第3話 団体さまのお越し……?
「今日は
「村瀬は今、隣の棟にいるのよ。京ちゃんは向かい側。ちょっと呼び出すわね」
「あ、村瀬?
電話機のフックをカチャリと押し「すぐにくるって」という。
「あの、電話、生きているんですか?」
「ううん。普通には繋がっていないわよ。でも、私たちのあいだには、そういうの、関係ないから。あ、もしもし? 京ちゃん?」
関係ないって、どういうことなんだろう?
そう思った瞬間、俺の鼻すれすれのところを、誰かが通り抜けた。
「あああああああああああ!!!!! なんか出た!!!!!!!!」
「ギャッ!!!!」
俺が叫んだのと同時に、通り抜けたなにかも叫び声をあげている。
「宮脇さん! オバオバオバ……ンンンンンンン!!!!!」
「ちょっとぉ! 誰がオバンなのよ! こちら、新人の
「オバケ……え……? じゃなくて新人さん? なんだぁ……なんだよぉ……脅かさないでよ」
村瀬と呼ばれた男は、腰砕けになってソファーの脇に座り込んだ。
脅かされたのは俺のほうだ。
けど……この村瀬という男、ひょっとしてビビリ……?
「あの……ボクは
「あ……高梨
村瀬は俺よりも若く見えるし、宮脇と違って、最初から普通の姿だ。
宮脇と並ぶと、親子のようにみえる。
聞けば村瀬は亡くなって十一年が経つそうだけれど、組合に入ったのは五年ほど前だという。
「村瀬さんも、高梨さんと似て少しばかり怖がりなんですよ。お話しができるまで、六年もかかりました」
小森はニヤニヤ笑いでそう話す。
やっぱり普通は、こういうの怖いって。
俺だけじゃあないんだと、ホッとする。
「あれ? ここって、三人いるっていわなかったっけ? あと一人は……ウッ!!!」
俺が小森に問いかけると、小森の背後に重なるように、真っ黒な影がみえた。
ビクンと体が震え、心臓までドクンと跳ね上がったような気がした。
「……新人さん……高梨くん、ね? ワタシ、
小森の背後で体を半分だけ覗かせながら、清水が名乗った。
茶髪の長い髪はウェーブが掛かり、前髪が絶壁のようにそそり立っている。
年齢は二十代前半だろうか?
清水もキレイな格好だけれど、体にぴったり貼りついたような真っ黄色のワンピースを着ている。
確か、ボディコンとかいうんじゃあなかったか?
一見、キレイにみえるけれど、清水もまた血まみれの姿だ。
胸に包丁らしきものが刺さり、太ももの辺りまで血濡れている。
ビジュアル的に、宮脇よりも怖い!!!
「清水さん、お元気そうですね」
小森はまるで普段通りの態度で挨拶をしている。
こういうところは凄いと思うけれど……これも慣れなんだろうか?
「高梨さん、清水さんは地縛霊なんですよ」
「地縛霊? っていうことは、ここから動けないってコト?」
「そうよ。ワタシ、ここで死んでるから」
なぜ、こんな場所で、と思いつつ、それをハッキリ聞くのが怖くて、俺は「そうなんですか……」とだけ言った。
だって絶対に、聞いたら怖い話になるだろ?
今、見えている姿こそ、そのときのままなんだろうからさ。
「いつもはねぇ、京ちゃんだけでやっているんだけど、もうすぐ夏でしょ? そうすると、ここも人が増えるのよぉ」
宮脇は、夏になると子どもたちが肝試しに来ることが増えるから、この時期だけは、なるべく人数を多く待機させるといった。
入れ替わり立ち替わりで、日に何組も来たり、週末も平日も関係なく、立て続けに何日も人がくる場合もあるんだそうだ。
「さすがに一人だと、対応しきれなくなっちゃうのよね」
「そんなに来るんじゃあ、そうなるだろうな」
「けどね、そんなときこそポイントの稼ぎどきなワケよ。こっちも気合い入れて脅かしに掛かるからね」
「へぇ……」
そんな話をしているあいだに、全員の胸もとの
見ると、男と女のマークが点滅している。
「おや……団体さまがお越しになったようですね。高梨さん、アナタ、本当に運がいい!」
「えぇ……? そんな運、別に良くなくていいよ……」
「高梨くんは、移動の仕方や音の出し方はわかっているのよね?」
宮脇に問われ、俺はうなずいた。
「それじゃあ、先ずは私についていてくれる? 一番手前の棟に移動するから。そのあと、村瀬くんと京ちゃんのやり方を見にいきましょうか」
「……わかった」
こんなに立て続けに、お客さんが来るところに遭遇するなんて、どんな運なんだか……。
「村瀬と京ちゃんは、急いで自分の配置についてね」
「りょうかーい」
二人は床をすり抜けて、別の棟へと行ってしまった。
俺と小森は、宮脇の先導で一番手前の棟へと急いで移動する。
手順をしっかり教えてくれる宮脇は、また最初にみたときの恐ろしい姿へ戻った。
外からワイワイと男女の声が響いてきた。
これから怖い思いをするとも知らず、賑やかな笑い声まで聞こえてくる。
なにも出やしないと、たかを括っているのか、それとも本気で幽霊を見たいと思っているのか、俺にはわからないけれど、よくもまぁ、こんなところへ足を運ぶものだと感心してしまった。
「おもてなしは、丁重にしないとねぇ。高梨くんも、頑張ってポイント稼いでちょうだい」
宮脇は豪快に笑って、そういった。
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