第25話 ドMへの一斉攻撃

「……私が狭量だったようざます。エリちゃまが世界を旅して、ここまで成長しているなんて想像していなかったざます。この村への滞在を認めるしかないざますね」


 やがて起き上がったベアトリスは、キリリとした表情で『理解ある親』という雰囲気を出す。


「ここにいる全員、あなたがビクンビクン痙攣して奇声を発するのを見ているので、今更取り繕われても、という感じです」


「うん……真祖ってもっと神々しいイメージあったけど、完全にぶっ壊れたわね」


「我が昔に倒した吸血鬼のほうが、まだ威厳があったぞ」


「わ、私たち親子は真祖の中でも特別ざます。真祖の参考にしてはいけないざます!」


「お母様! 真祖のなんたるかを散々語っておいて、今更卑怯ですわ! あと『私たち親子』とか言って、わたくしまで巻き込まないでくださいまし!」


 エリエットは眉をつり上げて起こる。

 その気持ちは分かる。だがベアトリスの言い分こそ正論に聞こえる。

 絶対にこの親子は同類だし、真祖の異端だろう。異端であって欲しい。真祖の尽くが変態だったら、この世界の吸血鬼たちがかわいそうだ。


「エリエットさん。親に反抗したい気持ちは分からなくもないですが、似たもの同士と認めたほうが楽になれますよ」


「そんな! ロザリアさんまでそう思ってますの!? 酷いですわ! わたくしも薄々思っていたのに……これではほぼ確定ではありませんか!」


「自分で薄々思った時点で確定させといてください」


「うぅ……とにかく、これで話はまとまりましたわ。わたくしはお母様の結界を壊せるだけのものを作れるようになったのですわ。安心して帰ってくださいまし!」


「分かったざます。けれど帰る前に……そこの小さいあなた。真竜ざますね? さっきの前脚の一撃、素晴らしかったざます。もっと本気を出せば、私の結界を砕けるざますね?」


「うむ。当然だ。さっきのは咄嗟にやったことだから、本気にはほど遠いぞ」


「容赦なくやって欲しいざます! それからロザリアさんの妹さん。あなたには可能性を感じるざます。きっとすぐに強くなって私に猛烈な痛みを与えてくれるはずざます……想像しただけで興奮するざます!」


「え、ええ……」


 イリヤがドン引きしている。もしかしたらこれで頑張るのをやめてくれるかもしれないぞ、とロザリアは期待した。


「人間の剣士の方も、只者ではない雰囲気ざます。足運びが達人ざます。今はまだ無理でも、近い将来、結界ごと私を斬ってくれそうざます。そしてロザリアさん! 私の娘にインスピレーションを与えたあなたにボコボコにされたいざます! さあ、皆さん! 私に一斉攻撃するざます!」


「キモいから嫌です」


「んんっ! その蔑む目がたまらないざます! しかし私が本当に求めているのは精神的ではなく肉体的な暴力ざます! 私が満足するまでここから動かないざますよ!」


「わたくしのお母様が申しわけありません……ですが、お母様がこう言い出したらテコでも動きませんの。どうか全力でボコボコにしてくださいまし……」


 それから三時間ほど、ロザリアたちはベアトリスに攻撃しまくった。

 リリアンヌが最初に疲れ果て、続いてイリヤが脱落。

 ロザリアとアジリスが根を上げたとき、そこには巨大なクレーターができていた。

 クレーターの底でバラバラになったベアトリスが気持ちよさそうに喘いでいた。

 放置して帰り、次の日に様子を見に来ると、ベアトリスの破片は綺麗に消えていた。どうやら満足して帰ったらしい。


「……キモいですが、本当に脅威の再生力です。敵には回したくないですね。キモいですし」

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