第234話 お尋ね者は北へ

翌朝、早朝に俺たちは城を出た。


城内はもはや大勢の兵士と金で雇われたと思われる王都の冒険者たちによって厳戒態勢が敷かれていたが、レベル99となり、圧倒的な強さとなった俺にとってはさしたる問題もなかった。


その中にはギルド長のグラッドもいたが、さすがに遠巻きに見て実力差を理解したのか、積極的に戦闘を仕掛けてくることはなかった。


仰げば尊しっていうのかな。

やって来たばかりのころ、俺にこの異世界で生きていくための最低限の力を授けてくれた恩人だ。

性格には難ありだったけど、できればケガはさせたくなかったから助かった。


単身で突破して城外に出ると、比較的安全そうだった王都近郊の森の中でスキル≪場所セーブ≫を使い、その場所と王城地下の神殿のようだった宝物庫を行き来したのだ。


≪場所セーブ≫は、≪おもいでのばしょ≫として三つの地点までセーブすることができる。

そして、セーブしたその場所に一瞬で移動できるという便利スキルだ。

誰かに身体を取り押さえられているような状況でなければ、視野内の仲間も一緒に移動できる。


俺は、地下宝物庫と王都近郊の森をこのスキルを使って行き来し、亀倉たちを場外に脱出させたのだ。




亀倉と共に城を脱出してきたのは、イチロウを除く全員だ。

人質になっていたパウル四世とヤーガ婆さんも置いてきた。


人質二人を世話しながら旅をするのは大変だし、何よりイチロウが反対しそうだったので、これは仕方のない判断だった。


最後の最後まで迷っていたサユリは、イチロウと二人で残るのだけは死んでも嫌だということだったので、とりあえず一緒に連れてきた。


こうして無事に脱出成功となったわけだが、大変なのはこれからだ。


何せこの国の王を敵に回してしまったのだ。

おそらく俺たちはお尋ね者として手配されることになるだろうし、追手の兵も差し向けられるのは間違いなさそうだった。


「本当に城の外に出られたな。こんなに簡単に脱出できるとは思わなかったから、拍子抜けしたぜ。それにしても、瞬間移動までできるなんて、すごい奴だな、お前は……」


亀倉が安堵の表情で話しかけてきた。


「安心するのはまだ早いよ。たぶん、あの悪人面の国王のことだから追手を差し向けてくるのはまず間違いないし、それにこの世界には、俺たちがいた地球には存在しなかった魔物とか魔人とかがいて、危険なんだ」


「まあ、魔王とかいうのがいるくらいだから、そんな感じなのかとは思ってたが……。俺たちのステータスやそこにある≪職業≫なんかの種類見ても、テレビゲームみたいだしな」


「まあ、俺はあんまりそういうゲームやらないから詳しくはわからないけど、剣と魔法、それにモンスターとか、よくあるファンタジー系のラノベみたいな感じだとは思うよ」


「ねえ、追手が来るかもしれないんでしょ。こんなところでのんびりしていていいの?」


サユリが不安げな表情で尋ねてきた。


「そうだね。あと俺たちの格好だとすごく目立つからどこかで服とか確保しなきゃね。一旦、王都から離れた場所に避難して、そこで準備を整えよう。まだ、それほど俺たちの情報が出回るその前にね」




俺は、一山をあっという間に越えられる自身の移動能力と≪場所セーブ≫を交互に使い、亀倉たちをひとまず王都の南にある港湾都市ハーフェンに移した。


北の魔王領にいる魔王に会いに行くのに、なぜ向かった先が、真逆の方向のハーフェンなのかについては理由がある。


王都から遠く離れたハーフェンに俺たちの情報が伝わるにはある程度の時間がかかると思われたし、ここで身支度を整えてから、魔王領に向かう準備をするのが最善だと考えたのだ。


北に行くと見せかけて、南。


イチロウやパウル四世たちは、俺たちが魔王に会いに行く目的なのは知っているので追っ手も北に向かわせるはずだという読みもあった。


ここで亀倉たちを少し鍛えて、そのうちパウル四世たちが俺たちの居場所が南にあるということに気が付いた頃、北に向かうのはどうだろうと今のところ思っている。


あの魔王は、悪人ではなかった印象だが、ヴァンダン王国の女王の孫マリーを人質に取ろうとしたことからも一筋縄ではいかない人物だった。

元の世界に戻してくださいとお願いしても、すんなり目的が達成できるとは思えず、それなりの準備が必要だと思ったのだ。


魔王を倒すだけなら、俺一人で行けば済む話だが、今回は全員を無事送り届けた他に、交渉して魔王にこちらの願いごとを聞いてもらわなければならない。

現時点では未熟な亀倉たちをそれなりの戦力に鍛え上げておかないと、同じような失敗を繰り返してしまう可能性がある。


亀倉たちがこの短期間でどれだけ強くなれるかわからないが、魔王がフェアな交渉に値する相手と見做してくれるぐらいの最低限の強さを身に着けさせるのが理想だと思われた。


そして、何より、この地は比較的に長く滞在したハーフェンだ。


土地勘があるので、潜伏先を見つけるのも、学生服や亀倉たちの衣類などを金に換えるのも比較的簡単だ。


この街で異世界風の服装や装備を整えた俺は、≪隠者の森≫に向かい、そこに住むマルフレーサを訪れた。


これは計画を成功させるうえで、必要な協力者を得る目的があった。

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