第15話 無限ゲロ

 とにかく、一時はここらが荒野になるかもと戦慄した相手が、酒で大人しくしてくれるなら安いものだ。

 ほかのドラゴンと同じように、皿にワインを注いでやる。すると一瞬で吸い込んでしまった。


「足りぬ! 樽で持ってこい!」


 言うとおりにしたら、樽も一口で飲み干した。


「ぬはは、美味いぞ! それにしてもお前たちは随分とチマチマ飲むのだなぁ。体が小さいから仕方がないとはいえ情けない」


「失敬な。大人なので節度ある飲み方をしているだけです。本気を出せば、あなたより飲めますよ」


「……ほう? 腕力で負けた雪辱を果たす機会がこうも早く来るとはな! ではどちらが先に潰れるか勝負と行こうか!」


 そう言ってアジリスは、樽一杯のワインを飲み込む。


「ほれ、次はロザリアの番だ。体格差を考えて、お前はジョッキでいいぞ」


「いえ、私も樽で行きます」


「は? いや、そんなの飲み干したらお前の体が破裂するだろ……って、本当にいくのか? い、いったぁぁぁっ!」


「ぷはぁ……おかわり!」


 ほどなくして、空になったワイン樽が山のように積まれる。

 先にダウンしたのは――。


「も、もう飲めぬぅ……我の負けじゃぁ……」


 圧倒的に巨大なアジリスだった。

 四肢を投げ出し、ふにゃふにゃと地面に寝そべる。


「うおおおお、久しぶりにロザリアの本気の飲みっぷりを見たぜ!」

「お前さんはエルフの誇りだ! 最後にもう一回一気飲みしてくれ!」

「一気! 一気! 一気!」


 仲間たちにおだてられたロザリアは、求められるがまま、更に酒を飲み続けた。


「ちょ、ちょっと……いくらなんでもヤバいわよ。いや、最初の一樽でヤバいんだけど。飲んだ振りして、魔法で酒をどっかに飛ばしてるんじゃ……うわっ、酒臭っ! 口とかじゃなくて体臭が酒臭い!」


「そりゃ体液が酒になってますからねぇ……いい気分です……うふふふふふ」


「あ、あんたが満足なら、いいんだけど……」


 その後も宴会は続く。

 ロザリアは飲めば飲むほど気分がよくなる。無限に飲める。

 が、それは飲み続けている間だけ。

 やがて眠くなるし、どんなに酒が好きでも、寝てる間は飲めない。

 そして目が覚めた朝。


「お、おぼげぇぇぇぇぇっ! げぼぉぉぉぉっ! ぶごろぉぉぉぉぉっ!」


 トイレに駆け込み吐きまくる。吐けば吐くほど気分が悪くなる。なのに無限に吐いた。


「ロザリアったら。もう三百歳なのに、またそんな飲み方して。しばらくお酒禁止だからね~~」


「そんな、お母さん、許して……お゛ぅえ゛ぇぇええぇぇぇぇええっっっ!」

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