第242話 魔界の神
一度、亀倉たちを連れに戻り、そして全員揃った状態で魔王城に足を踏み入れた。
魔王城の内部は、古く老朽化していて、おそらくゴーダ王国が滅び去った時のまま手つかずになっているように思われた。
「ねえ、
「おまえ、急に馴れ馴れしいな。先ほどまで、我らは殺し合いをしていたんだぞ」
「案外、根に持つ性格してるんだね。殺し合いっていうけど、俺の方はそんなつもりは毛頭なかったよ。あんたが勝手にテンパって不意打ちしかけてきたんじゃない。あれだって、俺じゃなきゃ死んでたし、逆恨みもいいところだよね」
「くっ。しかも、願いを言う相手が私ではないということになったとたんにタメ口を聞く。お前たちの時代の教育は、いったいどうなっているのだ。まったく……」
ごもごもと魔王がこぼす愚痴を聞きながら、俺たちは城の地下へと足を運んだ。
そこは城の地下の備蓄庫のような場所を改装して作った部屋のようで、その奥には大きな両翼を広げた竜の石像が安置されていた。
城の地上部分とは異なり、この部屋はとても見事なしつらえになっていて、神さまが居る場所としても相応しい感じだ。
石像の周りにある円陣には、何か不思議な感じがする不揃いな石が一定間隔で置かれていて、この室内自体にも先ほど感じた得体の知れない気が満ちていた。
この竜の石像の形……。
どこかで見たことがある気がする。
俺は記憶の中を探り、そして気が付いた。
あの終末の日。
世界を滅亡に導くあのふたつの存在のうちの片割れの竜のようなものとどことなく輪郭がそっくりだった。
『……よくぞ、我のもとに来た。異世界より訪れし勇者たちよ。我が≪魔界の神≫グラヴァクである。実体を失い、こうして石くれにしがみ付いてようやく消滅を免れている様な惨めな姿を晒すのは我としても耐えがたきことだが、これもやむなきこと……』
竜の石像の目が禍々しく輝き、室内の重苦しい雰囲気がいっそう増した。
実体を失っているということだったが、この迫ってくるような圧力、そして存在感はこれまで出会った他の神様たちよりも圧倒的に上だ。
俺は正直、今、ビビってる。
亀倉たちはそうでもないようだが、体の内側から震えが起こりそうなのを必死でこらえている。
自分からやって来ておいておかしなことだが、この部屋に一歩足を踏み入れた瞬間から、できる事ならこの場から逃げ出したい気持ちになった。
『そなたがユウヤ。そこの二人を除いたあとの者たちが地球から来たコゴロウと同郷の者であるな……。なるほど、たしかにコゴロウと同様に女神リーザの関与の痕跡を感じる』
女神リーザの関与。
それはおそらく廃墟都市リーザイアの地下最深部にあった召喚の儀式に用いるガチャガチャのことだろうか。
それとも違う何かを意味しているのか。
『……お前たちの願いは、元にいた地球に帰りたいというものであったな』
「はい。俺たちが地球に戻れるようにどうか、そのお力をお貸しください。どうか、何卒……、この通りでございます」
亀倉がその場で土下座して、床に額を擦り付けたまま、竜の石像に乞う。
『神々の思惑。人の欲。そうしたものに運命を翻弄され、何とも哀れな者たちよ。我としては、お前たちに深く同情し、情けをかけてやっても良い心持ではある』
「では、願いをお聞き届けくださるのですか?」
『慌てるでない。皆、落ち着いて、我の言う事に耳を傾け、そして理解するのだ。今から語ることは人間の
「ほ、本当ですか!」
亀倉とヒマリの表情がにわかに明るくなる。
『……だが、これはあくまでも物理的にはという話だ。かつてこの銀河、いや全宇宙には≪真なる自由≫が満ち溢れていた。神や人、物。ありとあらゆる存在が、自由に星々の間を行き来することができたのだ。だが、今や宇宙は、神々からなる様々な団体や組織によって作られ、一方的に押し付けられている秩序、規律などによりがんじがらめにされてしまっているのが現状なのだ。このニーベラントから地球に生物を送り込むことも、そうした理不尽なルールにより禁じられてしまっている』
「そんな……。でも、私たちはこうしてこの異世界にやって来た。来ることができるなら、戻ることだって可能ではないのですか? お願いします。私も、どうしても元の世界に帰りたいんです」
ヒマリが悲痛な面持ちで≪魔界の神≫グラヴァクの宿る竜の石像に訴えかける。
『我としてもなんとか力を貸してやりたいと思うのだが、おそらく無理矢理、お前たちを地球に送り届けたところで、発見され次第、環境を破壊する外来種として、すぐに
場に重苦しい雰囲気が立ち込め、皆の表情が曇る。
「……≪魔界の神≫グラヴァク様にお尋ねしたきことがございます。私はマルフレーサ。ここにいるユウヤに乞われ、行動を共にしている者です。発言をお認め頂けますでしょうか?」
『隠者の森に住まう偉大なる賢者マルフレーサだな。お前の名は、コゴロウより聞き及んでいる。発言を許そう』
「ありがたき幸せ。では、お許しを得たところで、率直にお尋ねします。ここにいる者たちは全員、地球から女神リーザにより強引な手段で連れてこられたという話ですが、そこにいるコゴロウ殿、もっと前に遡れば、ヴァンダン王国の祖であるメアリー・ヴァンダーンなど過去に何人かの異世界勇者がこの世界を訪れております。さきほどのグラヴァク様の話では、星々の間の生物の移動は禁じられているという事でしたが、なにゆえ女神リーザはそのことによるとがめを受けないのでしょうか。そして、もし、女神リーザが行った方法さえ判明したならば、それを再現し、この者らを故郷の世界に戻してやることも可能なのではないでしょうか?」
『……口惜しいが、女神リーザの真似事はおそらく如何なる神であっても、そうやすやすとは行うことはできまい。あれは、神々の中でも傑出した天才。そして類まれなる異能神でもある。コゴロウの体を隈なく調べてみたが、かつてこの太陽系一の知恵者と呼ばれていた我にも異世界勇者と呼ばれる強化人間とも言うべき存在を創り出す方法はついぞわからなかった。それに、地球には、銀河連盟や星神会議など宇宙でも主だった組織の本部がある。そのおひざ元である彼の地より、これほどの数の地球人を一度に攫ってくる方法など少なくともこの我には思いつかぬ』
「では、やはりこの者たちの帰還は叶わぬと?」
『……そうは断言していない。
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。それって何年かかるのって話ですよね。神さまたちみたいに俺たちの寿命って長くないんですよ。それに戻れても、殺されるみたいな話を、さっきしてませんでしたっけ?」
俺はつい敬語を忘れて、ツッコんでしまった。
なんで、俺たちが地球に帰るお願いをしてるのに、宇宙を巻き込んだ神々の勢力争いの話が出てくるんだ?
なんか、この神さまも駄目そうな気配が漂ってきたぞ。
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