第189話 神々の祭壇
≪
確かに色々な過去の情報を聞けるのはありがたいけど、今一番必要なのは、あのとんでもない天変地異を回避する方法だ。
女神リーザはやっぱり頼ることができないみたいだし、今のところ、他の≪
「おい、大丈夫か?」
ウォラ・ギネが声をかけてきて、みんなが俺のことを妙な顔で見ている。
「ああ、もう大丈夫。心配かけてごめんなさい。いきなり一人で話し始めたら、普通はビビるよね。半透明なじいさんは、もう消えちゃった。なんか、自分のことをデルガドっていう名前の大神官だと自己紹介してたけど、知ってる?」
「……いや、記憶には無いな」
「私も、ありません」
そうなんだ。
あんまり過去の大神官たちって尊敬されてないんだね。
「なんか、かなり昔の人で、リーザ教団の四代目とか五代目くらいの人だったみたいな話してたけど……」
「ユウヤよ。リーザ教団の歴史は長く、大神官の座に就いた人間もその中で数多くいる。よほどの実績があれば別だが、いちいちその全員を覚えてなどいられない。とくに私は、過去にどのような
カルバランは苦笑いを浮かべ、アーマディは「勉強不足ですいません」と頭を下げた。
司教になるための神学校時代には習ったかもしれないが、もう記憶には無いとのことで、自分に置き換えてみても、学校の試験のために一夜漬けで勉強した内容などはそのうちすぐに忘れてしまうものなと妙に納得してしまった。
覚えてないならしょうがない。
後継者に殺害されたなんて、結構ショッキングな事件だと思うけど、そのゾーラとかいうやつが上手く処理したのだろう。
「そんなことより、そのお前が見た幻覚からは何か有力な情報が得られたのか?」
カルバランにはすっかり幻覚だということにされてしまったようだ。
まあ、セーブポインター関連のことは、簡単には明かせないし、その方が都合がいい。
「うーん。とにかく女神リーザには頼れないということが再確認できたくらいだったな」
「そうか……。まあこの場所には多くの神器や素晴らしい力が宿った秘宝の類がたくさんある。そうした品々の放つ気に当てられたのだろう。予言や予知を行う霊能者の感性は繊細で、そういったものの影響を受けやすい。ユウヤにもそうした素質があるのだろう」
カルバランは勝手にそう解釈すると再びこの空間の奥の方にある祭壇へと向かった。
祭壇の向こう側の壁にはずらりと様々な姿の神像が立っていて、室内の薄暗さから余計にそれらが不気味なもののように俺には感じられた。
ただの石の像ではない。
何か得体の知れない力の残り香のようなものを感じる。
マルフレーサは何も感じないと言っていて、これも俺がセーブポインターであるがゆえの感覚なのであろうか。
「これは当教団が、この世界を去っていってしまった女神リーザの代わりとなってくれる神を探し、その結果、ようやく協力関係を結ぶことができた神たちの御神体だ。女神リーザに代わって、様々な加護や奇跡をこれまで多くもたらしてくれた」
「協力関係? なぜそのような回りくどい真似をする。いっそのこと教団の名前をその神の名に変えてしまえば話は早かったのではないか? 代理を頼まれる神たちも迷惑であろう」
マルフレーサが当然の疑問を口にした。
「それには止むに止まれぬ複雑な事情がある。王家はいまだこの世界に女神リーザが存在しているという確固たる立場をとっており、それを否定することは当教団との関係悪化につながってしまうのだ。しかも、そこのアーマディもそうだが、この国の民たちは誰一人としてその存在を疑っていない。女神不在の事実を知る者は、それと交信する力を有している我ら大神官だけだ」
「なるほどのう。急に教団のトップが、真実を明かし、宗旨替えを決めたら、それに従う者たちは大混乱に陥ってしまうであろうからな」
「それにここに立ち並んでいる神々には、女神リーザほどの万能なる力はない。左から順に、≪詐欺と賭博の神≫ペイロン、≪半ズボンが似合う少年を愛で守る神≫ヨタコーン、≪怒れる大地神≫ガンジュ、≪失せもの探しの神≫コリ、≪猛き火神≫ドラヌス、……ああ、めんどくさいな。以下省略だ」
以下省略って、ずいぶんと扱いがぞんざいだな……。
「とにかくこれらの神は、かつて女神リーザの眷属神であった者たちやこの世界に元から存在していた
「土着神?」
「ユウヤ、この世界に存在している神々は、大きく二つに分けられるのだ。女神リーザをはじめとする世界の外からやってきた外来神とこの世界にもともと住んでいた土着神たちだ。この世界はもともと、≪人間界≫、≪魔界≫、≪
「さすがは博識なマルフレーサ殿。説明する手間が省けました」
カルバランは、長話を嫌ったのか、拍手でマルフレーサの話を遮り、自分の話を続けた。
「とにかく、これらの神が秀でているのはその得意とする分野のみでその力も万能たる女神リーザには遠く及ばない。我らは、ある見返りを提示し、それと引き換えに力を貸してもらうという契約をこれらの神すべてと結んでいるのだ。ゆえに関係としては、対等と言っても良い。ユウヤ、私がここにお前たちを連れてきたのはある目的からだ。人間の力の及ばぬものであれば、直接、神々に尋ねた方が話が早い。しかもそれを私が行って、お前たちに説明する面倒を考えれば、共に話を聞く方が効率的だろう。どの道、現場に出て、災厄を防ぐのはお前たちの役目だ。私ではない」
呆れたらいいのか、感心したらいいのか。
世界の滅亡に関して、この場ではっきり、自分は何もしないと宣言したようなものだ。
でも、とにかく、神々に直接話を聞けるのは近道になるし、ありがたい。
「さあ、早速話を聞いてみよう。こうしたことは、女神リーザにかつて最も近く、元伴侶であったペイロン神が相応しかろう。おい、アーマディ。10人分程度の証文を出せ。祭壇に捧げるのだ」
命令されたアーマディが、手に抱えていた薄く横長の箱から、細い巻物を一本取り出し、封を解くとそれを祭壇の上に広げた。
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