第3話 女に姫プされる人生【MMORPG配信】

 Vtuberになったからには配信しなくては始まらない。

 配信といえば、ゲームだ。

 なんのゲームをするかはもう決めてある。

 そう、それは……。


「今日は『魔法の大陸』をやっていこうと思うの~!」


 今話題のMMORPGである。


 初ゲーム配信だしFPSにしようかなと思ったんだけど、YouTubeの広告でたまたま『魔法の大陸』のPVが流れてきて一目惚れしてしまったのだ。

 キャラは可愛いし、背景は綺麗だし、それでいて絵本みたいな雰囲気がすごく好みだ。


 ただ、一つ問題点が。

 このゲーム、あんまり男ウケしなさそうなんだよね……。

 キャラとか装備はいわゆる癒し系だし、拠点となる街も可愛い風だ。

 男はしなさそうだなあと思いつつも、『魔法の大陸』をやりたくてたまらなかったので選んでみたのだ。


 コメント

:このゲーム私も好き

:彼氏がこれやってる

:人気なやつ

:気になってたからメアルちゃんの配信観てやるか決めようかな


 ゲームを起動すると、夜寝る時にかけたらぐっすり安眠できそうな癒し系の音楽が流れた。

 オープニング画面には少女ともふもふの精霊が寄り添っている。


 うわ、好きぃ……。

 どうしようもなく好きな雰囲気だ。

 やっぱりこれにして正解だったかも。

 最初のゲーム配信でこれを選ぶのがどうなのかはさておき。


「メアルこの雰囲気すごい好きなの~。なんかペットもいるんだよね? 可愛いペットに乗ってのんびりお散歩したいの~」


 コメント

:ペット可愛いよ~

:それもいいね!

:ペットは課金だよ

:無課金でも手に入りますよ~

:メアルちゃんはどのペットにするんだろ!

:《神保アカネ》魔法の大陸私もやってるで


「神保先輩もこのゲームやってるんだ~。メアル、初めてだから色々教えてほしいの~」


《神保アカネ》いいよ、フレンドなる?


「ぜひぜひお願いしますなの!」


 あれ、なんか私普通に楽しんでるな。

 今回は男は観なさそうだけど、次からはFPSもやっていくから、ストリーマー界隈へのアピールは次回に持ち越しかな。

 今日はとりあえず、配信を楽しむ!

 せっかくVtuberになったんだからね!


 スタートボタンを押すと、まずキャラメイクが始まる。

 私には音無メアルとしての姿があるので、それに似せればいいか。


「う~ん、メアルの可愛いさには及ばないけどまあまあ上手くできたと思うの! 名前は、そのまま"メアル"にするの~」


 コメント

:キャラメイトは割とあっさり派なのね

:そのままで可愛いもんね!

:いいやん


 新たな世界に降り立った私は、ぱぱっとチュートリアルをクリアした。


「なんかいっぱい報酬もらえるの~」


 ログインボーナスなど諸々のアイテムを受け取り、ガチャを回す。

 すると、可愛い洋服が排出された。

 フリルがついたワンピースで、音無メアルの衣装と似ている。

 私はそれを装備して、「協力戦」を選択する。

 ギルドにも入りたいのだけれど、ギルドはレベル10になってからじゃないと入れないので今日は断念。


 コメント

:メインストーリーしないの?

:初手協力戦w

:そんな装備で大丈夫か?

:まずメインストーリー進めて装備揃えてからの方がいいと思うw


「まずは強い人にキャリーしてもらって基礎戦力を整えてから進めるのがメアルの戦略なの!」


 チャット欄に疑問系のコメントが増えたので、私は鼻息荒く主張した。


 コメント

:怒らないの

:人それぞれだよね!

:寄生じゃない?

:まあ効率的よな

:戦略なのねw


 協力戦とは、ランダムでマッチングする四人以上のプレイヤーとパーティーを組んで挑戦することができるイベントのことである。

 配信でするのとは別でアカウントを作ってプレイしていたので、序盤の部分だけ知識があるんだよね。

 まずはここでいい報酬をゲットして、基礎戦力を蓄える!

 それが一番効率的な遊び方なのだ。


「強い人とマッチングしたいのー!」


 バトルに勝利すれば、レア装備がもらえたりもするので始めたばかりの私みたいなプレイヤーにとってはありがたいイベントである。

 やっぱり人は協力し合わないとね!


 「出撃する」を押すとロード画面に入り、マッチングが行われる。

 あ、そういえばボイチャオンにしてるけど大丈夫かな?

 まあ野良の人とボイチャしてる配信者もいるし大丈夫か!


 ロードが終わり、協力戦の舞台となる「赤土の戦場」に降り立った。

 戦場に降り立ったらまずすることは、仲間の居場所を探すことだ。

 このゲームのマルチは少し特殊で、バトルが開始するとプレイヤーはマップ上にランダム配置される。

 一時期話題になった、クラフトとサバイバルを売りにしたFPSみたいな感じだ。

 FPSって一人称視点のゲーム全般のことだと思ってたんだけど、それは間違っていて、正しくは銃で撃ち合うゲームのことを言うんだと最近知ったんだよね。


 話を戻そう。

 このゲームは仲間と合流するまでが割と大変で、なおかつ時間制限もあるので急がなければならない。

 でも、そのせめぎ合いが楽しいんだよね。

 私はマップで現在地を確認しつつ、仲間のプレイヤー情報を確認した。


「みんなすごいのー! レベル高いのー!」


 幸運にも、私以外みんなレベル三桁だった。

 これはついてるぞ。

 もう一個の方のアカウントでは、ゴリゴリの初心者パーティーに放り込まれて呆気なく全滅したからね。


『え、声可愛くない?』

『声優さんですか?』

「え?」


 コメント

:ボイチャオンになってるw

:ボイチャついてるけど大丈夫?

:女の子だ


 ボイチャをオンにしていたので、仲間プレイヤーの声が聞こえてきた。

 向こうもボイチャつけてたんだな。


「あ、私Vtuberやっていまして……今配信中なんですけど、もしご迷惑でなければ配信に載せさせていただいてもよろしいでしょうか……?」


 コメント

:キャラ変わってない?

:私助かる

:よそ行きメアちゃ可愛い

:ひよってるやつおるぅ!?

:ちゃんと言えて偉い

:まあ初対面の人にあのキャラはねw


 いざとなったらなんか急に畏まってしまった。

 根が真面目なのがばれてしまう。

 コメント欄でも結構いじられてる。

 まあ流石に「音無メアル」を貫き通すにも限度ってものがあるというか……時と場合にもよるよね……。


『え、全然いいですよ。ていうかVtuberさんなんですか?』

『なんていう名前ですか?』

「音無メアルって言うんですけど……」

『えー! 可愛い。ていうか声めっちゃ可愛いですね』

「スー……まあそれはよく言われますね!」


 このままだと二人のテンションに流されそうだったので、少しだけ音無メアルを解放してみた。

 視聴者に、面と向かって(ボイチャだけど)だと大人しくなるネット弁慶なんだと思われたくない。

 するとそれが功を成したらしく、少し空気が柔らかくなったような気がした。


 話を聞いてみると、さっきから「えー」が多いテンション高めの方が「きっと寝落ちしないあさひ」さんで、落ち着いてる方が「ろいやる」さんらしい。

 声的にどっちも女だ。

 リア友なのかと思いきや二人はさっき知り合ったばかりのネッ友だという。

 それでこの空気感はすごいな……。

 その適応力私もほしい。


『メアルちゃんは始めたばかりなんですか?』


 きっと寝落ちしないあさひさん改め、あさひさんは早速ちゃん呼びしてきた。

 距離感の詰め方カンガルーかよ。

 ていうか、あさひさんの方が年上なのか?

 声的には十代くらいにも聞こえるけど、それ以上に私が年下だと思われてるのかもしれない。


「そうなの~! だから強い装備がほしくて……」


 流石に音無メアルを貫き通すメンタルは私にはなかったので、気づかれない程度に語尾を入れていく。

 ボイチャオンにしたのは失敗だったかもしれないな……。

 ゴリゴリにキャラ作ってきてるからねこっちは。


『わかります! 私もそんな時期ありましたよ』

『音無さんの装備作りますか?』


 ろいやるさんの甘い誘惑が私を駆り立てた。


「えっ、いいんですか……?」

『私は別にいいですよ』

『私も全然OKです。どんな装備作りたいとかってありますか?』


 コメント

:ぐいぐいくる子達だねw

:よかったね手伝ってくれるって

:ちょっとなれなれしくない?

:↑好意で言ってくれてるんじゃん、性格悪そう

:喧嘩しないで!


『とりあえず合流したいですね』

『じゃあ私メアルちゃん迎えにいくのでそこで待っててもらえますか?』

「えっ、えっ、私なんにもしなくてもいいんですか?」


 コメント

:そうは言ってないw

:すーぐいい方に解釈する


『ふふ。いいですよ、メアルちゃんの騎士ナイトになります』

騎士ナイト様なのー!」

『私も付き合いますよ』

「お二人とも人がいいのー! ありがとうございますなのー!」


 コメント

:人がいいじゃなくていい人ねw

:優しい野良さんですね

:私もメアルちゃんと遊びたい...

:これが本当の姫プ




 その頃、一足先に敵地に辿り着いたもう一人のプレイヤーは……。


「あれ、俺一人?」

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