第247話 為すべきこと
「ユウヤだ!ユウヤのやつが攻めてきやがった」
「ヒマリっ! オレたちが食い止めている間に、
≪魔界の神≫グラヴァクとの交渉決裂から十九日後。
不意に魔王城の城門前広場に現れた俺の姿に、亀倉たちを含めたその場に集まっていた者たちは慌てふためくことになった。
魔王城の周囲は物々しく、以前来た時とは異なって、大勢の魔人たちからなる軍勢が結集してきており、もはや決戦前夜という様相であった。
魔都カルヴォラを囲む城壁の外にもどこからやって来たのか大小さまざまな種類の無数の魔物たちがぞくぞくと集まってきており、これらが一斉にゼーフェルト王国に向かって進軍を開始したらどうなってしまうのか、考えるだに恐ろしかった。
どうやって居場所をつきとめたのかは謎だったが、実は昨晩、マルフレーサの使い魔らしい鳥が俺の潜伏先に現れて、魔王勢力のゼーフェルト侵攻がまもなく開始されるであろうことを告げた手書きのメモをよこしてきたのだが、まさにギリギリセーフという感じだった。
この様子だとおそらく準備が整い次第、この魔都カルヴォラを出立しそうな雰囲気だった。
「悪いけど、押し通るよ。怪我したくなかったら、退いててよ」
正面突破。
俺は、魔人たちを蹴散らしながら、亀倉たちの姿がある閉ざされた城門の扉に向かう。
≪魔騎将≫アルメルスも立ちふさがって来たが、一打にて打ち伏せる。
浮気するわけじゃないけど、ウォラ・ギネがくれた≪世界樹の長杖≫は、≪
一番手に馴染むのはザイツ樫ちゃんだから、どうか許してね。
亀倉たちは新たな装備を支給されたらしく、武器や防具が一新されている。デザインも魔人たちが着用しているものと似通っていて、なんかその一味みたいな見た目だ。
「うおおおおっ」
亀倉が雄たけびを上げ先頭を切って、俺に向かってくる。
その表情は鬼気迫る感じで、全身から闘志がわき出しているかのようだった。
「くらえ、魔斬撃!」
亀倉の持つ禍々しい意匠の剣の刃が、闇に覆われた状態で振り下ろされる。
俺はそれをすれ違いざまにかわしつつ、手刀で亀倉の首筋に当て身を打つ。
「よくも、亀倉さんを」
亀倉の体を死角にして接近してきていたケンジが短剣の切っ先を俺の胴たい目掛けて突き立ててくるがこれも長杖で打ち下ろし、そのまま流れる動きで、杖頭をその身に突き立てる。
「カハッ……」
急所を狙ったのでケンジは呼吸ができずそのままうずくまったが、俺はわき目も降らずに、門を≪
サユリと青山勝造、そして眼鏡の人は、怖気づいたのか向かっては来ない。
セツコ婆さんの姿はここには無いし、ミノルはたぶんまたどこかに隠れているのだろう。
マルフレーサの姿もなかった。
俺は一目散に地下を目指した。
マルフレーサから魔王軍出撃の報せを受けて、正直、俺は悩んだ。
亀倉たちの気持ちを考えれば、どうにか帰還させてやりたい。
だが、それと引き換えに罪なき人々が犠牲になるのは何かが違うと思ったのだ。
妖精の爺さんの話では、≪魔界の神≫グラヴァクという神はどうにも信用のおけない奴らしい。
だから、俺はひとまずそれを確かめることにした。
前日に≪ぼうけんのしょ≫にセーブし、この無謀ともいえる単身突入を決断したのである。
ちなみに今のレベルは101だ。
俺はマルフレーサや魔王のように頭が良くないから、細かい小細工などできない。
出たとこ勝負。
万が一、死んでもやり直しがきく。
この俺にしかできないやり方だ。
死ぬのは痛くて苦しいし、嫌だけど、俺が我慢すればそれだけで済む。
「お邪魔しますよ」
俺は、竜を象った例の石像が安置されている地下の部屋を訪れた。
『まさか、もう一度我の前に姿を現すとは、思いもよらぬ行動をとる奴だ。一体、何をしに来たのだ?』
「それはあんた次第だ。俺は見極めに来たんだ。あんたが本当に信ずるに足りる神であるのかを……」
『神を試しに来たというのか。愚かなる人の子よ。身の程を知れい!』
石像の目が炎のように赤々と輝き、室内の空気が振動した。
グラヴァクの怒りが直に伝わってくるようだ。
素直に白状すると、すごく怖い。
強いとか弱いとかそういう基準ではない別の物差しで、このグラヴァクという神はどこか他の神々とは一線を画するような格の違いのようなものが俺には感じられるのだ。
俺は勇気を振り絞り、石像の周りに施された円形の魔法陣のようなものの上に置かれた石のうちの一つを蹴り飛ばしてみた。
これが何かはわからなかったが、ずっと気になっていたのだ。
あくまでも屈しない態度で臨む意思表示として、そして俺が本気なんだという気持ちを伝えるためにあえてやってみた。
こっちはお前の対応次第では敵対することも厭わない覚悟だ。
蹴った瞬間、なぜか少し足がピリッとした。
『……待て。その円陣に触れるでない。話なら聞こう。何が望みなのだ?』
「まず一つ目。ゼーフェルト王国への侵攻を中止させてほしい」
『それは我にではなく、コゴロウに言うのだな。ゼーフェルトへの復讐はコゴロウの、そして奴の力で魔人となった者たちの悲願。我の命令で行っているわけではない』
「そっか……」
俺は近くにあった別の石を壁に向かって蹴った。
『ぐっ……、おのれ。自分が何をしているのかわかっているのか?』
「わからないよ。この床に配置された石は何なの? それがふたつ目の質問。答えないなら、この床に書かれたこの魔法陣自体をぶっ壊す」
『……その魔法円は、我が宿るこの石像を守る結界のようなもの。我の気配を城の外から感知されることを防ぐほか、外部からの≪神気≫による攻撃から我を守るたてのような役割を果たしている。古より魔界に伝わる邪法よ。この結界が損なわれることはすなわち我が身を危険に晒すことを意味する。そうなれば、亀倉たちも、お前も元の世界には決して戻ることができなくなるぞ。それでもいいのか?』
なるほど、この魔法円の力で何年もその存在を隠してきたというわけなんだ……。
「……三つ目。これが本題だけど、あんた、本当に亀倉たちを地球に帰す気があるの? 利用するだけ利用して、約束を反故にするつもりじゃあないよね?」
『神である我を疑うというのか?』
「グラヴァク……。≪幻妖神≫オヴェロンっていう神様を知ってる?あんたが殺したという神……」
『忌まわしき名だ。女神リーザと同様に、今でもその名を聞けば
「俺はあんたがどういう神で、大昔にどんなことをやってきたのか。もう知ってしまっているんだよ。あんた、地上の生き物すべて殺しちゃおうって考えてたんだよね。そんな神さまが、ちっぽけな人間の、それも、よその世界から来たような俺たちのために自分の身を危険に晒そうとする? たしか、銀河連盟とかいう神様たちの組織に関与を疑われるとまずいことになるんだよね?」
俺は、一歩、また一歩とグラヴァクが宿る竜の石像に歩み寄り、そしてまた一つ、足元の石を踏みつぶした。
かけらが飛び散り、少し魔法円を形作る怪しげな光が揺らいだ気がした。
『貴様、やめろと言っておる!』
どうやらこの魔法円はよほどグラヴァクにとっては大事なものであるらしい。
グラヴァクの威圧に俺の足は少し震えていたが、それでも頑張って、また一歩前に出る。
もう俺の長杖の間合いだ。
「グラヴァク様!」
魔王たちがどうやら駆けつけてきたようだ。
背後の扉が開く。
回復魔法を得意とする≪聖女≫であるサユリの手当てを受けたのか、亀倉とケンジの姿もそこにはあった。
「おっと、そこから動くなよ。少しでも妙な動きをしたら、この石像をぶっ壊す」
俺は亀倉たちの方を振り返り、
ああ、これじゃあ俺の方が悪者みたいだけど仕方ない。
裏社会でギャングやってた時の経験を生かさせてもらおう。
気持ちで負けたら、為すべきことも為せなくなる。
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