第6話 音無メアルとロリ配信

 Vtuberとしてデビューを果たし、イケメンに囲まれキャッキャウフフできる未来が待っていると思っていたのに、なぜか女受けしまくってしまっている音無メアルです。

 こんなのおかしいよ。女受けは捨てて、男に好まれそうな見た目と声で満を持して登場したのに、チャット欄に流れてくるコメントは女女女……。

 もう9割女なんじゃないかってくらい、男のコメントが目に入ってこない。


 ここは宝塚じゃないんだけど!?


 でも、殺伐とした雰囲気ではなく。

 むしろ、私を褒め称える空間と化していてこれはこれで悪くはない……気がする。

 女に褒められたところで嬉しくはないけどね!

 しかし、それは視聴者に限ったことではない。

 男視聴者がつかなくても、イケメン配信者と仲良くできればそれでいいと思っていた。

 でも現実はどうだろう。イケメン配信者なんて配信には現れないし、その代わりと言わんばかりに女のVtuberに目をつけられたのだ。 


 その一人が、私立カシコミ学園というVtuberグループに所属している神保じんぼうアカネ。

 彼女は私の初回配信を同時視聴していて、『監禁したい』だの『ボコボコにしたい』だのと言っていたやばい女だ。


 こんなのに目をつけられるなんて……。


 それだけではない。

 FPS配信中にチャット欄に突然現れた、潤伏うるふしロロというVtuberの存在も無視できないだろう。

 やばさで言えば、神保先輩よりも上かもしれない。

 彼女は普段はクール系優等生って感じだけれど、お酒が入ると人格が凶暴に豹変するのだ。

 そんなやつらに目をつけられた私はさながら肉食動物に囲まれた兎……。

 ともすれば、あっさり食べられてしまうかもしれない。


 しかし、私は負けるわけにはいかないのだ。

 こうなったら、禁じ手を使うしかないようだね。

 できればこの手は使いたくなかったけれど、背に腹は変えられない。

 そう、私はをすることにしたのだ。

 それはズバリ…………。


 ロリ配信!!


 説明しよう!

 ロリ配信とは、ロリになりきって配信することである!

 以上!


 未だかつて、デビューから一週間も経っていないのにロリ配信をしたVtuberがいるだろうか。

 しかも罰ゲームとかじゃなくて自主的に。

 これもイケメンと仲良くなるため。

 私はそのための労力なら惜しまないのだ。

 そして、やはりというか、Xにてロリ配信の告知をすると、リプライがざわついていた。


「まじかww」

「この新人強い」

「早速迷走してない?」

「自ら黒歴史を作りにいくw」

「黒歴史になるよ...」


 ええいうるさいうるさい!

 なんと言われようと、やると言ったらやるんだ。

 ロリ配信なら、簡単に男が釣れる。

 逆に女は引いていなくなるだろう。

 初速をミスってしまった私にとれる行動は、これくらいしかないのだ。


 なのに、事態は私が想定していたよりも斜め上の方向に向かおうとしていた。


 時刻は20時。

 初回配信を除いて、私は毎回この時間に配信を開始している。

 あんまり夜遅くなると翌日に支障をきたすし、そもそもそんなに夜遅くまで起きていられるタイプでもないからね。


:こんロリ!

:こんロリ!

:こんロリ!


 コメント欄には、既に待機している人たちが沢山コメントをしてくれている。

 ていうか、こんロリってなに……?

 コメント欄の様子に若干引きながらも、今さら引き返すことなんてできないので私はおずおずと配信に声を乗せた。


「ふええ……ここ、どこお?」


 配信は渾身のロリ声から幕を開けた。

 やる前は意気込んでいたけれど、やってみたら思っていたよりも精神的ダメージが大きくて早速心が擦りきれそうになった。

 でも、こんなことで挫けるわけにはいかない。

 私はなんとしてもこの配信をやり遂げなくてはならないのだ。

 画面には、いつもスパチャ読みをする時などに使う基本の配信画面ではなく、フリー素材サイトで購入した路地裏の背景が映し出されている。

 しかし、そこに音無メアルの立ち絵はない。


 コメント

:こんばんは~

:メアルちゃんどうしたの?

:迷子になっちゃったのカナ?


 ロリメアル配信をすると告知していただけあってコメント欄もネタに乗っかってくれてる感じだ。

 私はそれを確認すると、画面の端から立ち絵をひょこひょこと出してみせた。


 コメント

:!?

:え!

:可愛い!

:新規立ち絵かと思ったらw


 すると、コメント欄がざわざわし始めた。

 それもそのはず。画面に現れたのはいつもの音無メアルではなく、ランドセルを背負い、小学生が被る帽子を被った音無メアルだったのだ。


 はい、新規の立ち絵なんてもらえません。

 立ち絵がほしいなら、事務所を通して音無メアルを描いた絵師さんに前もって依頼しておかなくちゃいけないからね。

 だから、それっぽいフリー素材を探してきました。


「あれあれ? なんか変な人たちがいる~。みんなはだあれ?」


 コメント

:ロリを愛でる淑女だよ~

:メアルちゃん可愛いねぇ

:お姉さんのお家おいで

:ほしいもの言ってごらんぐへへ

:メアルちゃん、おねロリってなに?って言ってみて

:お姉さんと背中洗いっこする?

:メアルちゃんの足の裏見せて

:ロリ配信の時だけ訓練された強者が現れるの草なのよ


 なんかコメント欄がやばいな……。

 ネタ系のコメントの中に時々ガチっぽいのが混ざってるのが怖すぎる。


「なんかみんな変なこと言ってるよ……? おね……ロリ? ロリってなにかな? く、くぅ……」


 コメント

:幼い女の子のことだよ

:幼女!幼女!幼女!

:既にきつそうw

:《神保アカネ》迎えにいくね ¥30000

:アカネちゃんw

:怪文書やん

:アカおじ!?

:やばいのが来た笑


「えっ、こわ……」


 コメント

:素で怖がってるw

:赤スパでこの一言は確かに怖いかも...w


「こ、この赤いのってなあに?」


:それはたくさんお金をくれた人ってことだよ


「あ、お金をくれたら色がつくんだ! じゃあいい人ってこと……? でもなんかこの人怖いんだけど……」


 コメント

:《神保アカネ》メアルは色白だからウェディングドレスが似合いそうだね

:急にウェディングドレスの話しだしたよこの人

:がちの不審者で草

:ひえ...

:メアルちゃん逃げて!


「う、ウェディングドレス……? それって花嫁さんが着るやつだよね? メアルまだ十歳なんだけど……なんか身の危険を感じるの……」


 神保先輩ってギャルっぽいイメージがあったのにこういうノリもいけるんだ……。

 しかもなんか解像度高いし。

 まあ、監禁とか殴りたいとかのワードが飛び出す人だから今更って感じはあるけれど。

 私は先輩の圧に戦々恐々としながらも、配信を進行した。




「というわけで、ここには変態のロリコンしかいないことが分かったからここにみんな閉じ込めておくね。ううん、メアルと仲良しするんじゃなくてみんなで仲良しするんだよ! おじさんと全裸でおままごと? き、きも……まじできもいんだけど……しないからね、でもよかったね、ここにはお友達がいっぱいいるから好きなときに全裸おままごとできるね!」


 なんかイケメンじゃなくてロリコンのきもおっさんが釣れてるんだけど……。

 私はコメントとの対話を三十分ほどした後、ロリ配信をすると決めた時から考えていたロリコン投獄エンドを披露して、配信を終了した。


『ロリコン粛清完了』


 配信の感想の代わりに、この一文をXに投稿した。

 なんか最初と趣旨が変わっている気がするけど、ロリ配信を考えついた時点でこうなることは決まっていたのかもしれない。


「粛清?小学生なのに難しい言葉知ってるんだね。ところでおじさんとストレッチしない?」

「牢獄からロリコンが放流されててワロタ」

「メアルちゃん!アカネちゃんが呟いてるよ!」


 配信の感想をチェックするためリプライを見ると、神保先輩の名前が挙がっていた。

 配信にやばめのロリコンとしてコメントしてくれていたけれど、ポストまでしてくれたのか。

 それならば、後輩としてちゃんと先輩のお言葉を受け取っておかなくてはならない。

 そう思って神保先輩のポストを確認すると、そこにはこう書いてあった。




『ロリメアルは永久に不滅!!』




 ……いや、もうやんないから!!

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