組合活動見学巡りver.廃絞

第1話 今度は廃校だ!

「さあっ! 高梨たかなしさん! 今夜は廃校の見学に行きますよ!」


 体のだるさが抜けきっていないところを、小森こもりに叩き起こされた俺は、少し不機嫌だった。

 CDのデッキを持って帰ってきたはいいけれど、この霊体の状態では使い方がわからず、明け方近くまで三軒さんげんに教わっていたんだから。


「今度は廃校? ってか、ここだって廃校だろ? いいよもう……廃校は……」


「なにを仰るんですか! 同じ廃校といっても、この本部とは全く違いますよ?」


「え? そうなの?」


「本部はSCCできちんと整備されていますが、現場の廃校は、だいぶ荒れているんですから」


「だって、荒れているったって、どうせ担当者がキレイにみせてくれてるんだろ?」


「見せているのと、実際にキレイなのはまったく別です」


 小森は機嫌を損ねたような顔で、眼鏡のブリッジを上げた。


「とにかく、次の廃校も山の中ですから、もう出かけますよ」


「えぇ……?」


 時計を見ると、もう午後二時だった。

 俺はそんなに長く休んでいたのか。

 渋々、小森のあとを歩き、またも車に乗り込む。


「つーかさぁ……こんなに毎日、見学に行かなきゃいけないワケ? 俺、さすがにしんどくなってきたんだけど!」


「本来は、もう少しゆっくりお教えするんですが、もうすぐ夏になるので、できれば早く現場に出ていただきたいんですよ」


 昨日、宮脇みやわきも、もうすぐ夏だから人が増えるといっていたっけ。

 その対応に、みんなが追われる最中、俺みたいな新人が入ってやっていけるのか?

 どう考えても、足を引っ張るとしか思えないけど?


「最初は複数人いる現場で、禁足地のないところを担当していただくので、大丈夫ですよ」


 小森は俺の心配や不安をよそに、勝手に予定を立てているようだ。

 最初のうちは、小森か三軒がついていてくれるというけれど、不安しかないよ。


「最初はみなさん、不安そうでしたけど、やることは難しくないでしょう?」


「まぁね」


「ですから、すぐに慣れるんですよ」


「はぁ~……まあ、いきなり一人にされるんじゃなければ、なんとかなるだろうし、良いんだけどさぁ……」


 それに、こうしてあちこちに行きながら、ほかの組合員たちを紹介する目的もあるんだろう。

 いきなり全員と顔を合わせるよりは、少しずつ会ったほうが、俺も覚えやすい。

 きっと俺も、東京支部になるんだろうし。


 山の中の廃校なら、さすがに今日は、お客さまも来ないだろう。

 お客さまが来なければ、きっと挨拶だけで帰れるはずだ。


 車は山の細い道を登り続けていく。

 途中の分かれ道は、もう人が通らなくなった道だからか、やっぱり草が茂って道だというのが嘘のようだ。


「なんか、最初に行った廃村みたいだな」


「そうですねぇ。まあ、これから行く廃絞は、廃集落にありますから」


「え? じゃあ、廃村と変わらないじゃん?」


「あの村よりも、規模が大きいんです。とはいえ、かつて暮らした人々は、そこまで多くありません。ですから、学校自体も大きくないんですよ」


「俺、本部みたいな学校を想像していたけど、もしかして木造とか?」


「ええ。木造ですが比較的新しいので、状態はいいんですよ」


「ふうん……」


 以前みた動画で、木造の学校がでているものがあったっけ。

 地方だから木造校舎が残っているんだと思っていたけど、こんな近場にもあったなんて。


「廃集落になったのも、以前行った廃村より後になります」


 車はやがて周辺に家の建つ中を通り、その一番奥へとたどり着いた。

 あちこちに建つ家は、本当に颯来そらのいた村よりも新しい。

 歪みは出始めているけれど、崩れ落ちた家は、一軒もなかった。


「こんな山奥なのに、ここも禁足地はないんだ? ここにこそ、ありそうだけど」


「山の中だからといって、そこかしこにあるわけではありませんから」


 目の前に木造の校舎がみえてきた。

 確かに状態はいいけれど、あちこちに落書きがされ、校舎の周りには缶や瓶が散乱している。

 きっと、肝試しに来たヤツらの仕業だろう。


「小森さん! 久しぶり!」


 校門の前で車を降りると、校庭にいた男が駆け寄ってきた。

 用務員のような格好をした、老人だ。


三枝さえぐささん、今日はお世話になります」


 夕日が落ちて暗くなりかけているけれど、俺はもちろん、二人の影もない。

 幽霊には影は落ちないのか。


「新人さんだって? 俺は三枝 由雄さえぐさ よしおってんだ。新しい人が入ってくれるのは嬉しいねぇ」


「高梨わたるといいます。よろしくお願いします」


 軽く頭をさげると、三枝はニッコリ笑った。人のよさそうな雰囲気だ。


「あんた、運がいいよ! 今日、昼間にが下見にきてね。きっと今夜、やってくるよ~」


「本当ですか? いやはや……高梨さん、アナタ、本当に運がいい」


「えぇ……今夜も? マジか……」


 だからそんな運、良くなくていいというのに……。

 三日も連続で、なんでくるんだよ~。

 これじゃあ、今夜も帰りが遅くなりそうだ。


「三枝さん、今夜のは、どんなかただったんですか?」


「ああ、団体さまだったよ。若い男たちだった。ワイワイと賑やかでねぇ、見ていて俺も楽しくなっちまったよ」


「それが下見だって、なぜわかったんです?」


「なんだかんだと話をしていたがね、なんていうんだ? 手にビデオカメラみたいなものを持っていてな、夜にまた来るって言っていたんだよ」


「へぇ……カメラ? それじゃあ、きっとそいつら、動画配信者だな」


「ほ~、あれが噂の……ここへそんなのがくるのは、初めてだ」


 これまでは、肝試しにくる学生や大人ばかりだったそうだ。

 三枝は、初めて迎える動画配信者とあって、少し興奮気味に俺たちを校舎へといざなった。

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