第6話 村が焼かれなかった物語が始まる
「私の仲間や妹が失礼しました。なにせ閉鎖的なところなのに、戦力だけは豊富でして。外敵に襲われるイベントは、培った技の数々を発揮するチャンスなんですよ」
ロザリアはリリアンヌを自宅に連れ帰り、とりあえず擦り傷などを回復魔法で治してやった。
妹のイリヤは拗ねてどこかに出かけてしまった。
きっと買い食いでもしているのだろう。なにせケーキの食べ過ぎで気絶した実績を持っている。
「私が忍び込もうとしたのは事実だから……教団と一戦交えた直後だったし。あの対応もやむを得ないと思うわ」
リリアンヌは一国の王女な上、ツリ目がちな顔立ちだったので、もっと棘のある性格に見えた。
だが、こうして話してみると、第一印象よりずっと柔らかい。
そして城壁の内側に侵入しようとした理由は、ロザリアにあった。
教団を皆殺しにする姿が恐ろしすぎて、その牙が人間社会を襲ったらどうなるのか。という焦燥感から突っ走ってしまったわけだ。
ロザリアは、自らの行いを悔いても恥じてもいない。
地球から転生してきて、今日という日に村が焼かれると知っていて、それに備えて研鑚してきた。
御先祖様たちが書いたり集めたりした膨大な蔵書。もはや誰も顧みることがない図書館に一人でこもり、魔導書を読みあさった。
知識をため込んだあとは、それを体に覚えさせる。エルフにまともな魔法師がいないので、全て独学だ。
当然、初めは上手くいかず、全く炎が出ないと思ったら、腕に大火傷を負う始末。
自分が作った氷に閉じ込められたこともあった。
そんな失敗を繰り返すうちに少しずつ上達し、魔力も増えた。
自分が強くなったら、次は仲間を強くする。
長寿ゆえ暇を持て余している種族だ。幾人かが魔法を始めると、そこから広まって魔法ブームになった。魔法は狩猟にも役立つ。むしろ覚えない理由がない。
とはいえ、ロザリアのように図書館の本を全て読むエルフは出てこない。
そこでロザリアは、自分の知識をまとめた本を書いた。
煩雑だった知識を体系化し、分かりにくい表現は避け、たっぷりの注釈を付けて解説する。
エルフたちが勝手に魔法を学びだしたので、ロザリアは物作りにいそしんだ。
土魔法を応用して城壁を構築。
探査魔法で鉄の鉱脈を掘り当て、鎧を作り、魔石を仕込んでリビングメイルにした。すると村の鍛冶師に見つかり「発想は面白いが造形がイマイチ」と駄目出しを受ける。仕方がない。ロザリアが魔法で鉄をねじ曲げ、なんとなくで作った鎧なのだから。
その後は鍛冶師に冶金を任せ、ロザリアは魔法付与に専念する。
魔力砲を作っていると、村人たちが集まってきて、あーでもないこーでもない、と意見を出してくれた。
今度は物作りブーム到来。
ロザリアが手を下さなくても、立派な建物がニョキニョキ生えてくる。
魔法が普及し、工業技術も発展した。
次は、それらを使って対人戦をできるようにする。
まず大量のポーションを作った。千切れた腕も飲めば生えてくるような強力なポーションだ。
そして二対二のチームに分かれて戦う遊びを流行らせた。冶金技術が発達して頑丈な鎧が普及したから、攻撃魔法の直撃でも重傷にならない。なってもポーションで治せる。
新しい遊びを求めていたエルフはこれに飛びつき、あれよあれよという間に、バーサーカーの集団と化した。
おかげで今日、村は焼かれなかった。
もはや村ではないというもっとも意見もあるが、とにかくロザリアは生きていて、イリヤが一人で旅立つこともない。
ようやく苦労が実ったという達成感に包まれていて、そこに後悔は一欠片もない。
が、強くなりすぎてリリアンヌにいらぬ恐怖を植え付けてしまい、それが騒動に発展したのだから、これからは自重というものを意識する必要があるだろう。
「とにかく、怖がらせてしまって申しわけありませんでした。あなたは教団がここに近づいているのを教えるために森に入ったというのに。お詫びに、この村を案内するというのはどうでしょう? 興味があるみたいなので」
「それは是非! お願い!」
食いつきが激しい。
ロザリアは教団の人間を返り討ちにするため二百年頑張った。だが人間全てと争うつもりは全くない。むしろ前世が人間だった身としては、もっと交流して欲しいと思う。
しかしエルフと人間は長いこと断絶していて、いきなり貿易を結べというのも無理な話だ。
なのでリリアンヌを試金石にする。
彼女が、エルフの町をどう思うのか。エルフたちが、町をウロつく人間にどう反応するのか。
それで今後の方針も見えてくるだろう。
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