【6話:平和の街 ルーエ】

森を抜けてまた草原に出た。

今度はちゃんと樹木もあって道もあるし、看板だってある。


「あの、これはどこに向かってるんですか?」


しばらく歩いていると、後ろからひょこひょことついてくるペトスさんが尋ねてきた。


「平和の街、ルーエ。俺ら勇者パーティが育ち、出会い、旅を出発した場所だ。この世界でも中心的な街だね」


私が答えるよりも先に勇者様が答えた。

⋯そう、今目指している場所は全てが始まった場所。

ここで私は生まれたし、この街の魔法学校にも通って育ってきた。勇者様ともここで出会ったのだ。


「そういえば、ペトスは家出をしてきたって言ってたけど、大丈夫なのか?ルーエで親と出会ったりとかしたら気まずいだろ」


どうやらダム様もちゃんと話は聞いていたらしい。


「あ、はい。ここで生まれ育ってはないし、親はいません」


「そっか、なら安心だな。ルーエには来たことあるのか?」


「ないです。ルーエとはかけ離れた場所に住んでいたのでなかなか行く機会がなくて⋯」


⋯ルーエは壁に囲まれてるから魔物に襲われる心配はほとんど無い。だから多くの人はこの街で暮らす。

でもペトスさんがここで住んでなかったとなると⋯どこかの集落や村に住んでたか、ルーエ以外の街か。

ただ、ルーエ以外の街となると海を越えないと無かったはずだ。普通に考えるなら前者だろう。田舎の人なのかな?


「あっじゃあ、ルーエに着いたらペトっちに街案内してあげようよ!私、美味しいところいっぱい知ってるよ!」


「え、ほんとですか!私、案内してほしいです!」


食事屋以外にもあるだろと勇者様がツッコミを入れようとしていたが、それはペトスさんの言葉によってかき消された。


「まあ⋯それはいいんだが、俺とアセルベは王様に呼ばれてるんだ。戻ったらすぐ王城に行かなければならないから、やるならダムと二人でしてきてくれ」


「なんで俺とロナリーは呼ばれてねえんだよ!」


「それは知らん」


⋯私も王様に呼ばれた記憶は無い。

勇者様はチラッとダム様に目を向けた。まるで、頑張れよと言わんばかりに。なんとなく察した。


「⋯あ、そろそろ着きますね。あれが、ルーエです」


「わぁ⋯大きいですね!あれが噂に聞いていた壁ですか!」


ペトスさんは目を輝かせていた。

さすが、主要な街というだけはある。壁で有名なのは意外だったが。


「昨日は蛇ダンジョン攻略だけだったから昨日のうちに帰れると思ってたんだけど⋯結局二日かかっちゃったね」


ロナリー様とダム様は何やら横に並んで話していた。


「そうだな。でももう慣れっこだろ」


「慣れてるけど!久しぶりの難関ダンジョン攻略日だから日帰りだと思って期待してたの〜!」


ロナリー様は怒ったようにダム様の肩を軽く叩いた。

私たち勇者パーティは今回みたいな難関ダンジョン攻略をする日は一度ルーエに戻って準備をし、その日限りで攻略をする。逆にその日以外は街の外で活動しているが。その方が探索範囲も広がって未だに見つかっていない魔王城も見つけやすくなるから仕方ない。もちろん、たまに休憩がてら戻ることもある。


「あ、あれは門番の人ですか⋯」


ペトスさんが呟く。

しばらく歩くと二人の門番が見えてきた。


「うわぁやっぱりあいついる⋯」


ペトスさんと同じように、ロナリー様も呟いた。

⋯ロナリー様は左側に見えるおっちゃんが嫌いだ。何があったかは知らない。


「お、ロナリーちゃあん!ダンジョン攻略行ってきたのお?お疲れ様だねえ!良かったらこの後ご飯でもどう?奢っちゃうよお!」


案の定、左側のおっちゃんが話しかけてきた。

私や勇者様、ダム様、ペトスさんは眼中に無く、ロナリー様だけに擦り寄った。


「あっ大丈夫ですぅ⋯」


ロナリー様はそのおっちゃんを避けるように、そそくさと先に街の中へ入っていった。


「待ってよロナリーちゅわあああん!」


⋯おっちゃんは泣き崩れた。

いつもこんな感じだ。正直見慣れてしまった。

まあ、いつもとは違ったドン引きのロナリー様が見れるからこれはこれで良い。


「そろそろやめましょうよ先輩⋯門番として恥ずかしいです」


もう一人の若い門番はごみを見るような目でおっちゃんを見下した。


「あっ、改めまして勇者様御一行。お帰りなさいませ」


「あぁ、ご苦労さま。帰り道にこの少女を拾ったんだが、街に入れても問題は無いか?」


「えぇっと⋯何か身分を証明出来るものはありますか?なんでも構いません」


「ペトス、何か持ってるか?」


「う〜ん⋯これぐらいしか⋯」


そう言うとペトスさんはポケットから首飾りを取り出した。銀色に輝くそれは、ペトスさんが首にかけるには少し長すぎるような気がした。


「これは⋯⋯あ、はい、大丈夫です。通っていいですよ」


若い門番はその首飾りをまじまじと見て、最初は不可解そうな顔をしたがすぐに笑顔になって許可を出した。


「ありがとうございます!」


そうして私たちは門を潜り、平和の街、ルーエに帰還した。

ロナリー様は門を通ってすぐのところで待っていたためすぐに合流できた。


「よし、それじゃあ俺とアセルベは王様のとこ行ってくるから、ロナリー、ダム、ペトスを頼んだぞ。集合はいつもの宿で」


「おっけ〜!よし、じゃあ行こっか!」


ロナリー様はペトスさんの手を引いて走っていた。


「え、ちょ、ちょっと待ってくれよ!」


⋯ダム様は、ロナリー様に追いつくとは思えない速さで走っていった。


「⋯俺らも行くか。王様んとこ」


「あ、あれ本当だったんですか?私はてっきりダム様のための嘘かと⋯」


「ん?呼ばれたってのは嘘だぞ」


「え?」


⋯しばらく無言の時間が続いた。


「まあ、他に行くところもないし、しばらく王様にも会ってないから別にいいだろ。昨日の報告も兼ねて行こうぜ」


「それもそうですね⋯」


そうして私と勇者様は王城に出向いた。

入口には屈強な兵士が門を守っていたが、勇者パワーを使って難なく入ることができた。⋯もちろん武力行使ではない。

突然の勇者とその仲間である私の来訪に驚いたのか、中の兵士たちはざわざわしていた。

改めて、平和な街だなと思う。普通兵士って、「何事にも動揺しない!」みたいな、ガチガチのイメージだけど、なんか笑い声も聞こえるし、しっかりした感じはない。

しばらく進むと大きな扉があった。所謂王の間というやつだ。

勇者様はその扉を軽くノックする。


「王様ー、いるかー?」


すると扉はガラガラという音を立て、ゆっくりと開いていった。かなり機械的だ。

扉が完全に開き切ると、奥の玉座に頬杖をついて座る王様が口を開いた。


「入れ」


私たちが足を踏み入れると、扉はゆっくりと閉まっていく。

中に兵士はおらず、この部屋には王様だけがいた様子だった。


「なんの用だ勇者フィデルよ⋯」


王様は重々しい声で問いかけた。

⋯いつ見てもおっさんだ。私が生まれて初めて見た時の姿と何ら変わっていない。それもあってか、見た感じは仙人みたいでめちゃくちゃ怖そうだ。


「二つ、報告に来た」


「言ってみよ」


「まずは⋯あの蛇ダンジョンを攻略してきた。クラオトサーペントもしっかり討伐してきたぞ。トドメはこのアセルベだ」


「ほう⋯あの忌まわしき大蛇を⋯⋯よくやってくれた魔法使いアセルベ。報酬として金百枚を与えよう」


「えっ、そんなにいいんですか?」


思わず声が出る。

この世界で言う金百枚は元の世界で例えると百万円だ。それだけあればしばらく生活には困らないだろう。

たしかに蛇ダンジョンは難しかったとはいえ、こんなにたくさんくれるなんて⋯やはり王様は見た目によらず優しい。


「おいおい、アセルベだけかよ!俺も頑張ったのに?」


「分かっておる。勇者フィデル、武闘家ロナリー、戦士ダム。それぞれには金五十枚を用意しよう」


まじか⋯太っ腹すぎる。かなり大きい街だからお金はあるのかな⋯


「助かる。そんで、もう一個の報告なんだが⋯」


「言ってみよ」


「⋯⋯あいや、いいや。なんでもない」


「そうか⋯では、帰りたまえ」


「おう、またな。王様」


そうして、王城を後にした。

とりあえず用が済んだので私たちは宿に向かうことにし、歩き出した。


「もう一個の報告、何を言おうと思ったんですか?」


「ペトスのこと。一応言っとこうと思ったんだが、あの王様のことだ。⋯そうかって言って終わるだろどうせ」


勇者様はあの王様の声真似をして言った。⋯思ったより似ていた。


「⋯いい判断だと思います」


「ま、今日はゆっくり出来そうだな。予定が変わって昼過ぎに帰ることになったし、出発は明日の朝とかでいいだろ」


「このパーティ全員朝弱いのによく朝に行こうとか言えますね⋯」


「仕方ないだろ!昼に出発したってそこまで進めないうちに夜になるんだから」


「夜に出発するという発想はないんですね⋯」


「夜は寝るべきだ。うん」


勇者様はなぜか自信満々に言った。


「まあ、それでいいと思いますよ。私も今日はちょっとだけ買い物してから、帰って寝ます。先に宿いってていいですよ」


「まだ寝るんかよ⋯」


「何か言いました?」


「⋯すんません」


そんな勇者様とは分かれて、私は一人で街をぶらぶらする。

久しぶりのルーエだ。せっかくだから何か買っていこうと思った。

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