第二章

【12話:旅の再開】

「アーセルっち!起きろー!!」


「ぐはっ」


私は一部分が鉄製の装備で覆われているロナリー様に飛びつかれて目を覚ました。

⋯死んだかと思った。


「⋯⋯ま、まだ寝させてください⋯眠たい⋯」


「もう昼の十二時だよー?」


「えっ?!」


慌てて壁の時計に視線を移す。

⋯長い方の針が十二の数字を指していた。

短い方は⋯七だ。


「七時じゃないですか!」


「えっへへ〜冗談だよ冗談!⋯でも、それでももう七時だよ?もうみんな支度は終わったし」


周りを見てみると、赤いマントに勇者の剣を携えている勇者様、黄金の鎧を身に纏い大きな斧を背負うダム様、昨日の黄色いカサブランカでつくられた花のかんむりと白いドレスの上に黒のローブを着て杖を握るペトスさん。


「⋯」


そして目の前には全身がオレンジ色に包まれた身軽な装備で、リュックを背負っているロナリー様。

全員が寝起きの私を見ている。


「よし、行くか」


勇者様がニッコリとして言った。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!私まだ何も準備してな⋯」


「お前がいつまでも寝てるのがいけないんだろ⋯ほら、行くぞ」


勇者様は私の発言を遮って手を引っ張ってきた。


「あーもう分かった分かりました!二分で準備しますから、ちょっとだけ待ってください!」


「はぁ⋯しょうがないな」


そうして私は大急ぎで荷物をまとめ、「オルディナーレ!」と唱えてベッドのシーツなどを魔法で綺麗に整える。

その後亜空間に杖と魔道書、荷物を仕舞って、私の旅の準備は完了した。


「はぁ⋯はぁ⋯お待たせ⋯しました⋯」


「二分三十二秒。タイムオーバーだ」


細かい⋯わざわざ数えてたのか⋯


「いいじゃないですかそれくらい!」


「はやく行こうぜ〜」


ダム様が待ちくたびれたと言わんばかりに急かしてきた。


「⋯そうだな、行こうか。俺はお金を払ってくるから、先に関所を通って待っててくれ」


「わかりました」「は〜い!」「おっけー!」「了解」


⋯返事はバラバラだった。



「⋯げっ、またいるよあいつ⋯」


関所へ近づくと、またあのおっちゃんと若い門番が見えた。

するとおっちゃんの方が私たち⋯いや、ロナリー様に気づいて走ってきた。


「ロナリーちゅわああああん!」


「ぎゃあああああ来るなあああああああ!」


ロナリー様は咄嗟に戦闘態勢をとり、向かってくるおっちゃんの腹に鎧の上から拳をめり込ませて遥か彼方へと吹っ飛ばした。


「うわああああああロナリーちゅわあああああああああん⋯⋯」


「⋯」


おっちゃんは星となった。


「⋯ふぅ」


ロナリー様はすっきりした顔をして乱れた服を整えた。

少し遠くの若い門番を見てみると、目を点にして口を大きく開いて驚愕していた。

私たちは関所へと歩き、若い門番を正常な状態に戻してなんとか手続きをしてもらえるようにした。


「⋯また旅に出るんですね。本当にお気をつけください。最近ユマンコメルを含めた凶暴な魔物や魔族が活発に活動しているらしいので⋯」


ユマンコメルはこの前の帰り道に会ったけど、魔族もか⋯

魔族も移動中に出くわしたりしたら危険だな。十分に注意しよう。


「分かりました。ありがとうございます」


私たちは門を潜り、街の外へ出た。

そして近くの石に腰をかけ、勇者様を待つことにした。

待ち時間は暇だったので少し気になったことをペトスさんに聞いてみる。


「ペトスさん、杖は仕舞わないんですか?ずっと手に持ってますけど」


「はい。何かあった時でもすぐに魔法が使えるようにしています。どうしても杖無しじゃコントロール出来なくって⋯」


私たち魔法使いは基本的に杖を使って魔法を使用する。もちろん、例外として魔道書を使ったりすることもあるが、ほとんどの場合は杖だ。

その一番の理由はなんと言ってもコントロールのしやすさ。狙った場所に、正確に、最適な魔力量をかなり細かく調整して魔法を放つことが出来る。


「なるほど。それはしょうがないですね⋯」


杖が無くても魔法は使えるには使えるのだが、やはり、難しい。

高威力の攻撃魔法や一度に大量の物質を制御する魔法などを杖無しで使おうとすると暴発して全魔力消費、もしくは体内で魔力が充満して爆発が起こり、最悪の場合死ぬ。⋯そういう事故もたまに魔法学校では起こったりする。


「⋯」


考えただけで寒気がする。

だから杖の重要性については入学して一番最初に習う。

⋯練習すれば最上位魔法でも杖無しで使えるようになってくるが、相当な時間を要するだろう。

私もちょっとは練習して、スコタディ・クティピマ⋯中位の対魔族特化魔法ぐらいなら杖無しでも安定して使えるようになった。


「⋯ふぅ、お待たせ。待ったか?」


そんなことを考えていると勇者様が小走りでやってきた。


「私は待ってないよーフィデっち!」


「そっか。ありがとう」


「⋯ところでフィデル。今回の旅の目的地はどうするつもりなんだ?そろそろ海を越えないと、この大陸も探すところ探したぞ」


私たちは今までの旅で、この世界でもトップレベルの広さを誇るこのイデアール大陸のほとんどを探索し、攻略してきた。

出発したのがここからだったというのもあるが、とてつもなく広いこの大陸になら魔王城もある可能性が高いと考えているので入念に探索を続けている。


「⋯いいや、北東の辺りにはまだ行っていないな。それから東の奥、南東もまだだ。とりあえずこの関所は北門だから⋯一番近い北東にしよう。今回の旅の目的は北東制覇だ!」


勇者様は剣先を北東の空に向けて言った。

それと同時に少し強い風が吹き、それは赤いマントを揺らした。


「おー!」「おう!」「おー」「⋯」


ロナリー様とダム様は元気よく掛け声をし、私はそれに合わせるように声を出した。

⋯ペトスさんは、不安そうな表情を浮かべて沈黙していた。

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