第4話 罪な女、音無メアル

『メアルちゃんって何歳なんですか?』

「20代なの~」

『え、そうなんですか! じゃあ私と近いかもです! 私23歳なので!』


 突然の年齢開示!

 もしかして、承認欲求強いタイプなのか。

 でも、これであさひさんが私よりも年下だということがわかった。

 23歳か、年齢にしては少し幼い印象を受けるな。

 急に年齢を聞いてくるところといい、好奇心が旺盛なのかもしれない。


「歳近い女の子嬉しいの~!」


 女と歳が近かったところで嬉しくもなんともないけど、配信の手前、適当に合わせておく。


『えへへ、私も嬉しいよ』


 おい、親密な感じを出すな。

 仲良しこよしは勘弁だぞ。

 これはただのゲーム配信であって、先輩とのコラボとかとは違うんだから。


『音無さん動かれると合流できない……』

「あっ、ごめんなさいなの!」


 武器をクラフトしたくてその辺をうろうろしていると、ろいやるさんに怒られてしまった。

 『魔法の大陸』は従来のRPGシステムを踏襲しつつも、クラフトとサバイバル要素も強くなっている。

 強い敵を倒すには強い武器が必要ということで、武器のクラフトはゲームの基本中の基本なのだ。

 でも今はそのタイミングじゃなかったな。

 

『メアルちゃん見つけました~』

『私も見えました』

「二人とも待ってたの~」


 程なくしてあさひさんとろいやるさんが合流して、私達は敵陣に向かった。

 その道中、雑魚の群れが襲いかかってきたので、応戦しようと武器を構えたらあさひさんが前に出てきた。


「グアアアア!」


 あさひさんの魔法により、雑魚はあっけなく霧散する。


「ありがとうなの~」

『いいからいいから。あとこれあげる』


 あさひさんが何かアイテムを渡そうとしているので、それを確認してみると「ブナシメジ」だった。


「ブナシメジ?」

『それ食べたら継続回復できるから』


 継続回復! そういうのもあるのか。

 確かに基礎戦力の低い現段階ではかなりありがたいアイテムだ。

 回復なんかいくらあっても困らないからね。

 正直欲しいが、ここはキャラクター的にいじらしくいこうか。


「え~、でもお、メアル弱いからあさひさんが持ってた方がいいかも……」

『いいのいいの! メアルちゃんの騎士ナイトだから! 持ってな!』


 そこまで言われて断る理由はない。


「え~、いいの? じゃあありがたくいただくの~」

『うんうん! あと、これ終わったらよかったらフレンドなりませんか?』


 この女どこまで厚かましいんだ。

 私は有名企業のVtuberなんだぞ。

 その辺の配信者とはわけが違うのだ。

 そんな簡単にフレンドになんかなれるわけないだろう。

 でも、断りづらいな……こういうとき他の配信者はどうやって断ってるんだろう。


「あ~……メアル、自分の判断でフレンドとか追加できなくて……」

『えっ、それって事務所を通さないとだめってことですか?』

「そうなの~。だからごめんなさいなの……」

『ううん、謝らないで! そっかあ、残念』


 あさひさんは本当に残念そうだ。

 しかたない、フォローしておくか。


「でもでも、メアル配信してるからいつでも会いに来てほしいの~!」

『そうだね! 配信観に行くよ』

『音無さんとあさひさん急ぎましょう。ばたやんさん一人で戦ってくれてます』

「あっ、ほんとなの!」


 ろいやるさんに言われてマップを見ると、もう一人のパーティーメンバーが既にボスのいる場所に辿り着いていた。


『あ~申し訳ない……行きましょう!』


 ボスのいるポイントに到着すると、もうひとりのパーティーメンバーがせっせと戦っていた。


「ウオオオオオ! かますぜええええ!」


『メアルちゃんは隠れてて』

「でも少しはメアルも戦うの」

『戦うの?』

「うん」


 姫プは楽でいいけど、なにもしないのもつまらないしコメント欄が荒れそうだ。


『あさひさん、甘やかしすぎですよ。音無さんも自分で倒した方が達成感あると思います』

『可愛いからつい甘やかしたくなっちゃうんですよね~』

「そんなあ、可愛いなんて~」


 真顔で照れる。

 なんだこのつまらない時間。

 さっきから何かにつけて可愛いとか言ってくるけど、一体なんのつもりなんだ。


 はっ、もしかして、「女の子好きな自分可愛いでしょ」アピールか!

 時々いるんだよ、そういう女。

 私が一番嫌いなタイプだ。

 なんかチャット欄にもちらほら「あさひちゃん可愛い」ってコメントが流れてくるし、面白くない!


 主役は私なんだぞ!


「メアルの配信を邪魔するやつは許さないのー!」


 私は鬱憤をぶつけるように、モンスターに突進した。


『あ、メアルちゃん危ない!』

「え?」


 急にあさひさんが目の前に飛び込んできたかと思うと、モンスターが大技を繰り出してきて、あさひさんに攻撃が直撃した。

 あさひさんは私の身代わりとなって、死んでしまった。


「だ、大丈夫なの!?」

『メアルちゃんが無事ならそれでいいので!』

『自己犠牲……』


 コメント

:あさひさん尊い

:あさひさん推せる

:いい子だ...

:尊い犠牲だった


「あ、ありがとうなの~」


 お礼を言いながらも、私の顔は引きっていた。

 時間が経つごとにどんどんあさひさんの株が上がっていってる気がする。

 まずいぞ、このままじゃ配信を乗っ取られちゃう。


「グエエエエエ!」


 あさひさんの1乙がありながらも、私達はなんとか敵を倒すことに成功した。

 これで、強い装備を作ることができる。

 そういう意味では感謝だけれど、私の配信なのに私よりも目立っていたあさひさんは許せん。


『装備作れました?』

「おかげさまで作れたの~! 見て見て~」

『それメアルちゃんに似合ってるよ』

「嬉しいの~! ありがとうございますなの!」

『全然! なんでもしてあげる!』

「本当に騎士ナイト様なの……」

『えへへ~。あ、そうだ! ちょっとこっち来てみて』

「なになに~?」


 あさひさんに近づくと、ジェスチャーでキスをされた。


『チュー!』

「えっ! き、キスされたの~!」


 コメント

:あら~

:てぇてぇ

:唐突なてぇてぇ助かる

:ありがとうございますありがとうございます

:お前ら拝んどけ


『見せつけますね』

「そんな、みんなが見てるのに~!」


 なあにさらしとんじゃこのアマァァァ!

 見せ場作ってるんじゃないよ!

 これ、私の配信! オーケー?

 お前が目立つための舞台じゃないんだわ!

 ていうか、こんなので喜ぶコメント欄もどうかしてると思う!


『まだ続けますか?』

『次は武器作る?』

「ううん! もう十分なの! ありがとうなの〜!」


 これ以上配信を乗っ取られてたまるかっての!


『お〜、それはよかった。まじでフレンドになれないのが残念すぎる〜』

「メアルも一緒なの〜。でも、また配信に遊びに来てくださいなの!」

『うん、行くね! ていうかさっきチャンネル登録しちゃった』

「行動が早いの!?」

『これからメアルちゃんの配信いっぱい観るね』

「ぜひぜひなの〜! お友達にも最強可愛いメアルちゃんのこと布教してほしいの~!」

『了解です』

『はーい』


 なんとか終わったけど、すっきりしないこの感じ。

 あさひさんとの別れを惜しむコメントが流れてくるし。


 も~! あさひめぇええええ!!





「音無メアルちゃんかあ、えへへ、あんな可愛い子とゲームしちゃった!」

「ねえ、ゲーム終わったの?」

「うんー」

「なんかめっちゃデレデレしてなかった? ちょっとむかついたんだけど」

「あーごめんごめん! ちょっと騎士ナイトになってたんだ」

朝陽あさひは私だけの騎士ナイト様じゃなかったんだ?」

「ご、ごめんってば~」

「私が一番って言って!」

「おーよしよし、ほのかが一番だよ~」

「もう……もし浮気したら許さんから」

「するわけないじゃん! 私にはほのかだけだよ!」

「じゃあ、証明してよね」

「う、うん?」


 その夜、ほのかによる「他の女にデレデレした罰」が行われることとなるのだった。

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