第203話 代償
ジブ・ニグゥラが消滅したからだろうか、
「あっ、やばい。ウォラ・ギネの傷を直さなくちゃ」
俺は急いで彼のもとに駆け寄り、そして≪
「……三大秘奥義のひとつ、確かに見せてもらったぞ。そして、見事な戦いであった」
ウォラ・ギネはかなり辛そうだったが、笑顔を作り、そして俺を称えてくれた。
邪眼刀でつけられた傷は、やはり普通の傷と様子が異なっていて、俺の≪
「ユウヤよ、もうだいぶ良くなった。儂のことより、まずはあの刀使いの身柄を確保しなくては……。逃げられてはさらなる犠牲者が出るやもしれん……」
俺としてはかなりボコボコにしたつもりだったから大丈夫だろうと思っていたが、ここはウォラ・ギネに従い、イチロウが吹っ飛んでいった方向に二人で向かうことにした。
駆けつけた俺は、地面に仰向けになり横たわるイチロウの姿を見て、思わず絶句してしまった。
下半身がすでにさきほどの邪眼刀のようになっており、少しずつ土埃となって風化し始めていた。
「ど、どうしたの……これ……」
「……邪眼刀に魂を売った代償さ」
イチロウには意識があり、力のない眼で夜空を見上げている。
「……私の本当の≪成長限界≫はレベル74だった。だから、君を越えたくて、魂の半分を邪眼刀に差しだしたんだ。だが、魂の半分を取り込まれてしまった影響だろうか、次第に浸食は進み、やがてあの刀と私はほとんど一心同体のようになってしまった。幻覚はひどくなり、毎夜、悪夢にうなされるようになった。恐ろしい力を持つ女に為す術もなく半殺しにされる夢だよ。何度も、何度も。やがて、その女の姿はユウヤ……君のものとなり、それによって膨れ上がった恐怖と憎悪でいつしか私は己を見失ってしまっていた……」
「魂を差し出す……。何でそんな馬鹿なことを?」
「すべては君に勝つためさ。私は、あのお方を失望させたくなかったんだ。この世で唯一、私の価値を認め、必要な人間だと言ってくださった。あの方こそ、私の希望の光……、ぐっ、……また人を失望させてしまった。私は……本当に駄目な人間だ」
イチロウの両の目からは涙がこぼれ、鼻水も流れていた。
少しずつイチロウの上半身も色を失っていき、崩れ始めた。
「ちょっと、待ってろ」
俺は慌てて駆け寄り、イチロウに≪
「……無駄だよ。わかるんだ。少しずつ自分が消えてなくなるということが……。くっ……どうだい、ユウヤ。…… 気分がいいだろう?自分にたてついた相手を
「まだ、そんなこと言ってるのか。そんな事より、あの邪眼刀は何だったんだ? 消える前に教えてくれ。世界の滅亡と何か関係があるのか? イチロウ、頼む」
「……断る。あの邪眼刀は私とあのお方だけの秘密。誰が、お前などに……」
「あのお方って誰だ。おい、聞こえているのか?答えろよ!」
「いい気味だ。……ようやくおまえのそんな顔を見ることができた」
イチロウは目を閉じ、そして動かなくなった。
イチロウの肉体が崩れていくのを呆然と見守った俺は、ウォラ・ギネと共にカルバランに与えられている俺の屋敷に戻ることにした。
ウォラ・ギネの傷はまだ完全に治療できていないし、夜明けも近い。
倒壊した建物の瓦礫が散乱している路地を進んでいると、突如、空一面がどす黒く、分厚い雲に覆われだした。
まるで夜明け頃から、深夜に時間が逆行したかのような異様な暗さになる。
そしてその黒い雲をキャンパスに見立てでもしたかのように、何か絵か文字のような何かがびっしりと妖しい光を発しながら浮かび上がった。
根拠は無いが、なぜかあのカルバランが持っていた証文に書かれていたおどろおどろしいフォントの文言やそこに記されていた意味不明の模様などを連想させた。
「ハアッ……グッゥ……」
傍らのウォラ・ギネが突然、胸を押さえて苦しみだした。
「どうしたの? 傷が痛むの?」
ウォラ・ギネの顔はひどく青ざめており、額にはたくさんの汗の玉が浮かんでいた。
返事はなく、そのまま地面に倒れ込んでしまう。
触れて回復呪文を使おうとしたが、その時――。
突然大地がガタンッと縦に一度、大きく揺れた。
そしてそのまま揺れはどんどん強くなり、俺でさえ
空の異様な状況と、大地震。
これはまるで、あの世界滅亡を引き起こした未曽有の天変地異があった日と同じじゃないか。
「なんでだよ。まだ300日近くあるはずだろ? なんで……」
ようやくウォラ・ギネを抱きかかえたが、呼吸は無く、≪理力≫はすでに失われていた。
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