第237話 領域の外へ
「ちょっと、みんな、大丈夫?」
俺は慌てて、妖精の爺さんに駆け寄り、声をかけた。
だが、返事を返す余裕が無いのか、妖精の爺さんは頭を抱え、青ざめた顔で小刻みに震えていた。
お婆さんも家来の方々も同様だ。
そして、にわかに
しかも、ただの亀裂じゃない。
見ようによっては、あの世界の破滅の瞬間の大地のようだとも言えなくもない。
「……頭が割れるようだ。言葉が、風景が、……吾輩の頭に流れ込んでくる。苦しい……」
見ると、本当に妖精の爺さんの頭がひび割れていた。
部屋の内部と同様に光る亀裂が頭や背中、いや全身のあちこちに現れ始めた。
婆さんや家来の人たちも同様だ。
何がどうなっているのか皆目見当もつかないでいると、やがて揺れは
だが、部屋の内部や妖精の爺さんたちに刻まれた光る謎の亀裂はそのままで、なんとも異様な光景になってしまった。
妖精の爺さんは、大広間の畳の上に四つん這いになり、呆然としている。
「お爺さん、大丈夫? 相当に苦しそうだったけど……。それに、そのヒビみたいなやつ、痛くないの?」
「……吾輩のことはもう大丈夫だ。そんなことより、ユウヤ、自分のステータスを確認してみろ」
妖精の爺さんが放心したような顔のまま、ぽつりと呟いた。
よく見ると顔にも細かいひび割れが起きていて、少しずつ表皮がパラパラと剥がれ落ちている。
どう考えても大丈夫じゃない。
だが、とりあえず俺は妖精の爺さんの言葉に従って、ステータスウィンドウをオープンにしてみた。
名前:
職業:セーブポインター
レベル:100
HP:3258/3258
MP:2533/2533
(セーブ特典ポイント:59)
能力:ちから157、たいりょく158、すばやさ158、まりょく140、きようさ159、うんのよさ165
スキル:セーブポイント
≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。
スキル:場所セーブ
≪効果≫任意の場所を三か所までセーブできる。「場所セーブ」を使うと≪おもいでのばしょ≫の一番から三番まで指定してセーブが可能。セーブした場所はロードすることによって、いつでも訪れることができる。仲間など、視野内の認識可能な複数対象にも効果を及ぼすことができる。使用回数制限なしだが、対象人数に応じてMPを消費する。
解放コマンド:どうぐ
≪説明≫自らに占有権があるアイテムを≪どうぐ≫の中に収納できる。「コマンド、どうぐ」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。所持数制限なし。使用回数制限なし。
解放コマンド:しらべる
≪説明≫対象のアイテムがどのようなものなのか調べることができる。「コマンド、しらべる」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。使用回数制限なし。
解放コマンド:まほう
≪説明≫下記の≪まほう≫を使用できるようになる。対象を決め、その≪まほう≫を使用するという確固たる意志を持つことで発動可能。各≪まほう≫に応じたMPを消費する。
≪まほう≫一覧
≪
解放コマンド:とびら
≪説明≫この世界に存在する「有りとあらゆる扉」を開けることができる。いかなる鍵や封印も無効。
解放コマンド:つよさ
≪説明≫対象の強さ(レベル、ステータスなど)を消費MPに応じて段階的に確認できる。ただし、確認できるのは自分だけで他者に開示などはできない。
簡易ステータス(消費MP1)
通常ステータス(消費MP10)
詳細ステータス(消費MP30)
「開いたけど、別に、どうもなって……ない?」
スキルも魔法も、新たに習得したものはない。
一見すると特に大きな変化はなかったように思われ、俺はすぐにピンとこなかったのだが、よく見ればありえないことが起こっていた。
「レベル……100……」
俺はあまりの出来事にそれ以上の言葉を発することができなかった。
人間のレベルの上限は、99。
俺の中では、もうすっかりそれが常識になっていたのだ。
イチロウやアレサンドラからこれまでに得た情報を総合すると、この異世界の人間には≪成長限界≫というものがあり、≪
≪成長限界≫には大きな個人差があり、イチロウの場合はそれが、たしか74だと語っていたように覚えている。
それを邪眼刀に宿るジブ・ニグゥラという神に、人間の限界の最大値である99まで引き上げてもらったという話だったはずだ。
イチロウの話が嘘だったり、あるいは間違いであった可能性もある。
だが、そうでないなら、俺の……、セーブポインターの≪成長限界≫はいったいいくつなのだろう。
何気なく、あっさり三ケタに突入してしまって、正直、困惑している。
例えるならば、まるで首輪に付いたリードが外れていることにふいに気が付いて、戸惑っている飼い犬の様な気分だ。
行ってはいけないと思っている領域に、突然、行く自由を与えられたような不安と期待が入り混じったような複雑な気持ち。
「ねえ、なんでステータスを確認してみろって言ったのさ。 何か、知ってるの?」
妖精の爺さんはひどく困惑したような表情で、俺のステータスを眺めたまま、返事をしようとはしない。
「ねえ、黙ってないで何か言ってよ。いきなり苦しみだしたり、
「……もう少し時間をくれぬか。吾輩もこの状況を把握しかねている。頭の中を整理する時間が必要だ」
「そうなんだ……。わかった。ひとまず、これから魔王に会わなきゃいけないし、俺はもう行くよ。お爺さんが、話をする気になるのを待つ」
「ああ、すまんな」
婆さんや家来の人たちも何か言いたげな様子だったが、なぜか妖精の爺さんの顔をしきりに気にしており、口をつぐんでしまっている。
今は何も語ってはくれなさそうだった。
確かなことは、俺にとって予想外のこのレベルアップの瞬間に、彼らの身にも間違いなく何かが起こったのだということだ。
態度もどこかよそよそしくなったし、それに何かを隠している様な気がする。
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