第244話 ラビリンス
何もかもが、うまくいかない。
レベルを上げてどんなに強くなっても、様々な経験に基づく試行錯誤をしてみても、まるで出口のない迷路に入り込んでしまったかのように、結局いつも途中で袋小路に行き当たってしまう。
だいたいいつも、俺はそうだ。
元の世界にいた時から、何一つうまくやり遂げたことがない。
中途半端、根性なし、無責任。
たぶん昔から周囲にはそう思われていたことだろう。
セーブポインターの力を得て、少しは変われたと思っていたのに、結局、中身の根っこの部分は何も成長していない。
今回のロードも結局、初志貫徹できず、宙ぶらりんの状況になってしまった。
迷いこそあったものの、ほんの少し前まで、元の世界に帰るつもりであったのに、肝心のお願いをする相手と完全に対立してしまった。
「あーーーーーー! 俺は一体、何やってるんだろ」
海が見える高台の岩場に座っていた俺は、抱え込んだもやもやをどうにもできず髪をぐしゃぐしゃにしてしまった。
「まあ、これでも飲んで落ち着け。儂で良ければ、話を聞くぞ」
ウォラ・ギネが腰に下げていたひょうたんのような容器を俺に寄こしてきた。
俺は、頭を下げ、それを受け取ると、蓋を抜き、それに口を付けた。
口の中に、強烈な酒の味がして、それが流れ込んだ喉に心地の良い刺激が通り過ぎる。
胃の中がにわかに温かくなり、張りつめていた何かが解け始めたような心地がしてきた。
たぶん、ウォラ・ギネが好んで飲んでいたゴロ芋の蒸留酒だ。
とにかくアルコール強くて、飲んだら火を噴きそうなほど辛い。
「はぁー。ありがとう。強烈だね。いい気分転換になりそうだよ」
俺は礼を言って、ウォラ・ギネに酒の容れ物を返す。
ウォラ・ギネもそれをグイっとやって、満足げな顔をする。
「ねえ、ウォラ・ギネの目から見て、俺の駄目なところって何かあるかなあ」
「なんだ。弱気になっておるのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど、やること為すこと、みんなうまくいかなくてさ。全部、裏目裏目に行っちゃうんだ。それで、根本的な考え方が悪いのかもって思ったわけ。第三者の目から見て、この短期間の俺の行動になにか問題とかなかったかなあ?」
「問題か……。無いことも無いと思うが、だが儂はお前のことをますます好きになったぞ。あのわけのわからん竜の置物の申し出をきっぱり断ったのは、あっぱれという他はない。戦争など、くだらん。泣くのは民ばかりだ」
ウォラ・ギネと俺の間で酒の容れ物が行き来する。
「やっぱ、そうだよね。多分、他のみんなもそのうち気が付いてくれるよね? 元の世界で暮らしてた国はすごい平和でさ。そりゃあ毎日どこかで誰かが亡くなったりはしてたんだけど、身近で誰かが殺されるとか、ましてや自分が誰かの命を奪ってしまうみたいな経験なんかはそんなにしてないはずなんだ。ヒマリなんか、「やれることを精いっぱいやります!」なんて言ってたけど、実際に戦場に入ったら、きっと後悔すると思う。本当に、本当に、みんなわかってない!…………わかってないけど、あそこまで行って、俺だけ一人離脱するっていうのが、なんというか……俺何やってんだろって。でも、自分があの王都に攻め入る光景を想像したら、なんて言うか、我慢できなくて、ついカーッとなってしまった」
「後悔しとるのか」
「いや、今も考えは変わらない。けど、初志貫徹できない自分にコンプレックスがあるっていうか。みんなみたいに勢いに乗って突っ走れないみたいなところがあるんだよね。何をやっても長続きしない。途中でやめたり、あきらめたりすることが多いんだ。初めて、自分で何かをやり遂げたと思ったのがムソー流杖術だった。だから、別の未来のギネに正統後継者として、認められたときは嬉しかったな」
「ユウヤよ。別に初志貫徹したからといって、それが正しいとは限らんぞ。間違った道を、ひた進んでしまうより、一度立ち止まったり、引き返してみることも大事なことだと思う。それに、おぬしは立派に貫いておるではないか。世界を破滅から救うのだという思いは、まだ捨てておらんのだろう? だから、あの要求を突っぱねることができた。おぬしは立派じゃよ。胸を張れ」
最近の俺は、かつてみたいに泥酔したりするほど酔うことはない。
上昇したステータスの影響なのか、陽気になったり、感情が動きやすくなったりはするけど、酔い醒めも早く、身体機能に影響は、たぶんない。
なのに、こんな励まし方をされると思わず涙がこぼれそうになってしまう。
俺は、涙をぬぐい、そして持っていた蓋を、酒の入れ物の口に差し込んで、ウォラ・ギネに返した。
「話を聞いてくれて、ありがとう。なんだか元気が出たよ」
俺は腰を上げ、服に付いた埃を払った。
「ならば善い。それと、マルフレーサのことなら気にするな。あやつは、昔からああいった行動をとる。賢い分、人を出し抜かずには居られぬたちなんだろうな。まあ、よほどのことが無い限り、如何に相手が魔王や神であったとしても、あやつならどうにかうまく立ち回るのではないかな。それに、向こうに残ってくれたおかげで、亀倉たちも安心できるじゃろ」
「そうだね。俺もそう思うよ。たぶん、マルフレーサなりに何か考えての行動なんだと思う。今はそう思って、信じることにするよ」
そうだ。くよくよしてる場合じゃない。
一瞬、ロードしてやり直そうかという考えが過ったけど、せっかくここまで頑張ったんだ。
魔王勢力への積極的介入。
そして、向こうからの提案を拒絶するという俺の選択が、いかなる結果をもたらすか、目を逸らさずにしっかりと受け止めよう。
その上で、何がいったい最善なのかをもう一度考え直すんだ。
そして必ず抜け出して見せる。
無限に続く、
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