第263話 心を鬼に

極端な話、俺の一挙手一投足で刻々と状況が変化する可能性があって、その複雑な無数の要因を管理することなど、俺の頭ではできるはずもないので、やって良いこと、悪いことなど、思いついた様々な項目を箇条書きして、一枚の紙に書き出してみた。


リーザ教団は滅亡に関係なし。

イチロウは死なせてもギリでセーフかも。

ジブ・ニグゥラを倒しちゃうのはアウト。

城の地下で女神リーザに直に相談するとタクミは登場せず。

タクミはイチロウを放っておくとそのうちに殺される。

王様に逆らうのは問題なし。

魔王と敵対するのも問題なし。

基本的に神さまのたぐいはあてにならない。

地球に帰還すると、即、殺される。

俺たちは地球で一度死んでるかも。

グラヴァクは倒しても大丈夫だけど、惑星崩壊などに影響ありかも。

俺が山籠もりとかして、世の中に関わらなければ997日目に世界滅亡。

(これが今のところ最長。城から追放された日を0日目とする)



各ロードの展開を時系列毎に書き出した紙の方はごちゃごちゃとしていてわかりにくく、眺めていると気が狂いそうになって来る。


だから、シンプルにまとめたこの箇条書きをもとに行動し、あとは適当に調整を取りつつ、目的をひとつひとつ潰していく方針にした。


同じような方針検討用のまとめや時系列に沿った表を、またもう一度白い紙に書き出すのは嫌だったので、まだ未使用だった17日目を≪ぼうけんのしょ≫の二番にセーブした。


ぼうけんのしょ1 「ほかにすることはないのですか?」

ぼうけんのしょ2 「彷徨える下半神……」

→「ひとつひとつ希望を潰す準備?」

ぼうけんのしょ3 「はじまり、そして追放」


レベルはこれで199になった。



この17日目までに、アレサンドラたちやフローラ親娘が不幸にならないように原因となる魔人を討ち果たし、ついでにバンゲロ村も救っておいた。

素性隠し、速やかに、人知れず。

本人たちとも特に会話などはしないで、事務的に必要と思われるタスクを黙々とこなす。

あとは目についた問題とかを摘み取りつつ、自己満足で人助けの真似事のようなことをして時間を潰した。


一人で飲む酒はおいしく感じられなかったし、エッチできそうな相手もいない。


とにかく夜が長かった。



18日目。

再ロード覚悟で、今回の最初の目標であるバルバロスの白黒を確認に向かった。


まだタクミが召喚されたかどうかについては、王城で何か不穏な動きがあったようではあったものの、街の噂などからでは詳細がわからなかったので、こっちを先に済ませることにしたのだ。

この異世界に来てすぐのタクミに会ってもおそらくレベルなどは低いだろうし、滅亡回避の役に立ちそうか見極めるのも難しいと考えた。



王都の北。

魔王領との境からだいぶ離れた山岳地帯の砦に駐留していたバルバロスのもとを俺は急襲し、身柄を確保した。


砦内の警備の兵を無力化し、執務室に侵入した俺は、バルバロスを床にうつ伏せに倒して、背後から腕の関節を決めた。


「ぐっ、おのれ……。この私を王軍司令バルバロス・アルバ・ゼーフェルトゥスと知っての狼藉か?」


「そんな長い名前は知らないけど、あんたが裏でやってることは知ってるつもりだよ」


これはブラフだ。

イチロウを配下にする前の段階でどんなことをしていたかなど、俺は知らない。


「裏でだと? 何のことだ 」


「……邪眼刀じゃがんとうって刀を知ってるよね。その刀に宿っているジブ・ニグゥラから、色々と聞いているよ」


「……? 邪眼刀、それにジブ・ニグゥラだと? なぜ、その名をお前が知っている。お前は何者だ!」


俺は、その問いに答えず、バルバロスの顔を一旦浮かせ、床に強く押し付ける。

顔をしたたかに打ったバルバロスが苦悶の声を漏らす。


「勘違いするなよ。質問してるのは俺の方だ。お前はただ俺の質問に答えるだけでいいんだ。それ以外のことをすれば殺す」


声に凄みを効かせて、耳元で囁く。


「俺が知りたいのはお前の背後にいる、とある神のことだ。まずはそいつの名前を答えてもらおう」


「し、知らない。私にはお前が何を言っているのか、わかっ……」


俺は、バルバロスの言葉を遮るように再び床に、その顔を打ちつけた。


本当はこんなことやりたくない。

やりたくないけど、あの黒幕Xに辿り着くためには心を鬼にする必要がある。


何せ、放っておけば、この惑星に住むすべての命が絶たれてしまうのだ。

手段を選んではいられない。


再ロードは可能なので、必要ならばここでバルバロスの命を奪うことも辞さない覚悟を決めてここに来た。

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