第12話 肉のなる木

 二十匹ものドラゴンを連れ帰ると、いまや戦闘種族と化しつつあるエルフたちでさえ驚き慌てた。

 そして獰猛なはずのドラゴンが、ロザリアの一声で猫なで声を一斉に発したとき、驚きは一層高まる。


「ロザリアの強さがヤバい領域なのは俺ら全員が知ってるけど、ついにドラゴンにも知れ渡ったか」

「見ろよ、あのドラゴンの媚びた顔。よほど怖い目に合ったんだな」

「分かるぜ。俺も昔、ロザリアのラーメンから勝手にメンマもらったら半殺しにされたもん」

「そんな邪悪なことしてよく全殺しにされなかったな」


 エルフたちはそんな語らいをしながら、ドラゴンを遠巻きに眺めている。


 さて。

 ドラゴンを力尽くて連れてきた以上、ロザリアがその生活を保証しなければならない。

 これが人間やエルフが相手なら衣食住が必須になる。今回は食だけでよい。

 ただし膨大な量の食だ。

 ドラゴンは肉食で、エルフは森で暮らす狩猟民族なので肉を調達するのはお手の物。

 とはいえ、二十匹のドラゴンの腹を狩猟で満たそうとしたら、森はあっという間に緑の砂漠と化すだろう。

 なので肉を増やす必要がある。だが穀物を家畜に与えて育てるような方法では、消費に対して追いつかない。


「植物からじかに肉が生えるようなスピード感が欲しいところです」


「いやぁ、それはさすがに無理でしょ」


 リリアンヌは呆れ気味に呟く。


「ところがどっこい。昔、肉が生える木の研究をして、一応は成功したのです。今からお見せしましょう」


 次元倉庫から植物の種を取り出して地面に植え、活性化魔法をかける。

 するとニョキニョキと木が生え、葉が生い茂り、沢山の実がなって弾け、中から肉の塊が現れた。


「キモっ! でも凄い! こんな凄い木があるのに、どうしてもっと栽培しないの?」


「それは……肉を試食した全員から、硬くて不味いと評価を頂きまして。ちなみに作った私も同じ評価です」


「そうなんだ。不味い肉がそこら辺から生えてきたら、むしろ処分するのに困るわね」


「はい。ですがドラゴンはあんなに立派な顎があるんですから、硬くても食べられるはず。というわけで……ドラゴンたち、新しいお肉です!」


 木から肉塊をもぎ取って、ドラゴンの群れに次々と投げ入れる。

 すると池の鯉みたいに集まってきて、凄い勢いで食べ始めた。


「がおー、がおー!」


「なんかドラゴンたち、ニコニコしてるわね」


「彼らからすると歯応えがあって、最高に美味なのかもしれません。だとすれば僥倖。過去の研究が無駄にならず、嬉しいです」


 ロザリアは肉の木をどんどん植える。生えてきた肉を、エルフと人間のみんなで協力してドラゴンにぶん投げる。


「なんかこれ楽しいわね! 手が生臭くなるけど!」


「もしかして鯉の餌やりみたいにお金を取れるのでは? ふふふ、観光資源になりそうです」


 なにはともあれドラゴンのエサ問題は解決した。

 あとは住処とかトイレなどを作り、ロザリアが敵だと認めた者以外には襲い掛からないよう躾ければ、立派な用心棒になってくれる。


 解散し、それぞれの家に帰る。そして晩御飯の時間。


「あれ? お父さんがいないのはいつものことですが、イリヤは?」


 ロザリアの父は地図を作るのが趣味で、森のどこを川が流れ、どこに洞窟があるかなどを調べ回っている。何日も帰ってこないのが普通。ロザリアは三百歳なので寂しいと嘆いたりしない。


「イリヤは修行してくるって。お姉ちゃんより強くなるとか言って森に入っていったわよ~~」


「え、ええ!? お母さん、どうして止めなかったんですか!」


「だってイリヤは三百歳よ。子供じゃないし。ロザリアも三百歳なんだから、いい加減、妹離れしなさ~~い」


「くぅん……」


 久しぶりに親に叱られ、ロザリアは唸った。

 頭では分かっている。だが妹が家にいないと寂しい。勝手にイリヤの部屋に入ってベッドにダイブ。布団にくるまって匂いを嗅ぐ。その日はそのまま寝た。

 次の日の朝になってもイリヤが帰ってこない。寂しいので枕を抱きかかえて学校に行こうとする。


「こらロザリア。いくらなんでもみっともないでしょ~~」


「あんた、妹に一日会えないだけで……どんだけシスコンなのよ……」


 母親と友達の同時説教を受け、ロザリアは渋々枕を玄関に置いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る