Vtuberになったから逆ハーレムを期待していたのに、なぜか女ウケしまくりで困惑しています

羽槻聲

一章 メアルとアカネとロロ

第1話 思ってた反応と違う

 夢にまで見た舞台。

 クリエイティブに生きたい女の子なら誰でも憧れる世界。

 美少女キャラクターに声をあてたり、きらびやかなステージで歌って踊ったり。

 私は昔からそんな世界に憧れていたのだ。

 だから声優を目指して声優養成所に通ってみたりしたこともあった。

 でも、現実は思うようにいかず、養成所を卒業してからやった声優としての仕事は一本のみ。

 そんな私にも、輝けるかもしれない時代がやってきた。


 そう、それはVtuber時代。

 経験なんて必要ない。お金と可愛い声とある程度のトーク力さえあれば、誰だって目指すことができるのだ。

 幸いにもお金はある。可愛い声もある。トーク力は……まあ、許容範囲ってことで。


 ある日、YouTubeをなんとなく見てたらたまたま目に入ったチャンネル。

 そこではアニメみたいなキャラクターが喋りながらゲーム配信をしていて、私は度肝を抜かれた。


 それから気になって色々調べるうち、そういう人たちは「Vtuber」と呼ばれているということを知った。

 そして、Vtuberになるためにはどうしたらいいのか自分なりに調べた結果、それは決して難しいことではないことも分かった。


 私は思った。


 私の居場所、あんじゃん!


 Vtuberになりたい!


 しかし、私一人ではまだまだ分からないことがあったので、オタク方面の知識に明るい知人、島崎しまざき若菜わかなにこのことを話してみた。

 すると彼女から「今は個人勢としてやってくなら厳しいと思うよ~。しっかりファンをつけたいなら、企業からデビューするのが確実だね」と言われた。

 個人勢とか企業とか正直なんのことかわからなかったが、私はとにかく自分を出せる場所がほしくてたまらなかったので島崎に色々と教えてもらうことにした。


 その結果、私は配信未経験からでも応募できる「せんせーしょん!」というグループのオーディションを受けることになった。

 今にして思えば、無謀な行動だったと思う。

 私は自分がしていることの浅はかさを一切理解していなかった。

 しかし、その無鉄砲さがよかったのかなんなのかは知らないけれど、オーディションに合格してしまった。


 オーディションの結果をラインで島崎に伝えると、こんな返事が返ってきた。


「ちょwwwwwwうそやろwwwwwwwwせんしょって言ったら超大手グループやん!!!!何ちゃっかり人生成功してんだよ!!!!!」


 そう、私がオーディションに応募して合格をもらった「せんせーしょん!」は、総チャンネル登録者数200万人超えの大人気Vtuberグループだったのだ。

 とはいえそれがどれだけすごいのかよく分かっていなかった私は、「せんしょ?って私みたいな素人でも入れるんだから誰でも入れるんじゃないの?」とか的外れなことを言って、島崎に小一時間重大さを説かれることになったわけだけど。


 つまり、私はすんごいところに入っちゃったらしい。


珠莉じゅりはせんしょで何をしたいの?」


 島崎に問われた私は考えた。

 私は何をしたいのか。

 それは簡単なことだった。


「イケメンはべらせたい」

「は?」


 そう、私はイケメンが大好きなのだ。

 私のイケメン好きは筋金入りで、幼稚園の頃からイケメン俳優がTVに出てくると画面にくっついて離れなかったらしい。

 今では流石にそんなことはしないが、イケメン好きという点においては変わっていない。

 Vtuberのことを調べるうち、Vtuberになったら色んな活動者の人とゲームができるということを知った。

 つまり、Vtuberになったらイケメンと仲良くなれる!

 それは最早、私の活動理念にまで昇華されていたのだ。


「イケメンと仲良くなってイケメンに囲まれて生活したい」

「珠莉、イケメン好きだもんね...まあほどほどにしなよ」


 そして迎えたデビュー配信日。

 普通、デビュー配信って緊張するらしいけど私は緊張よりも楽しさが勝った。

 だって、この日のためにたくさん準備してきたんだもん。

 会社の人とのキャラクター会議では自分が思う「可愛い」をアピールして提示したし、キャラ付けも一生懸命考えた。

 コンセプトは、イケメンが好きそうな小動物系美少女。

 ピンクのふわふわミディアムヘアーに、フリルつきのワンピース。

 自分が思う「可愛い」を詰め込んだから、きっと世のイケメンたちのハートを射抜けるはず。

 そこにさらに可愛いの追い討ちをかけるように、語尾を「なの~」にして。


 我ながら、女ウケ悪そうだな。

 でも問題ない。

 イケメンに囲われてキャッキャウフフするためなら、女ウケなんて切り捨てよ!

 可愛いで武装した私は、天下無敵!

 ゆえに、アンチも怖くないのだ。


「はじめましてなの~! 早くみんなに会いたかったの~!」


 コメント

:はじめまして!

:せんしょにようこそ!

:声可愛いやん!

:話し方可愛い!


 うんうん、手応えは上々。

 しかし、視聴者はどうでもいいのだ。

 きっと、この配信を観ているイケメン活動者が何人かいるはず。

 私はそのイケメンたちに狙いを定めて、アピールした。


「メアル、FPSが大好きなの~! FPSって男の人のものってイメージがあるかもだけど、女の子でもできるってところ見せたいの~! だから色んな人とお友達になりたいの!」


 なのに。


 コメント

:メアルちゃんって言うんだ!よろしくね!

:ふりふりのワンピ可愛い♡

:私もFPS好きだよ!

:FPS女子きちゃ!

:ナカーマw


 さっきから女っぽいコメントしか流れてこないのはなんでですかね??


 女っぽいコメントをしてる男という可能性はないだろう。

 コメント主のアイコンを見てみると、お洒落なネイルの写真だったり、どこかのカフェっぽい風景と一緒に男キャラクターのアクリルスタンドが映ってたり、中にはレイヤーっぽい女まで見かけた。

 しかも、どれもエフェクト盛り盛りで、いかにも"女"って感じのアイコンがずらーっと並んでいるのだ。


 そうか、わかったぞ。

 女のコメントしか流れないのではなくて、男のコメント以上に女のコメントが多すぎるのだ。


 …………なんで?


 お、落ち着け。心を惑わされてはいけない。

 これは何かの間違いだ。

 私みたいなキャラで女にウケるわけないんだから!


「メアル、か弱い女の子だから強くてたくましい人に守ってもらいたいの~」


 私はやけくそ気味で、あざとさ全開の台詞を述べる。

 これは流石に女は引くでしょ……。

 そう思ってチャット欄を見た私は絶望した。


 コメント

:ん、どした?w

:しゃーなし

:おじさんにキャリーしてほしいのかな?(ニチャア)

:メアルちゃんかわいすぎむり


 さっきまで以上に女が増えてる!?


 自分のことをおじさんって呼称したり、一人称が「俺」だったり自称男みたいなコメントもあるけれど、女の私には分かる。


 こいつらみんな女だ……!

 コメントから「女」が溢れている……!


 え……地獄?

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