第23話 似たもの親子

「そうざますよ。エリちゃまはエリエットのことざます。そして私はエリちゃまの母にして、真祖吸血鬼のベアトリスざます」


 真祖。

 それは噛まれて後天的に吸血鬼になったのではなく、生まれたそのときから吸血鬼だった者のことだ。

 後天的な吸血鬼に対して、格上だとされている。


「エリエットさんも真祖なんですか?」


「そうざます」


「しかし……エリエットさんからは吸血鬼の気配を感じませんけど」


 イリヤが持ってきた生首のおかげで、ロザリアは吸血鬼の気配を覚えた。それを遙かに濃くしたのをベアトリスが放っている。

 だがエリエットとは何度も会っているのに、類するものを一度も感じていない。ただ変人だなぁと思うだけだ。


「嘆かわしい話ざます。エリちゃまは人間の振りをしているざます。錬金術、とかいうので作った道具で、誇りある真祖の気配を押さえいるざます」


「なんと。こんな強い気配を押さえる道具を作れるなんて、やはりエリエットさんの技術は凄いですね」


「お褒めにあずかり光栄ですわ! 天才は天才を理解するのですね! ロザリアさんとお友達になれて本当によかったですわぁ!」


 エリエットがしがみついてきた。

 友達だったのか、とロザリアは薄情なことを思ってしまう。

 まあ、相手が変態でも、こう慕われると悪い気はしないので友達でもいいだろう。


「エリちゃま! 小手先の技を褒められて喜ぶなんて、母は悲しいざます! 恐れられてこそ真祖ざます。讃えられるべきは力ざます。なのに錬金術なんて怪しげなものにハマり、人間の振りをして生きるなど……さあ、家に帰るざます!」


「嫌ですわ! 錬金術は素晴らしいものですわ。無限の可能性がありますわ。あとお母様だって、さほど恐れられてはいませんわよ。たんに気配の大きさでビックリされてるだけですわ。それだって慣れてしまえば、口調が変な吸血鬼でしかありませんわ」


「口調のことでエリちゃまに言われたくないざます! 母はちゃんと恐れられているはずざます!」


「嘘ですわ! お母様が『お腹空いたざます』と言えば、近所の人たちが『仕方ないなぁ』と率先して血を吸わせてくれるではありませんか! 恐ろしい真祖吸血鬼のイメージを作りたいなら、たまには強引に襲って吸血してはいかがですの?」


「ご、強引に襲うなんて、そんな酷いことできるわけないざます!」


「よくもそんな体たらくで、わたくしに口出しできたものですわ!」


 全くだ。

 さすが親子だけあって似ている。二人とも根が善の属性なのだ。


「えっと。話をまとめていいですか? ようはエリエットさんは家出娘で、ベアトリスさんはそれを連れ戻しに来ただけ。この村に危害を加える意思は全くない、と」


「そうざます」


「なのに早合点したイリヤが、話も聞かずに攻撃して大騒ぎになった、と」


「ぎくり」


 ロザリアが睨むと、イリヤは目をそらした。


「やれやれ。相手の目的を確かめず、実力も測れず……結果的に怪我をしませんでしたが、ベアトリスさんが悪の吸血鬼だったらどうなっていたやら。これで自分が未熟だと分かってでしょう? ほら、ベアトリスさんに謝ってください」


「……はい……いきなり攻撃してごめんなさい」


 イリヤはふて腐れた顔を浮かべながらも、謝罪の言葉を発した。


「素直でいい子ざます。私は気にしてないざますよ。そしてエルちゃまも素直に家に帰るざます」


「ですから、嫌と言っていますわ! わたくしは色々なものを見て勉強したいのですわ。そしてロザリアさんのそばにいれば、想像もしていなかったものに出会えるのですわ。実家は落ち着きますし、吸血鬼と人間が仲良くしている素敵な町ですが、わたくしの好奇心を満たせないのですわ!」


「なんてワガママな子ざましょう……こうなったら実力行使ざます! エルちゃま、あなたが錬金術で作った道具で私と戦うざます! 真祖は道具など使わず、自分の力を振りかざしたほうが強いと教えてあげるざます!」


「望むところですわ!」


 なんだか話が物騒になってきた。


「あの。親子喧嘩を止めるつもりはありませんが、村の外でやってくださいね。村に少しでも被害を出したら、敵と見なしますので」

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