯⋯⋯え?」


「ロナリーが、王城の地下室で監禁されていた」


「⋯」


ロナリー様が⋯⋯?どういうこと?

全く理解が追いつかない。いつ、どうしてロナリー様が王城の地下室に?

そもそも、いつもあんなに笑顔で元気なロナリー様に、そんな過去があったとは到底思えない。


「扉はオークのせいで壊れかけていたから、すぐに外れた。それで、その少女にゆっくりと近づいたんだ。そしたら来ないで!って、叫ばれた。⋯とても怯えている様子だったな」


私はただ無言でその話を聞くことしか出来なかった。

入り込んでくる難解な情報の処理に精一杯で、言葉を発するということを忘れていたのかもしれない。


「俺は、ここにいたらまた魔物が来た時に対処できないと思ったから無理やりにでもその少女を助けようとした。拘束を解こうとする時も激しく抵抗された。俺よりも幼かったから、蹴られながらでも何とかなったけどね。ただ、小さい女の子にしては異様に力が強かったのを覚えている」


力が強い⋯

なぜだか知らないが、今のロナリー様も力は普通の男性よりも強い。なんなら、今なら勇者様よりも単純な力だけで言うと強いかもしれない。

さすがにダム様には負けるけど⋯


「鍵はなかったから、結局ダムに壊してもらった。⋯⋯手枷が取れた瞬間、少女には逃げられた。逃げ足もかなり早かったな。追いつけないスピードではなかったし、この子に何かあったらって思ったから必死に追いかけたけどね」


勇者様は一旦手元の果実オールミックスに手を伸ばし、それを飲み干してからまた話し始めた。


「外へ出ると、案の定少女は魔物に襲われそうになっていた。しかも、少女は躓いて転んだ。⋯⋯その魔物はさっきよりも巨大なオークだったが、俺は棍棒を振りかざすそいつに突進した。正直怖かったけどな」


「⋯⋯」


「その後は知っての通り、ダムと二人で戦っている最中に爆発が起きて、魔物は消えた。⋯俺らが何が何だか分かっていないうちに、それでも少女は逃げようとした。だから咄嗟に引き止めた」


改めて聞いても爆発がどういうことなのか全く分からない。あまりにも唐突すぎる。


「⋯少女はしばらく暴れ回ったが、力じゃ敵わないと知ると諦めたように、全く抵抗しなくなった。それからは、少し距離はあったがついてくるようになったかな。家は跡形もなくなっていたから、お父さんの計らいでしばらく王様に保護してもらうことになったけど」


「あ、だからあんなに馴れ馴れしく王様と喋っていたんですね⋯」


「ああ。それでもロナリーが元気になったらすぐ追い出されたけどな。魔王倒せー!って。仕方なく三人で旅に出るようになった。依然としてロナリーとは壁があったが⋯まあ、それは旅の途中で打ち解けていった」


「そこに私が加入したんですよね⋯というか、勇者パーティが結成されてから結構後に私が入ったんですね」


「それでも、アセルベが来るまではひたすら街の近くの弱い魔物を狩ってるだけだった。学校に通ってなかった分、自分たちで身につけていくしか無かったし」


確かに、ダム様は戦士一族で騎士団の息子だし、勇者様もロナリー様も聞いた感じだと学校は無理そうか⋯


「⋯あれ、職業はもらったんですか?」


「しばらく街の復旧作業でそんな場合じゃなかったな。けど、十二歳になったらちゃんともらいにいったよ。その時にはかなり街は元通りになってきてたし。⋯ダムは元々もらってたらしいけど」


騎士団の力すごいな⋯


「⋯とまあ、そんな感じかな。すまん、ちょっと長くなったな」


「いえ⋯⋯みなさんのことが知れて良かったです。ありがとうございます」


私は立ち上がって深く頭を下げた。


「うん。それじゃあ、宿に戻ろうか」


「⋯はい!」


正直、お腹が空きすぎて何か少しでも食べたかった。しかし、私は言うタイミングを逃してしまってそのまま宿に着いてしまった。

⋯ずっとお腹が鳴っている。

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