第211話 希望の船
ユウヤを名乗る若き博徒との出会いから二日後のこと。
≪賭博の神≫ペイロンは、機上の人となっていた。
ギャンブルを愛する神ならば誰もが憧れる夢のカジノ≪レ・デルニエ・エスポワ≫に向かう
この星船のチケットを用意してくれたのは、ある大恩人だ。
その大恩人は、俺の手首にあった≪監神の腕輪≫も外してくれて、しかもこんなVIP待遇のチケットまで手配してくれた。
すべてを賭けた大勝負の前に考えていたのは、自分のこれまでの
思い出されるのは、すべての発端。
ニーベラントの支配神リーザの伴侶にしてギャンブル神界の新星と周囲に期待され、羨望の眼差しを一身に浴びていた自分が、堕ちるところまで堕ち続けて、今や破滅寸前の崖っぷちにまで追い込まれてしまっている。
リーザとの破局。そしてその後、厄介になっていたターニヤにも愛想をつかされ、居場所を失った俺は、ニーベラントを飛び出し、そこからこの銀河中の賭場を巡り歩くようになった。
あの頃の俺は、どこまでいっても女神リーザの元亭主に過ぎないという周囲の評価を覆したくて躍起になっていた。
最初はどの賭場でも連戦連勝。向かうところ敵無しの状態だった。
一級賭博神である俺は、イカサマ禁止が当たり前になってしまっている現在の神々のギャンブル環境にあっても知識と戦略、そして生来の強運のみで十分に勝ち続けられたのだ。
しかし、ある時から急に不運に付きまとわれるようになる。
確率上、在り得ないようなことが頻繁に起こるようになり、小さく勝ち続けて、大きく負けるようなことがなぜか増えた。
借金に次ぐ、借金。
その負けが
手持ちの魂魄が
ニーベラントにいる知り合いの神々には、今の窮状を知られたくなかったために相談できなかった。
「あいつは終わった」と蔑まれたくなかったのだ。
銀河連盟の法改正により、多重債務者になった自分は、神々によって営まれている真っ当な賭場には出入りできなくなっており、一発逆転の大勝負に出ることもできないでいた。
もはや恥を忍んで破産を申請するか、ターニヤの部屋から極秘で持ち出した≪
この≪
その権能の中には、管轄する世界に生きる人間たちの魂魄を自由にできるというものもあり、正式な
だが、それを行えば、ニーベラントの地上では多数の原因不明の死者が発生し、自分が不正に≪
人間の魂が持つ未知の可能性とエネルギーの存在が周知の事実となった今、それらの不正取得は、厳罰だ。
全銀河に秩序がもたらされ、厳粛な法の支配を受けることになった今の神々の社会で、このような犯罪を犯すことは、すなわち身の破滅を意味するのだ。
この≪
まだ賭場に出入りできた頃、こっそり山間部の集落八十人分の魂を奪い、辺境のカジノで賭けの元手にした時だ。
その時は見事に勝った。
やはり、破産を申請するしかないか。
破産して、高利貸しどもが営む地下の強制労働場の作業員になるしかないと覚悟を決めた、ちょうどその時、絶望の真っ只中にあった俺の前に救いの神は現れた。
「ペイロン君だね」
「あ、あなたは?」
「私は、ボォウ・ヤガー。君のことは何でも知っているよ。今はとてもつらい状況にあるが、凄腕のギャンブラーなんだってね」
「 ボォウ・ヤガー……? あっ、あの伝説の賭博神 ボォウ・ヤガーさんですか!? ギャンブル神界の黎明期、まだ賭博が賭博の醍醐味を失う前の時代のレジェンド……」
「そんな言い方は、
「いえ、そんな……。ボォウ・ヤガーさんは、俺たち博徒の憧れの存在です。銀河連盟の一斉取り締まりの荒波を乗り越え、今なお成功者でおられる。俺はあんたみたいになりたくて、今日まで頑張って来たんです」
「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるね」
「あの、ボォウ・ヤガーさん。俺の現状を知っているなら尚更ですけど、こんな落ちぶれた俺に何の用ですか?」
「私はね、君のような夢を追う若者が大好きなんだ。その若者が一度の失敗で
「支援? でも、俺の負債は、ボォウ・ヤガーさんが思っている様な額じゃないですよ。利子が重なって、とんでもない額になっている」
「君が抱えている負債の額も承知しているよ。その上で、君が債務を全部、帳消しにできるように私が手助けをするよ。君の力になりたいんだ」
「なぜ、見ず知らずの貴方がそこまで……」
「言っただろう。私は、夢を追う若者が大好きなんだと。だから、どうぞ、存分に夢を追い続けたまえ。私はその姿を心から応援するよ」
これが、俺と伝説のギャンブラー神ボォウ・ヤガーの出会いだった。
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