第267話 予定変更
妖精の爺さんは、自分たちのことを今世の住人ではないと嘆いていたけれど、俺はそんなことは無いと思う。
妖精の爺さんも、タイテーニアさんも、家来の方々も、皆、ちゃんと俺の中で生きている。
怒ったり、笑ったり、時に悲しんだりするのは、その証拠だ。
自分の心の中にそんな不思議な世界が存在していると聞くと、ただただ戸惑うばかりだけど、俺が生きて存在していることが、滅びを待つばかりであった彼らの幸せにつながっているのだとしたら、嬉しい気もしないではない。
妖精の爺さんには、まだもう少し時間が必要なのだと俺は思った。
妖精の爺さんが抱えている事情は、タイテーニアたちよりも複雑なようだし、かなり悩んでいる様子が窺えた。
いつも思うのだが、この≪ぼうけんのしょ≫のタイトルは、誰がつけているのだろう。
つけ方を見るにかなり意地悪な感じがするし、なんか俺のこと馬鹿にしてたりする?
まあ、そんなことはさておき、俺は着々と自分がすべきことをするだけだ。
難しいことをやろうと思ったって頭が混乱するだけだし、できるだけシンプルに一歩一歩前に進んでいく。
まずは俺の≪成長限界≫に至るまでコツコツとレベルを上げ、浮かんだ疑問点を一つ一つ解決していくのだ。
まだ未使用のセーブ可能日もこの際全部、レベル上げのために消費することにした。
人生のやり直しができる細かい分岐点を失ってしまうのは痛いけど、今の俺に必要なのは、ボォウ・ヤガーたちの企みを阻止できるだけの力だ。
考えてみれば、人生っていうのはそもそもが取り返しのつかないものであるし、一旦セーブして、様々な可能性を試せていた今までがとても恵まれすぎていたことであったのだ。
それでも≪ぼうけんのしょ≫に残せる過去の三つの時点にはいつでも戻れるわけだし、この際、思い切ってセーブ可能日を費やす覚悟を決めた。
その代わり、≪ぼうけんのしょ≫に残す記録についてはどの時点にするか、しっかりと吟味するつもりだ。
次のターゲットに据えていたタクミの件だが、ボォウ・ヤガーの存在が明らかになった今となっては、さほど期待しているわけではない。
だから焦らず、クラスチェンジできるだけのレベルアップを目指す傍ら、そのついでに確認してみようと思う。
方法は考えなければならないが、ある時期で、イチロウを生かしたまま無力化し、そしてタクミと会って話をしてみる考えだ。
タクミがこの異世界に馴染み、おのれの能力をある程度把握できたであろう頃を見計らっての面会が良い。
そして再び18日目。
俺はバルバロスがいる北部の山岳地帯の砦には行かず、久しぶりに王都をぶらつこうかと≪場所セーブ≫で移動した。
この日は、もうすでに以前の異なる展開の時にセーブ済みであったため、レベルアップには使えず、さりとて、急に諸問題に進展が見られたこともあって、手持ち無沙汰な感じだったのだ。
王都の賑やかな
ついでに俺のこわれつちまつた股間センサーに反応してくれる運命の相手が現れてくれたなら、どれだけ素晴らしいことだろう。
通りの屋台で、たれ付きの肉串を買い、それを食べながら往来を歩いていると、飲み込んだ肉の塊をのどに詰まらせそうになるほどに、驚くべきことがあった。
なんと、何気なく眺めた街の風景の中に、あのボォウ・ヤガーの姿があったのだ。
通りをカバンのようなものを持って歩き、どこかに向かっているようだった。
俺は、慌てて身を隠し、普段から自分の≪
無だ。無になれ。心を無にして、ここに存在しないように息を潜めるのだ。
それをやりつつ、何も気がつかないふりで後をついて行ってみよう。
一方のボォウ・ヤガーも、俺の≪
思わず見事だと舌を巻いてしまうほどの巧みな気の抑制だった。
俺が神の気を感知できるようになり、さらにボォウ・ヤガーの存在を知った今だからこそ気が付けたが、そうでなければ、たぶん、何気ない雑踏の中の風景の一部として見過ごしていたかもしれない。
そして、何かの術なのか。
この異世界ではあり得ない、これほど目立つスーツ姿なのに、誰の注目も集めず、ごく自然に通りを歩いている。
なるほど。バルバロスが死んですぐに俺のところに現れることができたのは、この日たまたま王都にいたからというわけか。
そうでないなら、意外とこのボォウ・ヤガーは、普段から王都に
予定変更。
ぶらぶらするのはやめて、ボォウ・ヤガーを追跡してみる。
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