第2話 廃村の廃屋……?
「はーい!
呼び声に、小森はスッと玄関のドアをすり抜けていった。
俺も慌てて後を追うけれど、中に入って大丈夫なのか?
ほかの建物よりは、キレイに残っているけれど、いつ崩れるか、わからないんじゃ……?
「
「見学?」
「はい。こちら、新しく加入された、
建物に入って驚いた。
そこは廃墟などではなくて、まったく普通の家の中だった。
廊下も壁も、傷んでいるところが見当たらない。
「高梨さんですか。私は
「あ……どうも……よろしくお願いします」
「どうぞ~、中を案内しますよ」
颯来に促されて家の中へと進む。
奥の部屋は和室だけれど、匂いがするほど真新しい畳が敷かれていた。
「小森さん、ここ、廃墟だよな?」
「え? ええ、もちろんそうですよ」
「めっちゃキレイなんだけど。昔の家だけど、建ったばかりみたいにみえるよ?」
俺は小声で話したつもりだったけれど、なにもない廃村では、少しの音も聞き取りやすいようだ。
颯来がこちらを振り返り、クスリと笑った。
「小森さんから聞いていないの? 私たちのいる空間って、いい状態のときと同じように変えられるんだよ?」
「は? それってどういうこと?」
「んー……物の記憶、っていうの? 人が暮らしていたときの形。ただ、私たちにはそう見える、っていうだけなんだけど」
「実際には、この建物もあちこちが痛んでいるんですよ。床が落ちたり、階段が抜けていたり、と」
「見たほうが早いかな?」
颯来はパチンと指を鳴らした。
そのとたん、周囲の景色がガラリと変わり、俺の体は抜け落ちた二階の床板の真ん中に立っていた。
古いコント番組なんかで、天井から床が落ちてきて、頭に当たって突き破る……。
こんなシーンを見たことがあるような気がする。
「これが、本来の形で、生身の人間に見える景色なの」
「へぇぇ……実際に変わるんじゃないんだな」
「もちろん、このままでも別にいいんだけど、何日も過ごすのに、こんなところは嫌でしょ? だからみんな、自分がいる場所はキレイに見えるようにしているの」
颯来がまた指を鳴らすと、最初のときのようにキレイな部屋に変わった。
こうなっているときは、椅子にも座れるし、ベットや布団にも横になれるという。
水回りも使えて、お茶も料理もできるらしい。
「ホントに普通に暮らしているみたいだな」
「電気も点いているように見えるでしょう? でも、実際は点いていないの。ただ、霊感がすごく強い人には、稀に見えちゃうのよね」
「ですが、動画を配信されている方々には、そこまで強いかたはいらっしゃいませんからね」
「……ふうん」
説明をしながら、颯来は本当にお茶を入れてくれて、ダイニングテーブルに置いた。
小森に促されて、恐る恐る椅子に触れると、生きていたときと同じような感触だ。
普通に座ることもできる。
さっき見た、廃屋の光景が信じられないくらいに、普通だ。
「そうそう、小森さん。今日、お客さまが来るんですよ」
「それは、いいタイミングで来ましたね。高梨さん、アナタ、運がいいですよ」
運がいい?
なんのことだ?
っていうか、お客さんが来るんだったら、俺たちは帰ったほうがいいんじゃないか?
「ところで颯来さん、今日のSCCはどなたが?」
「今日、というより私がきてからずっと、
「……広前さんが? そうですか。それじゃあ、ちょうどいいから挨拶をしてきましょう」
小森は手にしたカップを置くと、立ち上がって俺を促して玄関へ向かっていく。
俺も急いでお茶を流し込み「ごちそうさま」と颯来に声をかけてから、小森を追いかけた。
来た道を戻るように坂を少し下り、脇道を曲がると、二股に別れた右側を進んだ。
そのあとも、もう草木で消えかけた道をウネウネと曲がったり戻ったりしながら、廃村の一番奥らしきところまで来た。
「このもっと奥まで行くと、昼間にお話しした『禁足地』に通じるんですよ」
「こんな山の中なんだな」
「ええ。ほとんどの場所が、おいそれとは入っていかれない場所ですから」
伸び放題になっている草木の中を、ひたすら真っ直ぐ進むと、大木の陰に小さな建物がある。
下の廃村は建物のほとんどがダメになっているというのに、この小屋は痛んだ様子もない。
「あの小屋は?」
「SCCの詰所のようなところですね。緊急でなにか起こったときに、あそこで待機しているSCCのかたが、対応してくださるんですよ」
SCC、と聞くと、
あの失礼な男だ。
あの中に、あんなヤツがいるのかと思うと、身構えてしまう。
「お疲れさまです。
ノックをして声をかける小森の後ろで、俺はジッと待った。
『開いてるよ。入りな』
建物が頑丈なのか、中から届く声は小さいけれど、待機しているのは女性だとわかった。
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