第7話 エルフの村にはゲームセンターがある
「では馬車で村を回りましょう」
「待って。その馬、体が金属……? 馬にフルプレートアーマーを着せてるの?」
「半分正解です。これは確かに馬の形をした鎧ですが、中に馬は入っていません。言ってみれば、馬形のリビングメイルですね」
「へ、へえ……巨大で素早いリビングメイルを作れるんだから、馬車を引っ張るのを作るくらい簡単なんでしょうけど……馬を育てなくていいってのは凄いことね」
リリアンヌは馬車に乗る前から感心していた。
そして走り出したら、その乗り心地の良さに目を丸くする。
「村の職人がサスペンションの改良にハマっていまして。このくらいの速度なら全く揺れを感じないでしょう?」
「凄すぎる! 私もこれ欲しい!」
はしゃぐお姫様を見て、ロザリアは考える。この馬車に限らず、村で作られたものを出荷すれば、しこたま儲かるのではないか、と。
「ゲームセンターに行きましょう。きっとリリアンヌさんが初めて見る娯楽ですよ」
「ふふん。この村の技術力は認めるけど、ちょっと言い過ぎじゃない? ラギステル王国の王都は、よその国からも色んなものが集まるの。そこで生まれ育った私が見たことない娯楽なんて……な、なんじゃこりゃ!」
音と光が溢れ出す建物。
かつて日本人だったロザリアには見慣れた風景だし、この村のエルフたちもすでに慣れている。
だが初体験のリリアンヌは、目を丸くして固まってしまった。
「魔力仕掛けの遊具を集めた場所です。コインを入れると使えます。いきなりゲームしろと言っても無理でしょうから、まずはプリクラ撮影しましょう。ここに一緒に入ってください。ぴーすぴーす」
「え、なに? わっ、私たちの絵が出てきた。本物みたいな絵! どうなってるの? 裏に絵描きがいて凄い速さで描いたの!?」
「いえ。こういう魔法です。景色を保存して、印刷してくれるんです。驚いた顔も面白いですが、どうせなら可愛く撮りましょう。ほらもう一枚。ぴーすぴーす」
「よく分かんないけど、ぴーす!」
印刷した写真はシールになっている。とりあえずリリアンヌの剣の鞘に貼っておいた。
「それでは、ルールが分かりやすいモグラ叩きに挑戦してください。スタート!」
「このハンマーでモグラを叩けばいいの? ふん! ……ちょこまかと動いて……私を舐めないで! ふんふんふん!」
「おお、初めてなのに高得点。次はクレーンゲームとかどうでしょう」
「このレバーで操作するの? あ、取れそう……取れそうなのに落ちちゃった! もう一回!」
リリアンヌはムキになって挑み続ける。
そこへ、エルフの少女たちが近づいてきた。
「ロザリア、久しぶり。その子、誰? 耳が平たいけど……え、もしかして人間?」
「はい」
「ヤバいじゃん!」
「大丈夫です。あの人は、さっき撃退した教団とは別件。ラギステル王国のお姫様で、私の客人です」
ロザリアがそう答えると、少女たちは盛り上がった。
「お姫様! へえ、初めて見た。言われてみると、どことなく気品があるような、ないような」
「ぷんすか怒りながら必死にぬいぐるみ狙ってて可愛い。人間も私たちとあんまり変わんないんだね~~」
「手伝ってあげたくなってきた……もっと右! 掴むというより引っかけるのを意識して!」
「え、あ、うん!」
アドバイスのおかげで、リリアンヌは無事にウサギのぬいぐるみをゲットした。
エルフと人間の心温まる共同作業だ。
仲良くなったので、みんなでワニ叩きゲームとか、タイコ叩きゲームとかで遊んだ。
「ああ、楽しかった。みんな、いい子ね。教団と戦う姿を最初に見たから怖かったけど、今はもう怖くないわ!」
「それはよかったです。私の友達たちも、人間に偏見がなくて助かりました。二つの種族、仲良くできるかもしれませんね。教団みたいなのは困りますけど」
「……同じ人間として謝るわ。けど、あいつらは人間社会からしても敵よ。あなたがあいつらを倒したとき、怖かったけど、同時に清々したわ。今まで大勢の人を生贄にしてきた報いよ。人間を代表してお礼を言うわ。ありがとう」
「私たちは自衛しただけですが、そう言ってもらえると嬉しいです」
それからロザリアは、水族館や映画館とリリアンヌを連れ回し、そのリアクションを楽しんだ。
「私、ここに住みたい!」
「別にいいですけど。お姫様が勝手に引越ししていいんですか?」
「……さすがに許されないと思う」
リリアンヌは見てて気の毒になるほど肩を落とす。
しかし道行く人を見て、すぐに目を輝かせた。
「ねえ! あの子たち、同じ服を着て歩いてるけど。まるで学校の制服みたい。可愛い!」
「まさに学校の制服です。魔法学校」
「魔法学校! よその国にはあるって聞いたことあるけど、ラギステル王国にはないのよね。私も魔法を使えたら、もっと強くなれるかしら」
「そりゃ、戦術の幅が広がるので強くなるでしょう。ちょっと体験入学してみますか?」
「え! 私もあの可愛い制服着ていいの!?」
「……勉学より制服ですか」
「え! いや、その!」
「まあ気持ちは分かりますよ。可愛いですよね。制服を目当てに生徒をしているエルフは沢山います」
「そうなんだ。やっぱり人間もエルフも同じね」
学校の更衣室に移動し、ロザリアは次元倉庫から二人分の制服を取り出した。
「どうぞ。私の予備を貸してあげます。そんなにサイズ変わらないと思うので」
「待って! 今どこから出したの!? なにもないところからヒュッて出てきたように見えたんだけど!?」
「教団を飲み込んだ闇魔法の応用です。こことは異なる空間に、色々アイテムをしまっておけるんですよ」
「エルフってそんな凄いことできるの!?」
「いえ。私だけです。みんなにも教えたんですが、難しいみたいで」
「よ、よかった! エルフが全員こんなデタラメな魔法使えたら、またエルフが恐ろしくなるところだった……」
「その論法だと、私は恐ろしいですか?」
「恐ろしくない! ロザリアはいい人だって分かったし。私を助けてくれたとき……格好良かったし! あなたが男だったら惚れてたくらい!」
「はあ……それはどうも」
予想していなかった角度から褒められ、ロザリアはつい赤面してしまう。
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