第2話 ヤバイ女に目をつけられた

 女ウケ0、それでもイケメンの目にとまればいいやと思ってキャラクターデザインして、それに見合ったRP(ロールプレイ)を頑張ったりもした。


 なのに、なのに……。


 なんでこんなに女ウケしてるの!?


 え、「せんせーしょん!」の視聴者層って女性率高めだったりする?

 FPS中心のグループだと聞いてはいたし、女性メンバーしかいないからてっきり女なんか観ないとばかり思っていたのだが。


 予想外ではあったけれど、私の目的はあくまでも"イケメン配信者と仲良くなる"こと。

 だからチャット欄の動きに惑わされてはいけない。

 配信の視聴者数はなんと六千人超え。

 この中に、きっと音無メアルちゃんの囲い希望のイケメン配信者が何人かいるはず!


「メアルのこともっともっと知ってほしいから、自己紹介しちゃおうと思うの~!」


 コメント

:はーい

:もっと知りたい!

:楽しみ!

:りょ!


 私は配信のために用意した自己紹介のテンプレートを画面に映し出した。


「名前はみんな知ってるとおり、音無メアルなの~。メアル、この名前気に入ってるの!」


 コメント

:確かに可愛い!

:メアルちゃんにぴったりな名前だね!

:私も好きだぞ

:《神保アカネ》音無メアル、覚えた!

:アカネちゃんおるやん!

:アカネちゃんもよう見とる


「えっ? 神保じんぼう先輩?」


 神保先輩こと、神保アカネ先輩。

 その方は「私立カシコミ学園」というグループのゲーム部からデビューしたVtuber……ということくらいしか知らない。

 グループそのものは、ガイダンスでせんしょと深く付き合いのあるグループとして紹介されたから知っているけれど、流石にメンバーの名前までは出なかったのだ。

 とはいえ先輩がコメントしてくれているのなら、反応しないわけにはいかない。

 ターゲットではないとはいえ、そこは礼儀だろう。


「神保センパ~イ! メアルの配信観にきてくれて嬉しいの~! メアル、神保センパイとも一緒にゲームしたいの!」


 コメント

:てぇてぇ

:アカネちゃん優しい好き

:アカネのスパルタコーチ受けてみてほしい

:新人には優しいアカネちゃん

:《神保アカネ》いいよー


 ふーん、神保先輩はサバサバ系女子っぽいな。

 音無メアルとは対極にいる存在だ。

 きっと、ゲームも上手いのだろう。

 わざわざ新人の配信にコメントしにきてくれるなんて、余程義理に厚いんだな。

 だがしかし! 私はあなたには興味はないのです!

 だから当たり障りなく返事して次にいかせてもらう。


「え、嬉しいの! みんな聞いた聞いた!? 神保センパイがメアルのために愛のコーチングしてくれるって!」


 コメント

:愛のってw

:脚色しないの

:そこまで言ってないでしょ

:愛(スパルタ)

:早速打ち解けてる...のだろうか


 ふふ、こういうの百合営業って言うんだよね?

 ネットで調べたところによると、女同士で仲良くしてるだけで喜ぶ層が一定数いるらしいのだ。

 私からしたら何がいいのか全くわからないけれど、少しでもウケるためなら手段は選ばない。

 女に媚びるなんて癪だけどね!


:《神保アカネ》お前可愛いな笑 コーチングしたるわ


 おっとおっと。

 距離縮めすぎたかな……?

 もしかして、ちょっと怒ってる……?

 考えすぎだろうか。私は文面から色んな意味を見出だす癖があるから……。

 私の勘違いかもしれないけど、もし本当に怒ってたらやばいので真面目に返答しよう。


「神保センパイ、メアルのことこれから末長くよろしくお願い致しますなのー! それでは次にいこうと思うの!」





 それから時間は流れ。

 配信時間のノルマとして設定されていた30分があっという間に過ぎた。

 もうそろそろ締めなければならない。

 神保先輩はあれ以降コメントはなかったのだけれど、機嫌を損ねていないことを願う!

 まあ、もしだめだったとしてもその時はその時だ。

 楽観的なところが私のいいところなのだ。


「みんなに悲しいお知らせがあるの。なんと、もうメアルの初配信終わらなくちゃいけないの……」


 コメント

:えー!

:やだ!

:名残惜しいけど仕方ないね

:また次の配信で会おう!


 相も変わらず、女らしきコメントばっかりなのはバグですか?

 いや、別に男の視聴者が増えたところで私の目的は達成できないのだ。

 でも、こうも同性ウケがあると、私って女として魅力ないのかなと不安になってしまう。

 それに、コメント欄が女だらけになると、特有の空気が出来上がって男が入りづらくなりそうだし。


 私のキャラ設定ミスか……?

 いや、違う。悪いのはせんしょだ。

 せんしょと、その視聴者がおかしいんだっ!

 ここは宝塚かよ!






 配信終了後、私は神保先輩のチャンネルを覗きにいった。

 私に興味を持ってくれた人はどんな人なのか、しっかりと知っておきたかったのだ。

 するとなんと、神保先輩は私の初配信を同時視聴してくれていたようだった。

 その配信タイトルがこれだ。


 「せんしょの新人ちゃんを見守る配信」


 違うグループなのにこんな風に同時視聴してくれるなんて、ちょっと嬉しい気もする。

 そこは男だろうが女だろうが関係なく。

 まあ、イケメンだったら一番いいんだけどね!


 とにもかくにも、私はそのアーカイブを再生してみた。

 ダメ出しとかされてたら嫌だな……コメントでは優しい風だったけど、配信ではボロクソ言われてたらどうしよう。


 ひー、怖い怖い。

 ていうか、音無メアル自体女ウケ最悪だろうしな……。

 私が視聴者側だったら絶対ぶん殴りたくなるもん……。

 「なんだこのぶりっこ女は!」ってね。


 そして、戦々恐々としながら配信を観始めた私は、別の意味で恐怖することになる。


 最初はよかったのだ。

 最初こそ、先輩は私に軽い突っ込みを入れつつも受け入れてくれていた。

 でも、途中辺りから雲行きが怪しくなってきた。

 私がうざくてイライラしてるとかそういうのではない。

 むしろ、正反対だ。

 どういう意味かと言うと……先輩のコメントを見てもらった方が早いだろう。




「メアル可愛いなあ」


「私がキャリーしてやるって」


「メアルっていい匂いしそうじゃない?」


「この子連れ帰ってもいいか?」


「あー、可愛い。ボコボコに殴りたい」


「監禁したい欲が刺激される女すぎる」





 …………。


 この先輩やばい。(確信)


 冗談で言ってるのか本気なのか絶妙に分からないトーンだから余計怖いんですが!? あと、無駄にいい声なのが複雑だ。

 しかも、監禁とか殴るとか、ワードがいちいち物騒じゃありませんこと!?

 私は身の危険を感じて、すぐにブラバした。


 なんかやばいの釣れちゃった……?

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