第5話 巻き込んで……?
ただひたすら、目の前の
二人の憎むべき相手はヤツらじゃないだろうけれど、俺に手を貸してくれるというのなら、ありがたく受け入れよう。
だんだんと風が強くなり、俺たちを中心にして竜巻のように渦を巻き始めた。
「おい! 小森さん! あの三人、怨霊化してるじゃねぇか! どうするよ!? マズいだろう!?」
そうか、この状態が『怨霊化』なのか。まあ、ある意味、強くはなっているワケか。
「だったら……ちょうどいい。自分たちがしたことの報いを受けるのは当然だよな!?」
俺がそう言うと、村瀬も颯来も同調して「そうだ! そうだ!」と叫んで返す。
味方がいるのは、こんなにも心強いのか。
高揚していく俺たちとは逆に、谷郷はやたらと焦っている様子だ。
「小森さん! どうするよ!?」
「ここで三人とも怨霊化……困りましたねぇ……」
「おいおい! 呑気に構えている場合かよ!?」
谷郷と小森のやり取りは、廃村中に響く悲鳴や風で軋む木々の音の中でも、俺の耳に良く届く。
本気で困っている様子の谷郷と対照的に、
まったく、小森は本当に……谷郷が文句を言うのもわかる。まあ、たった今、起きていることの原因は俺だけどな。
「ヒェ……! チョッ……! 谷郷さん!? これ、どうなってんの!? 怨霊が三体も……なんでぇ!?」
背後から聞き覚えのない情けない声が聞こえて、俺は驚いて振り返った。
以前、
きっと、この廃村に待機しているSCCの
「安東くん! ちょうどいいところに……急いで怨霊化を鎮める護符を出してくれ!」
「護符ぅ……? でも谷郷さん! オレが対応できるのは一体が限界ですよっ! 三体も……どうすればいいんですかぁ!?」
「一体が限界だって!? くぁーっ! それじゃあなんの役にも立たないじゃあないか?」
「そうですねぇ……足止めにもなりませんねぇ……」
大慌ての谷郷と安東にくらべ、小森一人が妙に冷静だ。
埼玉支部の何人かは、茉莉紗たちが逃げないように取り囲みつつも、俺たちから距離を置いている。
胸の内に潜む感情が、さらに熱を持った気がして、ふと思い出した。
『とんでもなく恐ろしい怨霊化をし、周りの霊たちを巻き込んで吸収してしまったんですよ。それとともに、生きている人にも祟り、呪い、わたくしたちの手には負えなくなってしまったのです……』
小森は確か、そう言っていた。SCCに頼んで消滅してもらった、とも――。
巻き込んで吸収……ということは、この場合、俺が村瀬と颯来を吸収するのか?
隣に立つ二人を見ると、髪を逆立てて鬼の形相をしている。
(俺の境遇に共感してくれたのは嬉しいし心強いけれど、巻き込むのは違うだろ?)
生きていれば親しく付き合えたかもしれない。まあ、死んだ今からでも親しく付き合うのは可能だろうけれど。
俺の復讐に巻き込んで、消滅させてしまっていい相手ではない。
「さあっ!
「どうやって懲らしめる? どうやって苦しめてやろうか!?」
「もちろん二人とも、八つ裂きにしてくれるのよねぇっ!?」
「オレサマと颯来で二人にとり憑いて、互いの首を絞め合うなんてのもいいよなぁっ!」
声高に笑う二人が物騒なことを言いはじめ、さすがに俺も背筋が震える。
ほんの数分前には、俺は茉莉紗たちをヤル気満々になっていたけれど、村瀬と颯来の様子を見ているうちに腰が引けてきた。
消えて欲しくなどないんだ。
どうにかして、元に戻ってもらわないと。
「ちょ……ちょっと待てよ、な? 二人とも、まずはいったん落ち着いて……」
村瀬も颯来も俺を下から舐め見るようにして睨んでくると「はぁ?」と凄みのある声で問いかけてきた。
「落ち着け? 高梨ぃ……そりゃあ一体、どういう意味だ?」
「そうよ? 私たちは落ち着いているわ? これ以上ないほどにね!」
ゾワゾワとうなじの毛が逆立つような恐ろしさと不気味さで、俺の心はすっかりポッキリ折れているのに、体のほうは二人と同じ怨霊化のまま、もとに戻れていない。
向かい側に立つ小森は熱のこもった目つきで俺たちを見ているけれど、止めようとは思っていないようだ。
「いや、落ち着いてないよな? だって二人とも、そんな物騒なことを言うような人じゃなかっただろ?」
「物騒だっていうなら、コイツらのやったことのほうがよっぽど物騒だろうがぁ!?」
「物騒なことをされて死んでいるのは、高梨くんや村瀬くん、私たちのほうじゃないの!」
「そうかもしれない……いや、そうなんだけど! でも、このままじゃ怨霊化した俺が二人を吸収しちゃうかもしれないだろ!? そしたらどうなる? 三人そろってSCCに消滅させられるだけじゃないか!」
「だったらオマエは、コイツらをこのまま野放しにしろっていうのか!?」
「そんなの許せないわ! コイツらは報いを受けるべきなのよ!!!」
「わかってるよ! 俺だってわかっている! それでもそんなヤツらのことよりも、俺のせいで二人が消えてしまうかもしれないのが嫌なんだ! せっかく仲良くなれそうなのに、長く付き合っていけそうなのに! 村瀬くんと颯来さんが消滅しちゃったら、俺は死んでも死にきれない……あ……いや、もう死んでるんだけど……」
照明をわずかに落としたように、二人が纏っていた光が弱まって見えた。
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