【5話:新メンバー】
「⋯⋯ルベ⋯」
何かが聞こえる⋯?いや、気のせいか⋯
なんとなくひんやりしたものが体に触れている気もする⋯
気持ちいい⋯ギュッと抱きついてみるともっと気持ちいい⋯ずっとこのまま⋯⋯
「う〜ん⋯⋯」
「おい、アセルベ!起きろ!」
「⋯⋯うわぁぁっ!魔物?!」
私の上半身が突如として何者かにより起こされる。
⋯頭がぼーっとする。気がつくと目の前には勇者様の顔がドアップで映っていた。
「ゆ、勇者⋯様⋯?」
「何寝ぼけてんだよ。いい加減起きろ。ダムが可哀想だ⋯」
「え?」
下を見てみる。私は金色の鉄の上に座っていることに気づいた。
見覚えがある⋯けど、なんだっけ⋯頭が回らない。
「アセルベ⋯起きたならどいてくれ⋯⋯」
声のした方に目を向ける。そこには仰向けになって虚ろな目をしているダム様がいた。
⋯⋯あ、これダム様の防具か⋯
「す、すみません!」
慌ててダム様の体の上を降りる。
これ⋯もしかして私、ダム様に乗っかって抱きつきながら寝てたってこと⋯?
なんだろう、急に変な汗が出てきた。
「おはようございます、アセルベさん」
「ひぅっ?!」
びっくりして変な声が出てしまった。
「あ、ペトスさん⋯おはようございます」
私に向かって挨拶をするペトスさんは、魔法を使って何やら料理をしていた。
「ペトスで大丈夫です。あの、朝ごはんも魚でいいですか?他に食材がなくて⋯」
「はい、もちろんです。ありがとうございます」
そういえば、ロナリー様はどこだろう。
辺りを見渡しても、料理をするペトスさん、身を起こしてぼんやりしているダム様、メモを書く勇者様の姿ぐらいしかない。
「あの⋯ロナリー様はどこにいるんですか?」
「あぁ、ロナリーは⋯お前がダムを抱きしめて寝てるのを見るのが限界になったらしくて一人でウォーミングアップにいったぞ。なんかウッキウキだったが」
「あー⋯」
⋯これはまずいかもしれない。
ダム様はロナリー様のことが好きだったから⋯勘違いされてたらダム様が終わる。てかなんでウッキウキ?
「⋯」
ダム様は相変わらずボケーッとしていた。
⋯⋯あ、いや、これ違う。絶望してたのか。
ダム様ごめん⋯
「たっだいま〜!アセルっち起きたー?お、起きてるねえ」
⋯元気そうな犬がぴょんぴょんと跳ねてきた。
「あ、ロナリー様⋯」
いや、帰ってくるタイミング良すぎでしょ。しかも聞いてた通りなんか機嫌良さそうだし。
ともかくロナリー様の誤解をとかなければ⋯
「あの、私ダム様とは⋯」
「知ってるよ〜?ふふーん。言わなくてもわかっちゃう!見ちゃったもんね〜。やっぱりとは思ってたけど!」
私の周りをくるくると回り、下から私の顔を覗いてくる。
⋯⋯完全に手遅れかもしれない。
「いや、だから違⋯」
「ま、私はいいよ〜?ね、フィデっち!」
「なんで俺なんだよ」
「⋯」
駄目だ。聞く耳を持ってくれない。
なんか、私とダム様がくっついてくれたら嬉しいみたいな⋯?
「ぁぁぁ⋯⋯⋯」
おぞましい声が聞こえた。
⋯見たくないが、声がした方に目を向ける。
そこにはゾンビのような巨人がいた。
白目で口は半開き⋯まるで魔物みたいだ。正直怖い。
「みなさーん朝ごはんできました〜!」
ペトスさんがお皿を両手に持って走ってきた。
どこからお皿を入手してきたのかは不明だが。
「とりあえず⋯食べるか。おいゾンビ、しっかりしろ」
勇者様はダム様のほっぺを引っ叩く。
⋯こうして新たな一日が騒々しく始まった。
「――それで、何があったんだ?アセルベ」
勇者様は魚の刺身を頬張りながら言った。
というか、朝から刺身って⋯ペトスさんのセンスを疑う。魚だったら他にもあったでしょ!
それをガツガツ食べれる勇者様も勇者様だが。
「えーーとですね⋯⋯話せば長くなるんですが⋯」
「いやいやそれより、早くダムっちの説得をしなきゃ!」
ロナリー様が身を乗り出して言った。
「いいぞ」
「⋯え?」
「だから、ペトスを連れて行くんだろ?いいぞ」
「え、えぇ?どういうことぉ?」
ダム様の顔は既に元通りになっており、笑顔だった。さっきまでのは何だったのかと思うほどだ。
⋯ダム様の考えてる事はよく分からない。
「あぁ⋯大方予想はついた。昨日の夜俺らが眠ってる間に、アセルベがダムと話してなんやかんやしてるうちにアセルベが寝落ちして、さっきみたいなことになってたってわけだ」
「まぁ⋯そんなところです」
「待って、じゃあペトっちは⋯!」
「⋯っ!あ、ありがとうございます!」
ペトスさんは刺身が乗っているお皿を地面に置いて急に立ち上がり、今までにないくらい大きな声で明るく言った。
「うん。改めてよろしく、ペトス」
勇者様も立ち上がり、ペトスさんに手を出す。
そして二人は握手を交わした。
「⋯はい!」
⋯勇者様が刺身を口に含まずに言っていたら完璧だと思った。
「よし、じゃあそろそろ出発するぞ」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ!まだ全部食べれてない!」
「そんなこと言ったって⋯アセルベが起きるの遅いせいでモタモタしてるとすぐ夜になってしまうぞ」
「⋯」
なんとなく貶された感じがする。
⋯そういえば、今は何時なんだろうか。
私は静かに「ヴァリフィエ・マギア」と唱え、魔法で時間を確認した。
元の世界で言うデジタル時計のように、現在の時刻を表す数字が視界の真ん中に直接映る。
「十二時⋯⋯」
瞬きをするとその数字は消えた。
朝ご飯じゃなくて昼ご飯じゃん⋯
というか、ペトスさんもおはようございますって言ってたような。
勇者様に起こされたのもさっきだし、これ⋯結局みんな起きたの昼頃でしょ。
「⋯⋯最初に起きた人って誰ですか?」
「俺だ」
やはり勇者様か。この中ならまだ起きるのが早い。この中なら。
「⋯いつ起きましたか」
「十一時」
やっぱり昼じゃねえか。
「私のせいじゃないじゃないですか!起きる時間大して変わってないし」
「でも起きるのは一番遅かった。てか、俺に起こされなきゃずっと寝てただろ」
「⋯」
なんだこの勇者腹立つ。
というか、ペトスさんも昼に起きたのか⋯
つくづくこの勇者パーティは朝が弱いんだなと思う。
「はぁ⋯なら、さっさと行きますよ」
私はロナリー様とダム様を引きずって歩き出す。
「え、え?ちょっと待ってよ〜!まだ私の刺身が〜!」
「⋯⋯」
ロナリー様は手足をバタバタさせて暴れる。反対にダム様は腕を組んで微動だにしていなかった。
そんな二人を引きずる私が先頭になり、私たち勇者パーティは歩みを進めた。
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