第5話 ドアの向こう
その時、何者かが玄関のドアを強くノックする音がした。
「おい、開けるんだ! 中に居るのは分かっている!」
聞き覚えのある男の怒号が二階の居間まで響き渡った。私は何が起こっているのか、そして、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。相棒は、また爪をぎりぎりと噛んでいた。この状況を逃れる方法を必死で思案しているようだ。
「おい、その女を捕まえろ!」
相棒が言った。私はすぐさま階下へ逃げようとしていた女の元に駆け寄り、羽交い絞めにする。ポケットからナイフを取り出し女の首に当てる。女は怯えていた。
「大人しくこのドアを開けろ!」
間違いない。レストレードだ。あの男の声だ。ばれてしまった。私は恐怖で脱力する女を抱えたまま、ジリジリと居間へ後退りをした。
「レストレードだな! こっちには人質がいる! この女が殺されたくなかったら、今すぐ捜査員を全員どこか遠くへ追いやるんだ!」
相棒が怒鳴る。爪を噛みながら、血走ったぎょろりとした目が左右に動いていた。せっかくのでかい儲け話だったのに、こんな所でまた捕まるわけにはいかない。
「なんだって! よく考えろ! その人に危害を加えてみろ。さらに罪を重ねる事になるのだぞ!」
「よく考えるべきはお前だ、レストレード! この女を生かすも殺すも、その決定権はこちら側にあるんだぞ!」
相棒の言葉にレストレードは、言葉を失ってしまった。
「今から俺たちは玄関に向かう。人質も一緒だ。誰も俺たちに手を出すな。こうなったら探し物は諦める。部屋を荒らしはしたが、何も奪っちゃいない。俺たちを見逃すんだ!」
相棒の要求にレストレードは、少し間を置いてこう言った。
「……分かった。要求を飲もう。」
さすが、私の尊敬する相棒だ。どうやら大金は貰えなさそうだが、捕まらずにすみそうだ。もうあの地下の牢屋に入るのは御免だ。陽の灯りが入らず、ジメジメとしたカビだらけの冷たい石の床、パサパサのパンと味のない汁、もう二度と嫌だ。
「よし、行くぞ!」
相棒がゆっくり一階へと向かう階段へ向かう。私も人質の女を抱えたままそれに続こうとした。その時、後頭部に強い衝撃が走った。思わず人質に突きつけていたナイフを床に落としてしまった。視界が斜めになり、地面が近づいてくるのが見えた。私は何が起こったのか分からず相棒の方を見る。ゆっくりと地面に倒れ込んでいく痩身の男の姿が見えた。
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