第4話 黒電話の……。
――うわー……凄く荒れてるなぁ……。
――ホント、落書きも酷いね。
AくんとBくんと呼ばれていた二人は、廊下の落書きを画面におさめている。
すぐには教室などに入らないようだ。
校舎は木造の二階建てで、大きくはないといっても横長で、職員室のほかに保健室や先生たちのロッカールーム、教室は六クラスあり、長い廊下は思うよりも距離がある。
AもBも真っ暗だなんだと、話ながらドアの前に立った。
――あっ、ここが職員室だよな? 失礼しまーす。
カラリと
俺の前を歩いていた三枝が、わざと割れて散らばっているガラスを踏んだ。
――パリッ!――
――え? 今、足音しなかった?
――聞こえた! 後ろからだったけど……誰かいますかー?
こちらにライトを向けるけれど、俺たちの姿は当然、見えていない。
「ここへ肝試しに来るヤツらは懐中電灯が多いけど、アイツらの持っているライトはやたら眩しくて嫌だな」
「録画してるからかな? 光が強いよな。でもさ、最近の懐中電灯も割と明るくない?」
眩しいといってボヤく三枝に、俺がそう言ってみると、懐中電灯とは全然違うという。
おもむろに三枝は二人のところへ近づいていくと、そのライトに手を重ねた。
パパッと点滅してから、ライトが消えた。
――えっ! なんでなんで!? ちょ! ライト消えたんだけど!
AもBも大声で慌てふためき、ライトをいじくりまわしている。
三枝は素知らぬ顔で、俺たちのほうへ戻ってくると、ニヤリと笑った。
「今の、ライト消したの三枝さん?」
「だって眩しいじゃないか。上に行った連中なんて、蛍光灯持ってただろう? 光が強すぎんだよな」
「三枝さん……あれはリング型のライトで、蛍光灯じゃないよ……」
「えぇ? あんなものがライトなのかい? はー……世の中、変わっちまったもんだなぁ……」
三枝も
だからスピリットボックスもトリフィールドも知らないらしい。
というか、あんなふうに人が手にしている機器に干渉できるんだな……。
俺は心霊系の動画でも、たびたびカメラの電源が落ちるとか、ライトが消えるとかいうことがあったのを思い出していた。
あれらも、三枝がやったように、普通に消されていたのかもしれない。
そう思うと、ビビり倒している姿が、ちょっと滑稽にみえる。
すぐにまたライトが点灯し、AとBは職員室の中をぐるりと見まわした。
――誰かいます? いますか?
そう聞くけれど、俺たちがいるといったらどうするんだろう?
――誰もいない……まあいいか……とりあえず黒電話、探そうか。
手分けをして机の上を調べている二人に、三枝は足音を立てずに近づいていき、窓の側で立ち止まった。
ボロボロに引き裂かれて、すっかり本来の使いかたができなくなったカーテンを、ふわりと揺らしている。
――うわあっ!!!! 今! 今! カーテン揺れた! え? なんでなんで!? 誰かいますかっ!?
Bが大声で叫びながら、揺れるカーテンをめくった。
――うそ……誰もいない! え? 人、いないんだけど!? じゃあ、なんで揺れたの!?
――Bくん慌てすぎ。通るときに触れたんじゃないん?
――いやいやいや、触ってないって! マジで今、オレ、ここ通ったけどカーテンとめっちゃ距離あったから!
――窓ガラス割れてるし、風じゃね? てか、今の、カメラ撮ってた?
――撮ってないよ! だってオレ、机の上に向けてたから! それに今、無風だし! 風吹いてないし!
――マジか。とりあえずさ、黒電話、見つけちゃおうよ。教室のほうも見に行かなきゃだしさ。
――え? あ……そっか……うん、そうだね、そうしよう。
大騒ぎするBに、ちょっと呆れたような言いかたをするAは苦笑していた。
「ホラ、やっぱり普通はビックリするって。あの人だって、めっちゃ驚いてたじゃん。俺だけがビビリってワケじゃないだろ?」
「
くそう……。
慣れればビックリすることなんてなくなるんだろうけれど、今すぐにでもビビリと思われているのを払拭したい。
……リン……
……リリリリリン……リリリリリン……
電話の音が微かに聞こえて、俺の心臓が飛び出すかと思うほどドキッと鳴った。ないんだけどな。
「小森さん、電話、鳴ってないか?」
「ええ、鳴っていますね。まぁ、恐らくは
清水はこっちの状況がみえているんだろうか?
とんでもないタイミングで電話してくるんだな!
――え? ちょっと! Aくん! 電話! 電話鳴ってる!
――え? ホントに?
――鳴ってるって! ホラ! 聞こえない!?
――うん……てかBくん、ちょっと黙って。
――だってホラ! 鳴ってる……。
――シッ! 静かにして!
Bは右手のカメラでAを撮りながら、左手で口をふさいで凄い速さで首を縦に振った。
――ホントだ……微かに聞こえる。てかさ、肝心の電話はどこだ? どこから音が聞こえる?
Aは机の上の書類をどかしながら、黒電話を探している。
数分、そうして探していると、安田が寝そべっていたソファの隣にある机から黒電話が見つかった。
積み重なった本と本のあいだにあったせいで、見つけにくかったようだった。
――Bくん! あった! ホラ、黒電話!
――マジであったんだ……どうする? まだ鳴っているよ?
Aは若干
――もしもし?
Aは受話器を耳に当てているのに、俺には受話口から清水の声がハッキリ聞こえた。
『もしもし? ヨッちゃん?』といっている。
小森も同じく聞こえたようで「ああ、やっぱり清水さんですね」と呟いた。
――うわあっ!
Aにはどう聞こえたのか、突然、受話器を頬り投げた。
――Aくん? どうしたの?
――今、俺が出たら『うおおおお』って苦しそうな女の声が聞こえた!
――えっ……。
――どうしよう……でもこれ、絶対カメラに音声は入ってないよ……俺、カメラ自分に向けてたし……。
言い訳をするようにAは呟き、恐る恐る受話器を拾って、また耳に当てた。
――もしもし? もしもし? 女性のかたですよね? もしもし? ……駄目だ。なにも聞こえない……。
Aはなんとも言えない嫌な感情を顔に浮かべ、受話器を置いた。
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