第7話 私は絶対に負けません!

「さぁ先生。バブルをこちらに差し出してください。次も貴方は身を挺した回避行動を取るでしょう。これ以上の流血は避けたい限りです」



 自分のペースを取り戻したウォルリスはさわやかな言葉遣いでエリンに投降を促す。



「心配は無用です。もう次は食らいませんから。それに、バブルをここで差し出すのは先生の方ですよ」


「は?」



 エリンは圧倒的不利な状況に気でも狂ったように強気であった。彼は彼女の滑稽な様子に思わず吹き出すように笑った。その笑いに呼応するように観客席からも、ちらほらと笑い声が上がる。エリンはその声に耳を貸さず、深呼吸を一つする。



「私が学長に招かれた理由がよーやく分かりましたよ」



 アウェーな状況に拳を突き上げるように声を大きくする。



「よーく見ていてください。今から私が防衛魔法の根底をアップデートして見せますから!」



 エリンは使えなくなった右手に代わって左手で強く杖を握り込むと高らかに宣言する。



「私は絶対に負けません!」



 ウォルリスはどうなっても知らないとでも言いたげな様子で、首を傾げるとすぐに姿を消す。それに対して彼女は目を瞑って攻撃のタイミングをじっとうかがう。


 先程と同じようにエリンの背中側から姿を現したウォルリスは魔法剣マジックソードを振るう。彼女の細い体を。背中側からバッサリとゆうに捉える一振りである。



「Sentinel」



 エリンはぼそりと言葉を吐く。


 赤黒い一撃は突如現れた大きな盾により防がれた。カキーンという高音を伴って刃は弾かれる。大きな盾は青白く光り輝き、なおも顕在である。



「そんなわけが……」



 ウォルリスは再び姿を消すと今度は目にもとまらぬ連続攻撃を仕掛ける。上、下、右、左。異なる方向から繰り出される刃。盾はその全ての攻撃に反応するかのように展開されては消え、また展開され、その全てを受け止める。


 やがて攻撃が止むとエリンの前には息を切らして倒れるウォルリスの姿があった。高難度の魔法の同時併用と連続行使。その魔力消費量は計りしれない。



「私のSentinelは悪意ある全ての攻撃を防ぎます。魔法だろうが物理だろうかは関係ありません。アクティブに防壁の耐性を切り替える手法はもう古いですよ。それこそ何百年前の話をしていることやら」



 エリンは彼に近づくと膝を折る。



「相手を攻撃によって打ち負かすことだけが勝利ではありませんよ。まだまだ若いですね」



 それから彼の身体をえいえいと杖でつつく。ウォルリスは最後の力を振り絞り剣を振るう。しかし、赤白く発行する刃は小さな盾によって弾かれる。



「最後まで勝ちの目を追い続ける志は評価に値するでしょうね!」



 エリンはにこりと微笑むと彼の周りに浮かんだ5つのバブルを素早く杖で突いた。



「いぇーい! 私勝ちましたよ!」


「………………」



 審判が、実況が、観客が。模擬戦の勝者を祝福するのに少しばかりの時間を要した。

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