第5話 一番奥の教室に……。

清水しみずさんの声、俺たちにはハッキリ聞こえたけど、あの二人には苦しそうな声に聞こえたんだな」


「うん、霊感のないヤツには、俺たちの声はハッキリ聞こえないみたいなんだよ。それにしてもあの二人、やたら驚いていたな。動画配信者ってのは、みんなあんなふうなのかい?」


「どうだろう? けど、まあだいたい似たような感じかな?」


「確かに、わたくしも何度かお会いしていますが、みなさん、高梨たかなしさんのように驚かれていますねぇ」


 また小森こもりが嫌味をいう。

 いちいち俺を引き合いにだすな、っての!!!


きょうちゃんも驚いただろうなぁ。知らん男が電話にでちまってさぁ」


 三枝さえぐさは苦笑いで電話を見つめた。

 確かに驚いただろうけど、きっと察しているだろうと思う。

 なにしろ、あっちだって昨日、団体さまを迎えたばかりなんだから。


 AとBは職員室の状態を説明しながら、録画を続けていたけれど、あのあと電話も鳴ることはなく、どうやら教室のほうを回ることにしたらしい。


――どうする? 一応、定点置いていこうか?


――だね。オレたちがほかの教室を見ているあいだに、また電話が鳴るかもしれないし。


 Aは黒電話がみえる位置に三脚を立て、カメラをセットした。

 Bはその様子を自分のカメラで撮り続けている。

 録画されているかを確認したあと、二人は職員室を出ていった。


「こんなところにカメラ置いていっちまったぞ? これはいいのかい?」


「うん、こうやって固定したカメラを回しておいて、そのあいだにほかの場所を見て回るんだよ。自分たちがほかに行っているあいだに、ここでなにか物音がしたり、姿を現したら、このカメラに全部録画されるってワケ」


「なるほどな……まあ、俺たちは彼らについていくんだから、ここじゃあなにも撮れないけどな」


 おもむろにカメラに近づいた三枝は、今度はカメラに触れた。

 ピピッと音がして、録画が停止したのがわかる。


「こうしときゃ、電池切れになることもないだろ?」


 あー……止めちゃったよ……。

 俺は苦笑いをするしかなかった。

 けどまあ、どのみちこの職員室からは誰もいなくなるんだから、録画していても意味はないか……。

 AとBを追ってのんびり廊下を歩いている三枝の後ろを、小森と並んで歩いた。

 

――夜の学校ってさ、結構不気味だよな?


――あー……七不思議とかもあるもんな。


 Aは半開きになっているドアから、教室の中に向かって『誰かいますか?』とやっている。

 三枝は時々、机や椅子を叩くくらいで、大きな動きは見せない。

 ただ、誰もいないはずの教室の中で音がするのは、俺だって不気味に思うくらいだから、AとBはずっと怖がりっぱなしだ。


 どの教室も特になにも起こらないからか、二人はザッとライトを巡らせて簡単に覗き見るだけに留まっている。

 このまま帰らせちゃうんだろうか? と思っていると、三枝は一番最後の教室の前に行き、俺たちに手招きをした。


「なんだろう? あそこで待ち構えてなにかするのかな?」


「そうですねぇ……三枝さんに、なにか考えがあるんでしょう。行ってみましょうか」


 最後の教室へ向かうAとBを追い越して、急ぎ足で三枝のところへ行くと、三枝はそのまま教室の中へ入っていった。


「三枝さん? ここでなにが……うわああぁっ!!!!」


 教室の後ろにある棚の前で、三枝と向かい合って立っている人影に、俺は驚いて大声を上げてしまった。


――え? え? 今の聞こえた? 男の声で『うううう』って言ってたけど!


――俺も聞こえた。アレかな? 例の用務員さん?


――一番奥の教室だったよな?


 話ながらAとBがやって来て、教室を覗くなり、俺と同じように大声で叫んだ。

 それをみて、三枝も小森も声を押し殺して笑っている。


 ていうかさ、叫ぶよ。誰だって。

 ビックリしたわ、マジで!!!


「三枝さん! なんで教室に人体模型があるんだよ!? こーゆーの普通は理科室とかにあるんじゃないの!?」


「これなぁ、ここへ肝試しに来たヤツらが、いたずらで理科室から持ってきちまったんだよ」


「これだけ大きいと、わたくしたちでは、戻すのは難しいですよね」


 うぐぐ……確かに……。

 ちょっと慣れたかと思った途端、こんな洗礼を受けようとは……思ってもみなかった……って、全連ぜんれんに来てから、こんなんばっかりだな!


「つーかさ! 怖がらせなきゃいけないのは、あっちのヤツらだろ? 俺をビックリさせたって意味ないじゃんか!」


「そんなこたぁねえよ。高梨くんが大きい声を出してくれたおかげで、彼らを呼び寄せられたんだからさ」


「いやいや、普通に待っていれば、勝手にここまで来ただろ!」


 俺が一生懸命に抗議をしても、三枝も小森もニヤニヤと笑っているだけだ。

 これは絶対に、わざと俺を驚かせたんだな。


――なあ、さっきから話し声が聞こえるよな?


――うん、オレにも聞こえる。


――やっぱり? 絶対に誰かいるよな? 人か幽霊か……けど、ここまで人はいなかったもんな? まさか人体模型じゃないよな?


――スピリットボックスやってみたいけど……Cくんに持たせちゃったんだよなぁ……失敗したな。


 俺たちのやり取りは、AとBにも届いているようで、二人が教室を探索しながら、そんな会話をしている。

 三枝はコツコツとあちこちを叩いて、音を出している。


――ヤバい。音がめっちゃ近くで鳴ってる。


――周り、取り囲まれてる?


――人体模型のほうから聞こえるけど……まさか動いてたりしないよな?


 取り囲まれているように感じるのか。

 実際は、三枝は人体模型の側にいて、俺と小森は教室の後ろのドアにいるんだけれど。

 二人が音を気にしながら教室の様子を録画しているのを見ていると、二階から強烈な悲鳴とともに、ドタバタ走り回る音が響いてきた。

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