第260話 未知との遭遇
この一年ほどの期間を、俺はレベル上げだけして漫然と過ごしていたわけではない。
せっかくセーブするのだから、それを有効に生かそうと様々な試みと確認をしてみた。
タイテーニアさん以外の異性に、性的な興奮を覚えることができるのか。
俺は、マルフレーサ、アレサンドラ、ヴィレミーナ、さらにはテレシアやラウラ、バンゲロ村のサンネちゃん母娘にいたるまで様々な女性のもとを訪れ、確認してみた。
……だが、駄目だった。
深く関わった女性たちには、いまだに強い親愛の情は感じるものの、俺の下半身はまるで反応しない。
喪服や未亡人ならどうだということで各地の葬式巡りをしてみたが、それも無駄だった。
どうやら別にそういった性的嗜好が身についてしまったというわけではないらしい。
他人はくだらないと馬鹿にするかもしれないが、必要な時に男性器が機能しないという事態は実に深刻な問題だ。
童貞を卒業してから気がついたことだが、女の人にも性欲がちゃんとあって、エッチをしたがったりするものなのだ。
付き合ってる相手から求められたときに、それに応じられないことは男女の間におそらく危機的な問題を生じさせる。
子孫を残すこともできないし、何より嫌われてしまうのではないかと思う。
恥ずかしい告白をするようだが、ずっとエッチをしてない影響で、夢精までしてしまった。
最後にしたのはたぶん中学生のころとか、かなり前だと思うが、同じ部屋内で寝ているウォラ・ギネに気が付かれないようにパンツを洗いに行くのはとても虚しい気持ちになった。
体の方はこの上もなく健康だ。たぶん心の問題だと思う。
こうして、この一年間ほど、俺は必死に努力したが、何の成果も得られなかった。
下半神ならぬ、下半身に振り回されたような一年だった。
深い絶望の中、気分転換に取り組むことにしたのは、ずっともやもやしていたジブ・ニグゥラ関連の問題だ。
ジブ・ニグゥラというのは
この邪眼刀は、バルバロスの個人的な所有物のようで、≪大剣豪≫の≪
これまでの経験上、最も急速に世界滅亡のタイミングが早まったのは、このジブ・ニグゥラを消滅させた時であったため、俺はこの邪神とバルバロス、そしてイチロウの三者が重要なファクターなのではないかとその頃から疑いの目を向けていた。
あまりにも色々有りすぎて、つい後回しになっていたけど、ようやくそれに着手することにしたのだ。
ジブ・ニグゥラの消滅は、常に世界の破滅に直結するのか?
俺はそれを確認したかった。
ジブ・ニグゥラはイチロウともども、バルバロスを通じて、何者かの使いっ走りにされているようだった。
別のロード展開では、その背後に潜む正体不明の何者か、あるいはバルバロス自身の命令で、世界を救おうと活動していた俺や、別の展開で王城に居座ってしまっていたタクミを除こうとしていた。
俺はこの正体不明の何者かを≪魔界の神≫グラヴァクではないかと推理していて、そうであるならば、ジブ・ニグゥラを倒してしまっても世界の破滅は訪れないのではないかと思ったのだ。
現時点での世界滅亡の最大要因であると睨んでいる≪魔界の神≫グラヴァクはすでに消滅し、このニーベラントには存在しない。
この状況で、ジブ・ニグゥラをも消滅させたら、世界はどうなってしまうのか。
それを検証してみた。
ゼーフェルト王国側の状況を確認に行った際に気付いたのだが、今回も例にもれず、イチロウの腰には邪眼刀の本差しと脇差しが見受けられたので、ちょうど良かった。
初日に、城で大暴れした俺の話を聞いたバルバロスが、その対抗策にするなどの目的でイチロウに持たせたのだろうか。
コマンド≪つよさ≫で確認したら、もう今の時点でイチロウのレベルが50近くまで上がっていた。
邪眼刀には所有者の≪成長限界≫を引き上げる力があるらしく、この成長のスピードを見るにその他にも何か特別な力を持っているのかもしれない。
ちゃんとセーブして、イチロウのもとに行き、問答無用で邪眼刀を取り上げ、へし折ってみた。
結論から言おう。
俺の祈るような気持ちに反して、やはり世界の滅亡はやって来た。
ジブ・ニグゥラを消滅させると世界が滅びてしまうのは、ほぼ確定だ。
それを行った翌日の昼前頃にウォラ・ギネが苦しみだし、外に出て確認して見るとハーフェンの街の人々も皆同様に息絶えた。
そして空がまるで夜のように真っ黒になり、幾度か空が明滅したあと、強力なエネルギーの塊が地上のあちこちに降り注いだ。
その後、大地が激しく揺れ出して、地割れが起きた。
大地が隆起し、まもなくすべてが宙に浮きだしたのだが、驚くべきはその展開の速さだ。
これまでになく最短で、あっという間に星が崩壊したのだ。
ニーベラントは、粉々になって岩石群となり、その中心にあるあの翠玉のような輝きを放つ巨大な光の塊が姿を現した。
宇宙空間に放り出された俺はなぜか、今までのように死ぬようなことはなく、別に苦しかったりすることもとくには無かった。
レベルが大幅に上がったおかげだろうか。
たぶん、≪幻妖神の
≪魔界の神≫グラヴァクが死んだ影響なのか。
あの猛々しい赤き竜のような存在は現れていなくて、ただひとつ、不吉に輝く禍々しい光があるばかりだった。
その禍々しき光は大きく、その存在感は圧倒的だったがよく見るとその中心に人のような姿が見える。
長く白い髪。光に遮られ、はっきりとは見えないが、たぶん男の姿をしていると思う。
男は、何かを唱え、右手をニーベラントの中心にあった翠玉色の光の塊にかざした。
翠玉色の光の塊はまるで圧縮でもされたかのように小さく凝集していき、やがて手のひらに乗るようなサイズにまでなると、引き寄せられ、男の掌中に納まった。
俺は宙に浮かぶ大小無数の岩石群のうちの一つにしがみ付いて、気配を殺し、その成り行きを見守っていたのだが、間もなく、方々から色とりどりのたくさんの小さな光がやってきたように見えた。
なんとなくわかったのだが、これらの光はおそらく神の力を顕す、人間で言うと≪理力≫のような精神エネルギーだ。
そうだとするとあの禍々しい光を纏ったあの男はどれほどの力を持っているのだろう。
興味を抑えきれずにコマンド≪つよさ≫を使ってみたが
小さな光を帯びたその何者かたちは、その男に、挑みかかっていったがまるで相手にならず、蹴散らされ、あっという間に全滅した。
俺のすぐそばにその残骸が漂ってきて、なにか金属の板のようなものに「MAGE」と塗装してあった。
「マゲ?」
思わず声が出てしまい、俺は慌てて両手を塞いだが、すべては遅かった。
男の凍えるような青銀色の瞳がゆっくりと俺の方を向き、そして目が合ってしまった。
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