第196話 迫る終末

魔王だけでなく周辺の国々への周知も怠らなかった。

リーザ教団大神官カルバランの名で各国に天変地異が起こる時期、内容などを知らせる書状を送り、それぞれの国でその危機に対する備えを行ってほしい旨を伝えた。

他国ではあまり類を見ない巨大宗教組織の長であるばかりか、強国ゼーフェルトで絶大な影響力を持つとされる人物としてカルバランの名は周辺国にも広く知れ渡っていて、その知名度を借りた形だ。

また、国教にはなっていなくてもリーザ教徒は各地におり、それぞれの国にもカルバランの影響力は多少は及ぶ。

そうした人物からの、何ら見返りを要求することもない善意の忠告のみにとどめた書状であれば、まったく無視されることもあるまいと考えたのだ。


協力を要請するような内容にしなかったのは、要らざる反発を生まないためだ。

すべての国の君主が女神リーザを信奉しているわけではないし、王国を快く思っていない国もたくさんあるようなのだ。

そんな状態で全ての君主間で危機的意識を共有し、連帯を持たせるには時間が無さすぎる。

こうして注意喚起にとどめて置けば、周辺国の動静も見ながらということになろうが、各々、何らかの対策を取ってくれるに違いない。




忙しくしてるとあっという間に月日が流れ、世界の破滅まで残り300日を切った。


そして、俺のこうした狙いは、見事に当たることとなる。

救世会議きゅうせいかいぎ≫で集まってくれた傑物たちの活動と国内外で十数万人は超えるというリーザ教徒たちの終末の到来を伝える布教活動、そして不安から来る市井の民や行商人たちの噂話などを通じて、俺が伝えたかった危機が広く多くの国の民が知ることになるのである。


だが不安は、不安を呼び、いつしか誰もがこの世界の終わりを本当のことだと信じるようになってしまうと、危機意識が高まる反面、絶望に囚われてしまったり、やけを起こすような人々が出てくるなどの悪影響も出始めた。


終末の日について語らない日は無く、各地にあるそれぞれの信じる神の祀られた場所には人の姿が溢れるようになり、地上にはかつてないほどに祈る声が満ちた。


何せはっきりと滅びの日がいつ来るのか明らかになっているのである。


俺がいた世界でもかつて1999年頃にノストラダムス騒動というものがあったそうであるが、その時もこのような感じだったのだろうか?


世界の滅亡を前にして、人々の行動は実に様々だった。

物資や食料を囲い込んだり、家の修繕と補強を慌てて行ったり。

生存の可能性を高めるべく地下に避難のための大穴を掘る者まで現れたそうだ。


その一方で、信仰心に篤く、善良な人々は祈り、悔い改める時間が増えたようだ。

神に許しを請い、救世ぐぜを願う。

そんな人々で王都の大聖堂や他の祈祷所などは溢れかえっているらしい。

こんな事態になっても変わらず商魂たくましいカルバランなどは、各種グッズの売り上げや寄付が急増でほくほく顔であった。


「大丈夫。この世界は滅びたりはしない。神々にはしっかりと依頼済みだ」


カルバランは、終末の恐怖など微塵も感じさせず、豪奢な造りの彼の別邸で、無垢な少年たちを愛でる日々を送り続けている。



各国の君主たちはこうした民の動きを無視できず、また自分たちも終末を恐ろしく思い始めたことから、天変地異から避難するための施設を設けたり、またそうした世界の滅亡を導こうとする者などが無いか、国内の取り締まりを強化し始めた。


そして何より力を入れざるを得なくなったのは治安の確保である。

世界が終わると信じて、自暴自棄になる者が増え、働くことを止めてしまったり、盗みや殺人などの犯罪が横行するようになってしまったのである。


ゼーフェルト王国でもこうした傾向は同様で、世界の破滅を防ぐためにやるべきことは概ねやったと確信していた俺は、午前中は≪救世の癒し手≫としての無償の医療行為に従事し、夜は王都の見回りなどをウォラ・ギネと二人で行うようになった。


もちろん世界滅亡の原因となるような怪しい人間がいないかどうか見張る目的もある。


あれから俺は、セーブ可能な日を四日消費し、レベルを区切り良く50にした。


最後のセーブをしたのはこの異世界に来てからちょうど100日目にあたるその日。


ぼうけんのしょ1 「世界を救う者たち(笑)」

→「浮気がばれて、フェナに泣かれる」


ステータスはこんな感じになった。



名前:雨之原うのはら優弥ゆうや

職業:セーブポインター

レベル:50

HP:1005/1005

MP:628/628

能力:ちから73、たいりょく73、すばやさ74、まりょく54、きようさ73、うんのよさ75

スキル:セーブポイント

≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。


スキル:場所セーブ

≪効果≫任意の場所を三か所までセーブできる。「場所セーブ」を使うと≪おもいでのばしょ≫の一番から三番まで指定してセーブが可能。セーブした場所はロードすることによって、いつでも訪れることができる。仲間など、視野内の認識可能な複数対象にも効果を及ぼすことができる。使用回数制限なしだが、対象人数に応じてMPを消費する。


解放コマンド:どうぐ

≪説明≫自らに占有権があるアイテムを≪どうぐ≫の中に収納できる。「コマンド、どうぐ」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。所持数制限なし。使用回数制限なし。


解放コマンド:しらべる

≪説明≫対象のアイテムがどのようなものなのか調べることができる。「コマンド、しらべる」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。使用回数制限なし。


解放コマンド:まほう

≪説明≫下記の≪まほう≫を使用できるようになる。対象を決め、その≪まほう≫を使用するという確固たる意志を持つことで発動可能。各≪まほう≫に応じたMPを消費する。

≪まほう≫一覧

回復ヒール≫(消費MP10)、≪透視シー・スルー≫(消費MP20)、≪聖結界パワーバリアー≫(消費MP50)、≪聖雷セイクリッドサンダー≫(消費MP50)


解放コマンド:とびら

≪説明≫この世界に存在する「有りとあらゆる扉」を開けることができる。いかなる鍵や封印も無効。


解放コマンド:つよさ

≪説明≫対象の強さ(レベル、ステータスなど)を消費MPに応じて段階的に確認できる。ただし、確認できるのは自分だけで他者に開示などはできない。

簡易ステータス(消費MP1)

通常ステータス(消費MP10)

詳細ステータス(消費MP30)



セーブ可能日を減らしたくないにもかかわらず、レベルを50にしたのは、万が一、あの魔王が俺の想像とは異なる行動を起こした際の抑止力としてだ。


ムソー流杖術を極めた今の俺なら、このレベルの能力値くらいあれば、その上がり幅から推測して、≪魔竜人≫になった魔王とも互角以上に戦える自信がある。


上がった能力値を眺めてみると、ちょっと驚かされたのがHPだ。

俺はてっきり999でカンストするんだろうなと予想していたのだが、あっさり四ケタに突入してしまった。

MPも600の大台に突入したし、やれることはだいぶ増えそうだ。


あと、自分のステータスにも少し関心が出てきたこともあって、セーブ特典ポイントを5消費して、コマンド「つよさ」を解放した。

これで相手の強さを確認すれば、戦うか、逃げるかの判断がしやすくなる。


ちなみに、交換できるスキルの一覧は以下のように変わった。


セーブ特典ポイント:9


人セーブ(使用回数制限なし):10ポイント

クラスチェンジ(条件達成済み):300ポイント

「はなす」解放:5ポイント

「そうび」解放:20ポイント


新たに一覧に表れたのは「そうび」だが、ちょっと効果は想像つきにくい。

セーブ特典ポイントも少なくなっちゃったし、当面は貯める方向になるだろう。


もっと一気にレベル増やしてみたい欲求にも駆られたが、もし今回、世界の破滅を止められなかったら取り返しのつかないことになってしまうので、セーブ可能日のこれ以上の消費は自重することにした。


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