第273話 輝く瞳
「……残念だが、この≪
「そっか。マルフレーサでもわからないとなると、これはもうお手上げだね。そうなると、あとはリーザ教団のカルバランとか、その契約神にでも聞くしかないかな?」
「それも無駄だろう。私も多少は
「外からの力……」
マルフレーサは何かを思いついたように、何もなかった空中に裂け目のようなものを出現させ、あるものをその中から取り出し、見せてくれた。
ちなみに、この裂け目はマルフレーサの空間収納の魔法によるものだ。
「これって、≪
「正解だ。これの存在を知っているということは、ますますお前の話に信憑性が出てきたことになるな」
マルフレーサは考え込むような仕草をした。
俺は、セーブポインターに関すること以外の大方の事情をマルフレーサに説明し、その上でこの≪地鎮の石標≫とその埋設地点が記された地図を見せている。
俺が別の展開の複数の未来を知っていること。
この異世界がいずれ惑星ごと滅びてしまうこと。
そして、ボォウ・ヤガーらそれを企む黒幕たちの存在のこと。
それと、一瞬、≪
人知を超えたパワーを持っていることを目の当たりにすれば、言葉に信憑性が増すと考えたのだ。
「嘘じゃないって、言ったじゃない。それは魔王から貰ったんでしょ。そして魔王と直通で話ができる」
「……驚いたな。そんなことまで知っているのか。まあ、良い。話を先に進めよう。これは神器の一種で、離れた相手と交信するのに使えるアイテムだが、表面を拡大してよく見ると、そこにはある一定の法則で配置された記号のようなものが刻まれていることがわかる」
マルフレーサは掌に載せた≪交信珠≫の表面を、何かの魔法で拡大して見せてくれた。
なるほど、形は一致して無いが、なんとなくその雰囲気は似ているように思えた。
「この記号のようなもの自体については正直、我らの理解の及ぶところではないが、もし仮にこの≪地鎮の石標≫が、≪交信珠≫と同様の神器であるなら、これの製作者は並々ならぬ力量と知恵を持つ神だろう。こうした神器というのはそれこそ神々にとっても貴重なものであるそうだ。私に古代神魔法を授けてくれたとある神に聞いたことがあったのだが、普通の神にはこうした神器を創ることはできないらしい。神々の中でも一握りの、人間でいうところの
「それは、かなり困難なミッションだね。正直、無理だと思うよ。恐ろしく強いんだ、あいつ……」
目を閉じると、今でも、俺が殺された時の情景が複数パターン生々しく浮かび、正直、体の底から震えが来る。
問いただすなんて、とんでもない。
あれは勝負というよりも、何秒死なずに耐えきれるかを競うゲームのようだった。
「そんなに暗い顔をするな。この≪地鎮の石標≫が何なのかについては、実はそんなに重要な問題ではない」
「えっ、どういうこと?」
「お前の言うそのボォウ・ヤガーという神ら、黒幕たちの狙いがこの星の中心にあるその≪
「なるほど」
「それに、私にとって興味深いのはこの地図の方だよ。この一見無秩序に見える無数の点、ざっと数えただけでも五百近い数がもうすでに埋設済みだということになる。そして注目すべきはこの点の配置だ。この平面の地図を、頭の中で球形に置き換えて見ると分かるが、これはもうすでに、これ自体が巨大な儀式のための陣のように見える。魔法で言うならば、そうだね……まさに立体構造的巨大魔法陣とでも言うべきもの……。もしこのようなものを使って何か魔法効果を発現させようと思ったなら、それこそこの惑星自体の破壊も可能になるかもしれない。この地図の情報からもう一度、≪地鎮の石標≫について考察して見ると、ぼんやりとだがその正体が浮かび上がってこないかい?」
「いや……ぜんぜん」
「……そうかい。まあ、お聞き。やつらが欲しいのが≪
「たしかに」
「つまり、この≪地鎮の石標≫は、≪
「そうか!じゃあ、もうすでに埋められている≪地鎮の石標≫を全部掘り起こしてしまえば、やつらの目論見が破綻するってわけだ」
思わず席を立ち、喜びを表した俺に、マルフレーサが呆れた顔をする。
「ユウヤ……だったね。あんたはどこまで能天気なんだい。その地図にあるその点ひとつがどれだけ広範囲な場所を示しているか想像してごらん? 地図の上では小さな点だが実際は街ひとつ、いやそのあたりの周辺の土地も含む広大な場所の、しかも地下に埋まっているんだ。それらをひとつひとつ探し出して、掘り起こすとなったら、それこそどれだけの時間がかかるかわかったものじゃない。世界が滅びる前にそこいら中、大穴だらけになってしまうよ」
「はあ……。そうだよね。ぬか喜びして損した」
俺は力なく、椅子の上にすとんと腰を下ろした。
「ねえ、マルフレーサ。俺、一体これからどうしたらいいんだろう。世界を救うために俺ができることって何か無いかな?」
「ふふっ。そんな、捨てられた子犬のような目で私を見るな。……仕方ない。このマルフレーサが一肌脱いでやるか。ここの隠遁生活にも少々、飽きがでてきていた頃だ。ちょうどいい。力を貸そうじゃないか」
マルフレーサの姿があっという間に老婆から、若々しい美女のものに変わる。
灰色だった瞳は、
そして、艶やかな唇に不敵な笑みを浮かべつつ、向けてきた視線には、今となっては懐かしいきらきらとした好奇心の輝きのような光が浮かんでいた。
どうやら、俺の話に相当の興味を持ってくれたらしい。
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