第6話 魔法剣と防衛魔法の弱点
えい、やー、よっと。
エリンは気の抜けた声を上げながら次々と襲い掛かる火の球、水の球、風の球を白い壁で防いでいく。上手に攻撃をいなしているのかもれないが、防戦一方と言わざるを得ない状況である。
「どうしても一度も攻撃魔法を行使しないのですか。バブルを割らなくては勝てない。それを理解していますか」
ウォルリスは攻撃の手を止めて問いかける。
「だって、勝つ必要がないではありませんか」
「はぁ……」
「これは私が防衛魔法を教える者として適任かどうかを見せる場ですよね? 今こうして先生の魔法を完璧に防いでいますから。何も問題ありませんよ」
エリンはこうしている間も泡をぐにゃぐにゃとスライムみたいに変形させて遊んでいる。それは楽しそうに。
「完璧に防いでいると。言ってくれるではありませんか! わざわざ先生が防ぎやすい攻撃をあえて続けているとも知らずに」
ウォルリスは戦いに集中しない相手に痺れを切らしたようだ。
「悪く思わないでください」
彼が構えた逆手剣には光が集まってくる。次第に刀身は赤黒くうねうねと禍々しく姿を変える。
「出ました! ウォルリス先生の
解説の声を待たずして、彼の足元からは黒い霧が溢れ出して彼の身体を包み込んで隠す。そして、青髪のほんわか先生を競技場に一人残して姿を消した。
「これはどういうことでしょうか?」
「わ、わかりません……」
「身体強化魔法の応用でしょう。おそらく消えたと見せかけて、高速で移動しているのかと。特筆すべきは高難度の付与魔法と同時に行使している所ですね!」
エリンは解説が放棄した箇所を真面目に丁寧に補足する。
試合に集中してくださいという実況の声が届く間もなく、ウォルリスはエリンの後ろに姿を現す。即座に剣を横薙ぎに斬り払う。エリンごとバブルを捉えられるほどに大きな範囲の斬撃である。
「わっ!」
エリンは体を捻ると、斬撃に対して白い壁を張る。威力を考慮して三重の防壁を張る。しかし、赤黒い刃はぐにゃんと、こんにゃくを切るが如く防壁を砕いて見せた。エリンは自身の後ろにバブルを全て隠すと大きく横に飛びついた。
血しぶきが上がる。
刃は逃げ遅れたエリンの右腕を捉えたのだ。
「ふぅ。どんなに壁を張っても流石に無理でしたか」
やんわりとした声色だったが、真剣な眼差しはしっかりと彼に向けられていた。
「やっと、こちらを見てくれましたね」
「これはお見事! 魔法剣は三重の防壁を破ってみせました!」
「防壁の強度を刃が上回ったということでしょう……」
「違いますよ。防衛魔法というのは物理的な攻撃か魔法的な攻撃。どちらか一方しか防げないのです。つまり、剣による物理的な攻撃を付与魔法によって強化したこの刃を、どれだけ厚い壁を張ろうが防ぐことは出来ないということです」
ウォルリスは恐る恐る挟まれた解説を的確に否定した。
エリンの防衛魔法が一枚上手かと思われた状況を覆す、絶望的な一手をウォルリスは披露する。しかし、右腕を抑えるエリンはまだ諦めてはいなかった。
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