第22話 娘を探してるざます

 吸血鬼の気配が村に降り立った。

 イリヤが持ってきた三つの生首など比較にならない、強大な気配だった。


 ロザリアは慌ててそこに走って行く。

 すでに誰かが戦っているようだ。この魔力の波長は、よく知っている。


「イリヤ!」


 ロザリアは叫ぶ。

 今まさに、女吸血鬼の魔力で妹が吹っ飛ばされるところだった。

 落下地点に先回りし、落ちてきたイリヤを抱きとめる。


「お姉ちゃん……ごめんなさい。急に吸血鬼の気配が近づいてきて……私一人で倒せると思ったのに、こないだの吸血鬼よりずっと強くて……」


「喋らないでください。今、回復魔法を……あれ? もしかして、どこも怪我してないです?」


「うん……あいつ、私の攻撃を防ぐばっかりで……今のも衝撃は凄かったけど、それだけ。なんか遊ばれてる感じ……」


「奴はなにが目的でそんなことを……」


 吸血鬼は広場にただ立っているだけで、向こうから攻撃してくる様子がない。

 ロザリアは吸血鬼を改めて観察する。

 二十代半ばほどに見える、美しい女性だ。だが吸血鬼は不老不死なので、エルフ以上に外見から歳を測るのが難しい。


 敵対の意思がないのだろうか。

 しかし吸血鬼だから当然、血を吸うのだろう。犠牲者が出てからでは遅い。

 それに、あの吸血鬼はさっきから魔力を放射状に放ち続けている。ものを破壊するほど強くはない。だが魔力のせいで吸血鬼の気配が一層濃くなり、こうして近くにいるだけで圧迫感がある。

 広場にいたほかのエルフは、それに耐えられず逃げ出したらしい。

 イリヤも逃げてくれればよかったのに。


「ねえ、ロザリア! あれって吸血鬼よね!? ヤバそうな気配じゃないの!」


「なんだ、イリヤがやられたのか!? ぬおおお、許さんぞ!」


 リリアンヌとアジリスも駆けつけてきた。

 アジリスはドラゴン形体に変身し、問答無用で前脚を吸血鬼に振り下ろす。


「ここはエルフの珍しい発明品が沢山あると聞いていたざますが、真竜までいるざますか。本当に奇妙なところざます」


 吸血鬼はそう呟いて、防御結界を構築した。

 それでアジリスの攻撃を防ぐ。いや、防いだだけではない。反射した。

 アジリスは自分自身の力によってのけぞり、ゴロンゴロンと転がっていった。


「のわぁぁぁ!」


「そんな……アジリスの力をそのまま跳ね返すなんて……一瞬であんな結界を作れるものなの!?」


 リリアンヌは目の前の光景が信じられないという声を出す。

 彼女は魔法学校で真面目に学んでいる。だからこそ、あの吸血鬼がやったことが神業だと理解できるのだ。


 ロザリアも驚いている。

 吸血鬼は、腕力や再生力が脅威で、それを駆使した獣のような戦い方をするというイメージだった。

 しかしあの吸血鬼は、ロザリアでさえ戦慄するほどの魔法技術を有している。

 恐ろしく強い。

 勝てるだろうか。勝てたとしても戦闘で村が廃墟になるだろう。村を守れないなら、それは負けるのと同じだ。


「やれやれ。エリちゃまはどこにいるざましょうか? あなたたち、心当たりないざますか? 私の娘ざますが」


 そう言いながら吸血鬼はまた微弱な魔力を放射状に放った。

 まるでソナーみたいだ、とロザリアは思う。

 放った魔力で周囲を探索しているのかもしれない。

 どうやら「エリちゃま」とやらを探しているらしいが、早く見つけてお帰り願いたい。


「私はエリちゃまを知りませんが、この村にいるというなら探すのに協力します。ですから魔力を広げるのをやめてもらっていいですか? 村の人たちが怯えてしまいますから」


「あら。この程度でも怖がるざますか? この村のエルフは強いと聞いていたざますが。まあ、あなたたちがエリちゃまを探してくれるなら、探知をやめてもいいざます」


 話が通じる吸血鬼で助かった。

 だが、本当にエリちゃまはこの村にいるのだろうか。

 私の娘と言っていたので、エリちゃまも吸血鬼なのだろうが、吸血鬼が村にいてロザリアが気づけないなどあり得るだろうか。


 エリちゃまが見つからないと腹を立てて暴れ出したら……腹をくくって戦うしかない。自分とアジリスが本気を出せば、被害が広がる前に瞬殺できるはず。

 と、思案していたら。


「お母様! どうしてここにいるんですの!?」


 錬金術師のエリエットが来て、目を丸くして叫んだ。


「お母様って、え、マジですか? エリちゃまって、エリエットさん? じゃあエリエットさんは吸血鬼ですか!?」


 ロザリアたちも目を丸くする。

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